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マイナススキル持ち四人が集まったら、なんかシナジー発揮して最強パーティーができた件  作者: 小鈴危一
3章

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67/92

“カイーナ”①



■■■■■■■■■■■■■■■■■■


「……なんか、だんだん城っぽくなってきたよな」


 魔王城、十三層。

 見つけた安全地帯(セーフポイント)で休息をとっていた俺は、壁や天井を見回しながら呟いた。


 初めは、洞窟のような岩ばかりの内装だった。

 しかしそれらは階層を下るにしたがって次第に整っていき、今では床は石畳、壁もかなり平滑に近くなって、ぽつぽつと燭台まで見られるようになってきた。

 もう洞窟というよりは、地下牢系のダンジョンになっている。この先に進めば、さらに城らしくなるのだろうか。


「難易度も妙に高いし、変なダンジョンだな」


 俺はまた呟くが、どこからも誰からも反応は返ってこない。

 セーフポイント内を見回す。

 パーティーメンバーは、ちゃんとそろっていた。ピケはぼーっと宙空を眺め、ゴルグは食料アイテムを噛み千切っている。ライザはニコニコしながらアイテム整理、レダンは目を閉じ、精神集中をしているようだった。

 まるで俺の声など聞こえなかったかのように、皆各々適当に過ごしている。


 俺はイラっとする。

 本当に、仲間とコミュニケーションをとろうという気が欠片も感じられない。

 別に俺に人望がないわけではなく、こいつらは常に、誰に対してもこんな感じだった。協調性もクソもない連中だ。


 実力のある冒険者はだいたい一癖も二癖もあるものだが、こいつらは度が過ぎている。

 この『星狩(ほしかり)』は、厄介者の寄せ集めのようなパーティーだった。

 まあもっとも……俺も人のことを言えるかというと微妙だ。こいつらと同じように、他のパーティーを追い出されたことは何度もある。


 俺は溜息をつくと、座ったまま声を張り上げる。


「おーい変人ども、そろそろ自分の世界から帰ってこい」


 皆が(おっ)(くう)そうに顔を上げた。

 俺は続けて問いかける。


「アイテムが減ったやつはいるか? 俺はまだ余裕があるが」

「……だいじょうぶ」

「不要じゃ」

「足りてるわ~」


 各々返答が返ってくる。

 よし、と内心で呟き、俺は再び口を開く。


「ならいい。あと十五分で出る。準備しとけよ」


 呼びかけた俺はふと、レダンからの答えがないことに気づいた。

 横を見る。


「……あ?」


 座り込むレダンは目を閉じたまま、俺に手を差しだしていた。


「なんだ、この手は」

「矢だ」


 レダンはわずかに目を開けると、横目で俺を見て言う。


「これまでの戦闘で減った。よこせ。言わなくてもわかるだろう」

「……俺はてめぇの女房じゃねぇんだがな」


 青筋の立った笑みを浮かべながらも、俺はストレージから矢の束を取り出す。

 レダンは弓手だが、とにかくやたらと矢を使う。その割に残量には神経質で、普通の弓手ならば冒険を続けるような量がストレージに残っていても、帰りたがることがよくあった。

 だから、運搬上限に余裕がある俺が予備の矢を運んでいるのだ。正直釈然としないものはあるが仕方ない。


 座ったまま、矢束をレダンへ差し出す。

 その手が受け取ろうとした瞬間……俺はふいと矢束を上に上げた。

 当然、レダンの指は空を切る。


「……なんのつもりだ」

「何度も訊いてるが、お前なんでそんなに矢を使うんだよ」

「……」

「どうして【弓術】スキルの“曲射”や“貫通矢”で一矢のダメージを上げないんだ。無駄だろ」

「……」

「いい加減に教えろよ。最後なんだから」

「……」


 レダンは無言のまま。

 これまでと変わらなかった。俺は思わず溜息をつく。


「……強いからだ」

「あ?」


 レダンの手が伸び、俺の手から矢束を奪い取った。

 それをストレージに収納しながら、レダンが独り言のように続ける。


「普通に()つ方が強いからだ。【弓術】スキルの技では、引きや離しの細かな調整ができない。そのせいで弱点部位も狙いにくく、一度発動してしまえばキャンセルも不可能になる。隙の大きさとダメージ量が見合っていない。矢を多く消費しようとも、一矢を正確に射っていく方が時間あたりのダメージ量が増える。オレのレベルがその証明だ」

「……」


 後衛火力としては魔導士に比べ不遇と言われる弓手でありながら、レダンはレベル【68】に到達していた。

 意外に思いながら、俺は訊ねる。


「でもお前、たまに“月雨(つきさめ)”は使ってないか?」

「あれだけだ、使えるのは。高威力の広範囲攻撃はさすがに代えられるものがない。たとえ大量に矢を消費したとしてもな。……【弓術】スキルの存在価値は、本当にあれだけだ」

