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マイナススキル持ち四人が集まったら、なんかシナジー発揮して最強パーティーができた件  作者: 小鈴危一
3章

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“魔王”④



■■■■■■■■■■■■■■■■■■


「ゴルグ、前に出すぎるなっ! ピケとライザはもっと後退しろ! レダンは右だ、氷像のない方へ走れ!」


 魔王城、ボス部屋。

 そこで俺たちは、死力を尽くして戦っていた。


 ヘイト管理はすでに崩壊している。俺とゴルグが攻撃を叩き込む隙はもう残っておらず、ボスモンスターのドラゴンが狙うのは回復職(ヒーラー)であるライザ、それからピケとレダンだ。

 ライザに攻撃が集中すればあっという間にパーティーが崩壊するために、ピケとレダンにもヘイトを分散させ、苦境を誤魔化している状態だった。

 もちろん、こんなその場しのぎがいつまでも続くわけがない。


 四天王や冒険者の姿をとる攻撃パターンは、それほど問題なかった。このドラゴン形態になってからも、序盤はうまくいっていた。

 狂い始めたのは、奴があの闇ブレスを吐き始めてからだ。


 威力が尋常ではないほど高く、範囲も広すぎる。

 ただガードした程度では受け切れたとは言えず、立ち回りによって避けることすらもできない。

 ブレスを受けた者の背後に安地が発生することはわかっていたが、盾役の負担があまりに重すぎた。

 俺もゴルグも、武器スキルによる防御ができないのだ。


 俺は【剣術】スキルを持っておらず、ゴルグの【鎚術】には防御用の技がない。

 そのため、半端なガードでブレスを正面から受けざるをえず、貫通ダメージ回復のためにライザが治癒(ヒール)を唱える頻度は増えていった。


 俺が“パリィ”を使えれば、どれほどよかっただろう。


 ドラゴンの攻撃は、これ以上ないほどに激しさを増している。

 ここまで、奴にはかなりのダメージを刻んだ。

 もうあと少しなのだ。

 あと少しが、届かない。


「っ……!?」


 その時、俺は気づいた。

 全員のHPが減っている。にもかかわらず、いつまで経っても治癒(ヒール)が飛んでこない。

 俺は叫ぶ。


「ライザ!!」

「ごめんなさい、MPが切れたわっ!」


 返ってきたのは、絶望的な答えだった。

 ライザが滅多に見せない、焦った様子で叫ぶ。


「でも、MP回復ポーションはまだあるわ! タイミングを見て…………あっ」


 その時、ライザが呆けたような声を漏らした。

 ドラゴンが、氷の湖上に降り立っていた。

 その首が引かれ、胸郭が膨らみ始める。

 それはすでに、何度も見たモーションだった。

 俺は悟る。

 ――――このブレスは、耐えられない。


「……なんじゃ、ここまでか」


 つまらなそうに呟き、ゴルグがハンマーを下ろした。


「なんともあっけないのぉ。冒険者の最期なぞこんなものか」

「悪くはない」


 レダンもまた、呟いて弓を下ろす。


「ドラゴンと相対できたのだ。冒険者として本望だ」

「……ごめんなさい」


 ライザだけは、悔やむようにうつむいていた。

 ピケも思い詰めた表情で、何も言葉を発しない。


 俺は、そんな仲間たちの様子を見回す。

 そして、いつも浮かべがちだった、皮肉っぽい笑みとともに言う。


「何言ってんだよ、お前ら。やることあるんだろ? この冒険が終わってからも」


 ドラゴンに向き直り、その姿を真正面から捉える。


「無事に帰れよな」


 俺は床を蹴った。

 鍛え上げたAGI(敏捷)を頼りに、ドラゴンとの距離をぐんぐんと詰めていく。


「ヒューゴっ!!」


 ピケの叫び声が、背中に追いついた。だが止まらない。

