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マイナススキル持ち四人が集まったら、なんかシナジー発揮して最強パーティーができた件  作者: 小鈴危一
3章

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“トロメーア”①



□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 十五層に降りると、魔王城の内装はさらに城らしくなった。

 床には絨毯が敷かれ、左右には装飾の施された立派な柱が立ち並んでいる。天井からはシャンデリアが垂れ、壁には額縁まで掛かっていた。

 ただし、中の絵はすべて黒一色で塗りつぶされていたが。


「……さて。そろそろ行くか」


 セーフポイントから出た俺は、軽く伸びをしながら言った。

 皆の間から声が上がる。


「はい! 次は三体目ですね!」

「ボス部屋のすぐ近くに毎回セーフポイントがあるのはありがたいわね」

「別に休まなくてもいいくらいだけどねー。四天王、大して強くもないし」

「まあそうだが、一応な」


 俺は苦笑して言う。

 確かに連戦でも問題なさそうだったが、せっかくセーフポイントが設置されているのに、休まないのはもったいない気がした。


 俺たちは魔王城の廊下を歩いて、突き当たりにそびえる巨大な扉の前に立つ。

 十四層の扉は古ぼけてみすぼらしくも見えたが、これはまったくそんな様子ではない。

 金属の装飾が丁寧に施され、木材も新しいようだった。


「……なんだか、いよいよデーモン系がボスの居城系ダンジョンっぽくなってきたね」


 テトが呟くと、ココルが答える。


「そうですね……魔王は、やっぱりデーモン系のモンスターなんでしょうか?」

「でも、それならこの階層から下はどうなるのかしらね」


 メリナがやや眉をひそめて言う。


「十三層から十四層、それから十五層と、一層降りるごとに内装が大きく変わっているけど、もう十分城っぽく見えるわ。これからもっと豪華になるのかしら? あまり想像できないけど……」

「……確かにな」


 一般的な居城系ダンジョンの内装は、せいぜいこのくらいだ。

 これ以上に華美な例はあまり知らない。


 俺は言う。


「まあ、そこは実際に降りて確かめてみるしかないだろう……。それじゃあ行くぞ」


 巨大な扉を強く押す。

 ダンジョンの外であればとても一人では開けられないような扉だが、それは十四層の時と同じように、軋んだ音を立てながら勝手に内側へ開き始めた。


「……」


 十分に開いたタイミングで、俺たちは無言のまま中に踏み入る。


 部屋の内装は、外とさほど変わらない。十四層と同じだ。

 だが、決定的に異なる点が一つあった。


「……へー」


 テトがわずかに笑みを浮かべて呟く。


「今度の四天王は、ずいぶん派手なやつだね」


 そいつは扉が開き始めた時から、部屋の最奥に堂々と立ちはだかっていた。

 山羊(やぎ)にも似た顔と角。火属性なのか、その全身は赤い毛皮で覆われている。背中から伸びるのは同色の二枚の翼。(ひづめ)のついた二本の脚で直立しており、その立ち姿は見上げるほどに巨大だ。目前の床には波打つ剣身を持つ直剣が突き立てられ、その柄頭に人間のような五指を持った両手を添えている。


 翼が生えているのは少々珍しいものの、よくいるデーモン系モンスターといった姿形だった。

 だが。


「……ただのデーモンではなさそうだな」


 そいつの周囲には、すでに赤い炎がメラメラと燃え盛っている。


『――――ある時、我が火種を撒いた』


 その時、部屋に声が響いた。

 赤いデーモンが、わずかに顔を上げる。


『すると、人々の間に猜疑の炎が燃え上がり、暗い不和がもたらされた』


「とりあえず、火属性ではあるようね」


 演出が始まる中、メリナが呟く。


「これで違っていたら驚くけど」


『人々は互いに相争うようになった。生まれた地に、肌の色に、有する文化に、信じる神の教えに違いを見出し、かつての同胞を敵と見なして害するようになった』


「まあ、属性は火で間違いないだろう」


 俺は答えるように言う。


「ケルベロスは氷ブレスを使ってきたし、フライロードも光属性魔法が効いていたから、おそらく闇属性だった。少なくとも、色は素直に属性を表していると考えていいんじゃないか」


 ただ、何らかの特殊攻撃は持っているだろう。

 演出は続く。


『少なき者は虐げられた。異邦の者は迫害された。理解の及ばぬ者は敵であり、あらゆる暴力が許された。報復が起こり、更なる報復が起こり、暴力は瞬く間に膨れ上がった。終わらぬ争いの連鎖に、人々は次第に疲れ果てていった』


 テトが首を傾げて言う。


「これ、今度は何がモチーフのモンスターなんだろ? いじめ?」

「いえ、たぶんこれは……」


 答えかけたココルの声に、デーモンの声が被さる。


『それにもかかわらず、人間は――――未だ、希望の光を絶やしていない』


「……戦争、か?」


 俺はココルに訊ねる。


「聖典に書かれているっていう、あの大規模な戦乱のことじゃないのか?」

「あー、争いって言ってるもんね」

「いえ……たぶん、戦争ではないです」


 ココルは静かに答える。


『どこまで足掻くか、人間よ。よもや、すべての災厄の根源を見つけ出すとは』


「大きな争いには違いないんですけど、戦争っていうのは異なる共同体同士が起こすものだけを指してまして……同じ共同体の人々が争う場合は、確か別の呼び方がされてました」

「別の呼び方って?」

「ええとぉ……なんでしたっけ? 確か、そのまんまの言葉だった気がするんですけど……」

「ええ、何それ……」


 照れたように笑うココルに、テトが呆れ気味の声を上げる。


『しかし、それも無意味なこと。その剣は、魔王には届かぬ。生死を共にする仲間とすら反目し、孤軍となってただ朽ち果てるのみ』


「……話している間に、本人が答えを言いそうね」

「ああ」


 メリナの言葉にうなずいて、俺は剣を抜く。


「もう、演出も終わるな」


 声が、一際大きく響く。


『四天王第三の円環にして第二の騎士、内乱の“トロメーア”』


 赤いデーモンが、床から波打つ直剣を引き抜き、右手に構えた。

 その周囲を取り巻く炎が、一層激しく燃え上がる。


『この先へ進まんとする者は、一切の希望を捨てよ』


 最後の台詞と同時に、デーモンの上方に文字列が出現する。


〈レッド・バフォメット・ユニオンディバイダー“トロメーア”〉


「バフォメット、か……」


 ただのデーモンではないと思ったが、やはり種族名から違うようだった。

 翼を持ったデーモンすべてをそう呼ぶのだとしたら、もしかすると他のダンジョンにも似たようなのが出現するのかもしれない。


 ただし……“トロメーア”という固有名まで持つのは、きっとこいつだけだろうが。

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