「……はっ。世の弓手が聞いたら唖然としそうな発言だな」


 非常識さに、俺は思わず笑ってしまった。

 弓手という職業は、深層へ行くためには【弓術】スキルが必須だと言われているのだ。もちろん深層へ潜れる弓手であっても、レベル【65】で解放される“月雨”を使える者などほぼいない。

 こいつの言うようなスタイルは、これまでもこの先も、きっと真似できるやつなんていないのだろう。


 俺は天井を仰ぎながら言う。


「贅沢なこった。俺は【弓術】でもいいから武器スキルが欲しかったよ」

「そうだな。“矢斬り”でも使えれば、貴様のそのどうしようもないスキルも生かせただろうが」


 まったくだ、と思いながら、俺は自分のステータスを開く。

 スキルのリスト欄。

 そこには、ただ一つのスキルのみが記載されていた。


 【残心】


 こいつの効果は、『武器スキルの発動後に一定時間の無敵状態が発生する』というものだ。

 だが俺は、これ以外のスキルを持っていない。当然武器スキルも。

 だから俺は、【残心】の発動条件を決して満たせないのだ。


「貴様を追い出した連中の気持ちがよくわかる」


 レダンはこちらを見もせずに言う。


「今だから言うが、初めに聞かされた時は詐欺を働かれたような気分だった。深層へ潜れるほどレベルを上げるには、スキルの所有がほぼ必須だ。だが貴様は、スキルを持っていると言いながら、実質的にはスキルなしも同然だったからな」

「嘘はついてねぇだろ。それにてめぇと出会った時にはすでに俺は深層冒険者だった。詐欺もクソもねぇ」


 俺は吐き捨てるように答える。


 パーティーの足手まといにはなるまいと、がむしゃらにレベルを上げた。

 スキルを多く持つ新人が入り、お役御免というように追い出されても、ソロでダンジョンへ潜り続けた。

 おかげで今は最上位クラスのパーティーを率いる冒険者だ。今やこれまで俺を追い出してきた連中の、誰よりもレベルが高く、誰よりも稼いでいる。


 しかし一方で、こいつの言う通りでもあった。

 逆の立場だったならば、俺でも同じように感じていただろう。


 俺は負け惜しみのように、皮肉を込めた笑みとともに言う。


「ま、その性格のせいで追い出されてきたてめぇよりはマシだ。人間的にな」

「……ふん」


 レダンは、鼻を鳴らしただけだった。

 短い沈黙の後、俺は再び訊ねる。


「……お前、そんなんでやっていけんのかよ。村に帰るんだっけ?」

「ああ」


 レダンは短く答える。

 俺はなおも言う。


「村の連中には同情するぜ。お前みたいなのと肩を並べて畑を耕すなんてな」

「畑は持たん。狩人になるつもりだ。冒険者になる以前のようにな」

「……ふうん」


 俺は頭の後ろに手を組み、他人事のように言う。


「苦労するねぇ。稼ぎのいい冒険者稼業を捨てて、それ以上に危険な狩人に戻るだなんて」

「冒険者としては、すでに先が見えた」


 レダンがそっけない調子で言う。


「だから続ける気が起きなくなった。それだけだ」

「……」


 俺が無言を返すと、レダンが独り言のように続ける。


「貴様は、冒険者を続けるのだろうな」

「……」

「他に能のない貴様のことだ。このろくでもない稼業にでもしがみつくしかないのだろう」

「……」


 もちろん、そんなわけはなかった。

 俺たちはもはや高給取りだ。今までの金と、武器や装備や貴重なアイテムを売った金を足せば、店を持てるほどの財産になる。そうでなくとも故郷で畑を持ったり、高い運搬上限を生かして運搬屋で細々と暮らすこともできる。

 俺たちは全員、すでに冒険者を辞める選択肢が生まれていた。


 だから、こんな考えは気色悪くて仕方ないのだが――――レダンは俺に、自分がいなくなった後も冒険者を続けてほしいと言っているのかもしれない。


 しかし。

 俺はレダンの脱退を機に、『星狩』を解散させるつもりでいた。


「……。俺は……」


 答えかけた俺の前に、影が立った。

 顔を上げると、そこにいたのは魔導士の少女、ピケだった。

 その表情に乏しい顔が口を開く。


「ヒューゴ、十五分経った。行こ」

「……」


 ステータス画面で時刻を確認すると、本当に十五分経っていた。

 俺は立ち上がって言う。


「そうだな。よし、行くぞお前ら」


 パーティーメンバーのろくでなしどもが、各々立ち上げる。

 俺が体を伸ばし、装備を確認していると、ピケが再び話しかけてきた。


「ヒューゴ、見た? この先の」

「なんだ? この先?」

「私、セーフポイントに寄る前に、ちょっと見てきた。この先に一本道があって――――…………


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