 ドラゴンが、その顎を大きく開く。


 あの闇ブレスは、喰らった者の背後に扇状の安地を形成する。

 だから至近距離で受けてしまえば、パーティーメンバーの全員をその攻撃範囲から外すことが可能だ。

 たとえ、盾役のHPがゼロになるとしても。


「……」


 だが――――俺はまだ、諦めていなかった。

 ずっとずっと、疑問に思っていた。


 俺が唯一持つスキル、【残心】。

 武器スキルを使った直後に、一定時間の無敵状態を発生させる。

 かなり珍しいスキルだ。所有者数だけでなく、その効果も。

 他のスキルの所有を前提とするスキルは、掛け値なしにこれだけなのだ。

 だが……本当にそんなことがあるのだろうか?


 ダンジョンはバランスがとれている。

 それは、人間が持つスキルにも同じことが言える。

 たとえば【弓術】と【MP増強】のような、明らかに噛み合わないスキル同士を持って生まれる者はいない。

 一見そう思える組み合わせでも、すべてを生かせる職種(ジョブ)や装備が、何かしらはあるものなのだ。

 ならば――――俺はなんなのか。


『ゴァァ――――ッ!!』


 闇色のブレスが吐き出される。

 俺は、すでに剣を引き絞っていた。


 【剣術】スキルの技は、すべて頭に入っている。

 名前も、効果も、習得レベルも――――その動きでさえ。

 自分にこれさえあればと、これまでに何度も何度も、(こいねが)ったものであるから。


「……最後なんだ」


 記憶の中にある剣士の動きをなぞるように、俺は剣を引き絞る。


「俺にも――――この先を見せてくれよッ!!」


 叫びとともに、俺は迫り来るブレスに向け、剣を強く突き出した。

 それは【剣術】スキルの一つ、“強撃”とまったく同じ動きだった。

 俺の悪あがきをあざ笑うかのように、視界が闇に覆われる。


 いや――――覆われていない。


 剣先がブレスを切り裂くように、闇の空白地帯を作っていた。

 ブレスの特性にしたがい、俺の後ろに安地が形成されているのだ。


「……っ!」


 俺はまだ、生きていた。

 HPは、わずかにも減っていない。

 どれだけ後退しても、ガードしても発生していたダメージが――――今はまったくない。


「……ははっ」


 ブレスを喰らう寸前。

 “強撃”の真似事を放った直後。

 俺のステータス画面に、バフのアイコンが一つ点灯していた。

 人間が仁王立ちし、あらゆる攻撃を跳ね返している図柄のアイコン。

 名前は、見なくてもわかった。

 ――――《無敵状態》。


「なんだよ」


 俺は呟く。


「もっと早く、試せばよかった」


 ブレスが止み、暗黒が晴れる。

 俺は再び駆け出した。


 もう【剣術】スキルの技を再現する余裕はない。

 ただ、型も何もなく剣を振り上げる。


「不格好で悪いな」


 ドラゴンの巨大な頭を(くぐ)り、さらに踏み込む。


「――――これが俺だ」


 そして――――勢いのままに、黒い竜の胸元を切り裂いた。

 わずかなエフェクトが散る。

 ダメージとしては、些細なものだっただろう。

 だが、それで十分だった。


『グォォ……』


 ドラゴンは、呻き声とともに一瞬動きを止めた。

 後ろ肢でフラフラと後退したかと思えば、やがて消耗しきったかのようにうなだれる。


『――――罪人デハ、ナカッタヨウダナ。人間ヨ……』


 ドラゴンが語り始める。

 それは明らかに、終わりの演出だった。


『ソレデ、ヨイ……忘レルナ』


 漆黒の竜が、俺たちをまっすぐに見据える。


『期待ヲ、信頼ヲ、愛ヲ、心ヲ――――裏切ルコトナク、選ブノダ』


 そんな意味ありげな言葉を残して――――魔王城の主たるドラゴンは、壮大なエフェクトとともに砕け散った。

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