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マイナススキル持ち四人が集まったら、なんかシナジー発揮して最強パーティーができた件  作者: 小鈴危一
2章

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【弓術】②

 その部屋にたどり着いたのは、四回目の移動を果たした時だった。


「っ……!」


 転移の完了と共にその内装が目に入った時、俺は思わず息をのんだ。


 部屋の天井が、まるで雷雲のような黒い雲で覆われていた。

 他の部屋はすべて板張りになっていたはずだが、木目などはまったく見えない。全体が薄暗く、まるで曇天の下にいるかのようだ。黒雲の中では時折、雷光のようなものが瞬いている。

 そして部屋の中央。天井近くに体を丸め浮遊しているのは――――一体のキマイラであるようだった。


 ただし、通常のキマイラとはだいぶ様子が違う。

 ライオンの頭もヤギの頭も、たまに見るドラゴンの頭もない。代わりにあるのは、ただ一つのサルの頭だ。

 胴体はタヌキに似た褐色の毛で覆われているが、手足だけはトラのような黄色と黒の縞模様になっている。宙に浮いているにもかかわらず、翼はない。尾がヘビになっていなければ、キマイラとも思わなかったかもしれない。


 何より不気味なのは、その体に黒い雲を纏わせていることだった。

 どうやらこの曇天は、こいつが生み出したものらしい。


「……参ったな」


 どうするべきか、俺は迷う。


 おそらく、こいつはあのサイクロプス以上の強敵だ。

 たった二人のパーティーで、事前情報もなしに挑むべき相手じゃない。


 だが、おそらくサイクロプスの時と同じように、入ってきた転移床は竹筒で封じられてしまうだろう。

 他の転移床へ走って逃げるにしても、当然危険はある。


 どうすれば……、


「やりましょう、アルヴィンさん」


 不意に、隣でユーリが言った。

 俺の顔をまっすぐに見上げてくる。


「ウチなら、大丈夫ッス。だから……」

「……わかった」


 俺はわずかに微笑んでそう答えた。

 それなら、信じてみよう。


「だが、安全優先だぞ。まずは攻撃パターンを把握して、ダメージ量が危険そうならタイミングを見て撤退する。無理は禁物だ。いいか?」

「はいッス!」

「よし」


 俺はうなずいて、ユーリと共に転移床を出る。


 背後で竹筒が伸び上がり、転移床への退却が封じられるとほぼ同時。

 おもむろにサルの頭が目を開け、タヌキの胴体を空中でしならせた。


 牙を剥き、黒雲のキマイラが咆哮する。


『ピュイィィ――――――ッ!!』


 俺は思わず顔をしかめた。

 それは風貌にまるで見合わない、小鳥のような甲高い鳴き声だった。

 不気味なキマイラが俺たちを見据えると同時に、その斜め上方に一つの文字列が現れる。


〈ネビュラス・キマイラ〉


 やはり、聞いたこともないモンスター名だ。

 油断はできない。


「来るぞ、ユーリ!」

「は、はいッス!」


 俺は床を蹴り、ユーリの前に出ると、急降下してきたキマイラの爪を剣で受けた。

 貫通してきたダメージにより、HPが減少する。だが、わずかだ。

 サル頭の噛みつきも同様に受けるが、やはりダメージ量は小さい。


「……この程度か」


 黒雲をたなびかせながら、キマイラが宙を駆けるように上空へと舞い戻る。

 地上に降りている時間は、どうやら短いようだ。これは攻撃のタイミングでダメージを与えるタイプの敵か。


 再びの急降下、そしてトラの爪が振るわれる。

 俺はそれを避けようともせず、反撃の剣を繰り出した。


 ダメージは与えられたはずだが、こちらのHPも目に見えて減少する。

 だが予想通り、それほどでもない。


「ア、アルヴィンさん、大丈夫ッスか!?」


 後ろでユーリが、焦ったように叫ぶ。

 俺のHPの減り具合を見ていれば、無理もないだろう。


「大丈夫だ! 打ち合わせ通り、これでいい!」


 俺は叫び返す。

 ユーリに後衛火力を任せるためには、これが必要だった。

 もしもの時に備え、俺のHPは減らして(・・・・)おかなければ(・・・・・・)ならない(・・・・)


 やがてHPが半分ほどにまで減少したのを見計らうと、再びユーリへと叫ぶ。


「よし、そろそろいいぞ!」


 同時に急降下攻撃を“パリィ”でいなし、返す刃で斬りつける。

 サルの頭が噛みつき攻撃に移ろうとした瞬間――――その鼻面に矢が突き立った。

 各属性のエフェクトが散ると共に、キマイラに仰け反り(ノックバック)が発生する。

 返り討ち(カウンター)になったせいもあるだろうが、やはり大した威力だ。


 生じた大きな隙に、俺とユーリが攻撃を叩き込んでいく。


『ピイィィィ……!』


 全身を震わせ、キマイラが呻く。

 サルの目が、ユーリではなく、足元で剣を振っていた俺を睨んだ。


「……いいぞ」


 ヘイト管理は、今のところうまくいっているようだ。

 ユーリの経験が浅いため、どうしても声をかけながらにはなるが、この調子でいけば問題なく倒しきれる。


 急降下攻撃を、再び“パリィ”で受ける。もうHPは減らさない方がいい。

 無理のない範囲で反撃に移ろうとした……その時。

 キマイラが、続けて噛みつき攻撃を仕掛けてきた。

 ――――サルの頭ではなく、尻尾のヘビが。


「ぐっ……!」


 予想外の角度から不意を突かれた俺は、それをまともに喰らってしまった。

 ダメージは大したことない。だが――――ステータス画面に、赤黒い髑髏マークのアイコンが点灯する。


 毒の状態異常。

 しかも、より上位の猛毒状態だ。

 HPバーが点滅と共に、みるみるうちに減り始める。


 まずい。

 今のHP残量では、自然回復を待っていてはおそらくHPは最終的に一割を切る。途中で攻撃を一度でもまともにもらえば終わりだ。

 だが、アイテムを使う余裕は……、


「アルヴィンさん!」


 その時、キマイラの顔面に、三色のエフェクトが散った。

 矢が次々に突き立っていき、やがてサルの目がユーリを睨む。


「今ッス!」

「っ! わかった! 助かる!」


 俺はすばやくステータス画面を操作し、ストレージから毒回復用ポーションを取り出すと、それを急いで飲み干した。

 ステータス画面から毒のアイコンが消え、HPの減少が止まる。


 その間に、キマイラが宙を駆け、ユーリに突進攻撃を仕掛けていた。ユーリは横へ飛び込むようにしてそれを避けたが、HPは一割ほどが削られる。攻撃の余波だけで、その有様だ。


 状況は、一転してかなりまずいものになった。

 ここから立て直すのは至難の業だ。

 俺がアイテムを使う隙を作るため、ユーリは滅茶苦茶にヘイトを稼いでしまった。サイクロプスの時よりも弓の威力が高く、与ダメージ量が多い。攻撃でヘイトを奪い返そうにも、キマイラは空を飛んでいるせいで、地上に降りてくる時にしか剣が届かない。

 しかも狙われているユーリは、弓のせいで足が遅くなっており、回避も難しいという始末だ。


 セオリー通りに戦っているだけでは、パーティーが崩壊しかねない状況。

 だが――――セオリーに頼らなければ、その限りではない。


 俺はストレージから、一つのポーションを取り出した。

 それは眩しいほどの金色をしていて、いかにも高級品といった見た目だ。

 HP回復系ポーションの中でもかなり上位に位置付けられる、グランドポーションという名のアイテム。


「頼むぞ……」


 俺は半ば祈るように、それを飲み干す。

 微かな金色のエフェクトが発生し――――半分以下になっていたHPが、上限まで一気に回復した。


 ――――その瞬間。

 キマイラのヘビの尾が、目ざとく反応して俺を見据えた。

 トラの四肢が、即座に宙を蹴る。タヌキの体が反転して、サルの頭が俺へ牙を剥く。

 キマイラの敵意(ヘイト)は、もはやユーリではなく完全に俺を向いていた。


 わずかな安堵と共に、口元に笑みを浮かべる。


「いいぞ、それでいい」


 モンスターのヘイトを稼いでしまう行動は、いくつかある。

 近くへ寄る。たくさん攻撃を加える。大きなダメージを与える。代表的なものはこれらだ。しかし……より気をつけなければならない行動は、別にある。


 味方や自分の(・・・・・・)HPを回復する(・・・・・・・)

 強力なバフや(・・・・・・)アイテムを使う(・・・・・・・)


 これらの補助的な行動が、実は激烈にヘイトを稼ぐ。

 パーティーの中で神官のような回復職がもっとも狙われやすいのは、それが理由だ。回復職はパーティーの要。崩壊に繋がりかねないからこそ、どんなパーティーもヘイト管理は徹底する。


 今回は、それを逆手に取った。

 あらかじめHPを減らしておき、ユーリがヘイトを稼ぎ過ぎれば、高級ポーションで一気に回復する。

 普通のポーションや毒消しではそこまで効果はないものの、さすがにグランドポーションともなると稼ぐヘイトも凄まじいようだった。


 HP管理がシビアになる都合、どうしても俺の手数が減ってしまうが、ユーリに火力役を任せられるならこんな作戦も使える。


「ユーリ! 大丈夫か、ユーリ!!」


 キマイラの突進を受けつつ反撃しながら、俺は叫ぶ。

 一番の懸念は、ユーリだった。

 サイクロプスの時は、狙われ始めた時から様子がおかしかった。

 今も冷静でいられているか……。


「ユーリっ!!」

「だ、大丈夫ッス!!」


 後ろから叫び返された声に、俺は安心する。

 俺の声は、ちゃんと聞こえているようだ。


「こ、高級ポーションの効果、すごいッスね! ヘイト集めが簡単にできちゃうッス!」

「これめちゃくちゃ高いから、全然簡単ではないけどな!! 手持ちも限られるから、張り切りすぎるなよ!」

「了解ッス!」


 爪の攻撃を受ける。

 今ならわかる。頭の噛みつき攻撃の時とは、微妙にモーションが異なる。

 尾が振られると同時。牙を剥いてきたヘビの頭へ、俺はタイミングを合わせた“強撃”を叩き込んだ。


『ピイィィッ!!』


 キマイラが激しく仰け反り(ノックバック)する。

 キマイラ系モンスターの共通した弱点部位は、尻尾のヘビだ。


「すごいッス! アルヴィンさん!」


 ユーリの歓声が聞こえる。


 仰け反り(ノックバック)後の隙は、攻撃のチャンスだ。

 ユーリの矢が途切れることなく降り注ぐ。

 戦闘は始まったばかりだが、すでに相当なダメージを与えているはず。この分なら、そろそろ……、


『ピイ゛イ゛ィィ――――――ッ!!』


 キマイラが、突然濁った声で啼いた。

 地を蹴って宙に浮かぶと、その体の周りに黒雲を纏わせ始める。


 俺は叫ぶ。


「攻撃パターンが変わるぞ! 気をつけろ!」

「りょ、了解ッス!」


 とはいえ、完全に初見のモンスターだ。

 何をしてくるかわからない。


 サルの頭が、大口を開けた。


『ビイ゛イ゛イ゛ッ!!』


 もはや小鳥とはとても呼べない声と共に――――纏わせた黒雲から、稲妻が迸った。

 それらは無茶苦茶に荒れ狂いながら、俺とユーリを襲う。


「ぐ……っ!」


 HPが大きく削れる。

 俺は三割ほど。ユーリに至っては、五割近くにもおよんでいる。

 同時に俺は、この攻撃の正体に思い至った。


「これは……ブレスか」


 キマイラ系モンスターの多くが持つブレス攻撃を、この不気味なキマイラも持ち合わせていたようだった。


 こいつの場合口から吐くわけではないようだが、本質は変わらない。

 稲妻はランダムなように見えて、一定の範囲にしか落ちない。キマイラの正面から大きく外れれば、躱せる。


「タイミングを見てポーションで回復するんだ! それまでは俺に任せろ!」

「は、はいッス!」


 モーションの激しくなった急降下攻撃を“パリィ”で受ける。

 衝撃が重い。もう半端なガードでは受けるのはまずい。

 思考しつつも、俺は黒雲を纏う胴体に向け、反撃の剣を振るう。


「……?」


 違和感があった。

 モンスターを斬りつけた手応えがない。


 噛みつき攻撃を躱し、再び剣を振る。

 纏う黒雲の中へ剣先を突き入れた途端、まるで粘液を斬りつけたような抵抗と共に、刃が進まなくなった。


「これは……!」


 その時、HPの回復を終えたユーリが、矢を放った。

 頭へと向かっていたその矢は、ちょうど流動していた黒雲に絡め取られるようにして、地に落ちる。


 間違いない。


「ダメだ、ユーリ! 雲のあるところに攻撃が通らなくなった!」


 他のキマイラ系モンスターにはない、このキマイラだけの特殊能力だ。

 やはり簡単にはいかないか。


「ど、どうするッスか、アルヴィンさん!?」

「雲が晴れている部分を攻撃するしかない!」


 と言っても、機会は限られる。

 急降下攻撃の際の前肢、噛み付き攻撃の際の頭、突進の際の胴体。黒雲の挙動を見る限りではこのくらいだ。どれもタイミングがシビアで、狙いにくい。

 だが、やるしかない。


 激しくなった攻撃パターンをしのぎながら、俺とユーリはわずかな隙を見つけては、キマイラにダメージを与えていく。

 先ほどまでと比べると、もどかしいほどの攻撃量だ。


『ピイ゛イ゛ィィ――――――ッ!!』


 濁った鳴き声と共に、再びキマイラが飛び上がった。

 部屋の天井付近に陣取ると、その周囲を黒雲が流動し始める。


「っ、ブレスが来るぞ!」

「りょ、了解ッス!」


 叫ぶやいなや、俺は斜め前へと走る。

 ヘイト管理のおかげか、キマイラの頭が俺を追うようにわずかに動く。


『ビイ゛イ゛イ゛ッ!!』


 不気味な咆哮を合図に、黒雲から稲妻が迸った。

 同時に、俺は横へ思い切り飛ぶ。

 背後では雷光が荒れ狂っていたが、俺に着弾することはない。ギリギリで攻撃範囲から逃れられたようだった。


 移動距離の関係上、ブレスは近づいた方が避けやすい。

 接近によってもヘイトが貯まるので、こうしてユーリを安全に逃がすこともできる。


「ユーリ、無事か!?」


 HPが減っていないことはわかっていたが、俺はそれでも声をかける。


「ユーリ!」

「だ……大丈夫ッス!」


 ユーリが返事を返してくる。

 その声には、何かに気づいたような響きがあった。


「今の、タイミングなら……!」

「どうした!?」

「ア……アルヴィンさん! ブレスのタイミングッス!」


 ユーリが叫ぶ。


「正面からなら、頭に矢を射ち込めるッス! 大きなダメージを与えるなら、そこしかないッス!」


 俺は思い出す。

 確かにキマイラは、ブレスのモーションで黒雲を体から剥がしていた。

 だが。


「危険すぎる! そのタイミングで攻撃していたら避けきれないぞ!」

「大丈夫ッス! 仰け反り(ノックバック)を引ければ、ブレスは中断するはずッス!」

「そんな願望に……っ」

「一度だけ!」


 ユーリは言った。俺は思わず振り返る。

 その顔に、恐怖の色はない。ただ、敵に立ち向かう決意だけがあった。


「一度だけ試させてくださいッス! さっきのダメージなら、一度ならブレスを喰らっても平気ッス! このまま戦っても時間がかかりすぎて、いつか集中力が切れて事故るッスよ! だから……アルヴィンさん!」

「……わかった」


 俺は顔を戻し、答える。


「一度だけだ! やるからには頼むぞ、ユーリ!」

「了解ッス!」


 キマイラの通常攻撃を捌きながら、可能な限りダメージを与えていく。

 ブレスのタイミングで仰け反り(ノックバック)を引けるよう、できるだけダメージを蓄積させておかなければならない。

 あとは……ユーリの腕に祈るだけだ。


 そして。


「っ、来たぞ!」

『ピイ゛イ゛ィィ――――――ッ!!』


 キマイラが飛び上がる。

 その周囲を、黒雲が流動し始める。

 眼光鋭くこちらを見下ろすキマイラの正面で――――ユーリはすでに弓を引いていた。


 鋭い矢が飛ぶ。

 はるか高い場所にある、小さな的に過ぎないキマイラの頭を、ユーリの矢は次々に射貫き、各属性のエフェクトを散らしていく。


 ユーリの連射は、今や三本にとどまらなかった。

 引き手に三本、そして弓を握る左手にも矢の束を握り、息つく間もなくつがえては放ち続ける。


 だが。


「ダメか……!」


 十本近く矢を受けても、キマイラが仰け反り(ノックバック)する気配はない。

 蓄積ダメージが少なすぎたのか。


 俺はストレージからアイテムを取り出す用意をする。

 ユーリは、すでにかなりのヘイトを稼いでしまった。いざとなれば、ブレス後に残り少ないグランドポーションを使ってでも、ヘイトを奪い返すしかない。


 やがて、ユーリの握る矢は、残り一本となってしまった。

 今のモーション中にあれだけの矢をすべて射ち込んだのはさすがと言うほかない。だが、およばなかった。


 最後の一本を引き絞りながら、ユーリは呟く。


「これで……っ!」


 キマイラの黒雲から、微かな雷光が瞬き始める。

 サルの頭が、大口を開いた。


『ビイ゛イ゛イ゛ッ!!』

「落ちろッス!!」


 ブレスの寸前、最後の矢が飛んだ。

 それは、サルの頭を山なりに飛び越え――――その後ろで揺れていた、ヘビの尾を貫いた。


『ビィア゛ア゛ァッ!!』


 濁りきった呻き声と共に、キマイラが激しく仰け反り(ノックバック)し、地に落ちた。

 床へと叩き落とされたキマイラは、そのままずるずると敷物の上を這う。

 もはや宙を駆けるどころか、立ち上がることすらできないようだった。


「アルヴィンさん、今っ……!」

「待て」


 追撃のため、再び矢筒から矢を引き抜こうとするユーリを、俺は手で制する。


「もう終わりだ」


 体を起こそうとしたキマイラが、叶わずにどうと床へ倒れ伏す。

 そして――――派手なエフェクトと共に、砕け散った。



****



 ユーリがふらふらと、キマイラが消えた場所へと歩いていく。

 そして散らばったドロップアイテムを、そのままぼーっと眺めている。

 どうやら、放心状態になっているようだった。


「お疲れ。やるじゃないか」


 俺は笑いながら、その後ろ姿に声をかける。


「三十層の中ボスをキルしたんだ。これでもう駆け出しは名乗れないな」

「キル……ウチが、ッスか?」

「他に誰がいるんだ」


 振り返るユーリへ、俺は祝福するように言う。


「今回は、完全にユーリのお手柄だった。作戦勝ちだ。やったな」

「そ、そんな……あれだけでキルできたのは、アルヴィンさんが削ってくれてたからですし……ウチなんてあんまり……」

「いや。ユーリの功績だよ」


 俺は笑って言う。


「ブレスの場面でも、冷静に敵を観察して、突破口を見つけられたおかげだ」


 恐怖を乗り越えただけじゃない。

 さらに一歩、成長して見せた。


「それにしても、やっぱりさすがだな。連射もそうだが、軌道予測線に頼らずにあの曲射をよく当てられるもんだ。キマイラの弱点部位がヘビの尻尾だということも、よく知ってたな」

「えへへ……それに関しては、テトせんぱいに感謝ッスね」


 ユーリは、はにかむように笑って言った。


「ウチ、なんとか冒険者の弓手、やっていけそうッス!」

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