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マイナススキル持ち四人が集まったら、なんかシナジー発揮して最強パーティーができた件  作者: 小鈴危一
2章

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【忍びの極意】③

「ふう……助かった、ユーリ。これで少なくとも、俺たちが何か伝えようとしていると三人も気づいたはずだ」


 麻痺、麻痺、麻痺、麻痺、毒という行程をもう一度繰り返した俺は、HP回復用ポーションを飲みつつ、なんだか変人を見るような目をするユーリへと言った。


「本当は階層数だけじゃなく、おおまかな現在地まで伝えられるんだが……今は俺たち自身が現在地を知らないからな。三十層にいることだけでも伝わればいい」

「はあ……あの、今ので本当に、ウチらが三十層にいるってみなさんに伝わるンスか……?」

「さあな、そこは賭けだ。事前に打ち合わせをしていなかった以上、この方法を誰かが知っていることを願うしかない」

「ええ……」


 気落ちしたようなユーリに、俺は付け加える。


「こんな状況なんだ。できることはなんでもやってみるべきだろう」

「…………それもそうッスね。前向きに考えるッス!」


 ユーリは、そう意気込んで拳を握った。


 俺は少し安心する。


 こういう状況で心が挫けてしまう冒険者は多いが……ユーリはそうではないようだった。

 精神力は時に、どんなパラメーターよりも生死を左右する。

 逆境で気持ちを保ってくれるだけでも、仲間としては心強い。


「次はどうするッスか? アルヴィンさん」

「そうだな……やっておきたいことはあるが、まずは少し休もう。ここまでほとんどセーフポイントにも寄らずに来たからな」

「それもそうッスね! いい考えッス!」


 ユーリが溌剌と言う。


「ここ、モンスターもいませんしね! どのくらい休むッスか?」

「とりあえず、一時間くらいでいいか?」

「了解ッス!」


 言うやいなや、ユーリはストレージから毛布のアイテムを取り出す。


「それじゃあおやすみなさいッス! アルヴィンさん!」


 そう言い残すと、ユーリは毛布にくるまってごろんと横になった。

 そのまま動かない。

 まさかと思って近づいてみると……すでに寝息を立てていた。


「す、すごいな……」


 ここまでずぶとい冒険者もなかなかいない。

 こういう状況だと、普通は簡単に寝付けないものだが……。


「俺も見習わないとな……」


 軽く現在時刻を確認した後、俺も同様に毛布のアイテムを取り出した。

 丸めて枕代わりとし、仰向けになる。

 目を閉じても、今後のことが頭を巡り、なかなか思考が休まらなかった。



****



 不意に意識がはっきりとし、俺は目を開けた。

 はるか高い位置に板張りの天井が見え、一瞬状況が掴めなかったが……すぐに、ダンジョンで遭難中だったことを思い出す。


 ステータス画面で時刻を確認すると、五十分ほど経ったようだった。

 冒険者も長くやっていると、だいたい狙った時間に目を覚ますことができるようになる。


「……うし」


 俺は勢いよく体を起こす……と、その瞬間。

 近くで寝ていたユーリが飛び起き、弓と矢筒を掴んで即座に身構えた。


「っ!?」


 突然の挙動に驚き、一瞬固まる。


 ユーリは顔を回し、周囲に睨みを利かせていたが、やがて何もないことがわかると、きょとんとした表情で俺へ訊ねる。


「あれ、どうかしたッスか? アルヴィンさん」

「いや……ただ起きただけだが……」

「なーんだ、びっくりしたッス。まだ時間には早いのに、ガバッて起きたんで何かあったかと思ったッスよ」

「そこまで早くもないぞ」

「えー? でもあと十分か十五分くらいはありますよね?」


 俺は言葉を失った。

 ユーリは、ステータス画面を見たわけではない。


「でも……うーん、いい休憩になったッス!」


 ユーリは立ち上がって伸びをすると……次いでストレージから食糧アイテムを取り出し、もぐもぐと食べ始めた。


「ほれで……このあふぉほうふるッフか、アルヒンはん」

「あ、ああ……」


 俺は気を取り直すと、口いっぱいにパンを頬張るユーリに説明する。


「基本的に、俺たちだけでボスへ挑むのは、危険だからやらない。だが、脱出のためにはいずれボスを倒す必要がある。それなりに高レベルの冒険者がここに迷い込んで来るのを待って、臨時のパーティーを組んで挑む……そんな形が理想になるな」

「ふぁい」

「それにあたってやっておきたいのが、マッピングと、ユーリのレベル上げだ」

「ん……なるほどッス。ここの四隅にある転移床に乗って、別の部屋に行ってみるんスね?」

「ああ、そうだ」


 俺は続ける。


「別の部屋に行けば、モンスターがいる可能性がある。ボス戦に備えてパワーレベリングといこう」


 もっとも、メリナの【嫉妬神の加護】が未だ有効である以上、そこまで効率はよくない。ユーリにわざととどめを刺させ、キルボーナスを渡すようなプレイングができないためだ。

 しかし、やらないよりはマシだろう。誰かが落ちてくるのを待つ時間が無駄だし、最悪誰も来なかった場合、俺たちだけでボスに挑まなければならなくなる。ユーリのレベル上げは必須だ。


「矢の残りは大丈夫か? これまででかなり使ったと思うが」

「矢は、まだまだいっぱいストレージに残ってるッスよ! ウチ【運搬上限上昇】のスキルを持ってるんで、いつも大量に持ち歩いてるッス!」

「よし。それじゃあ戦闘になったら、弓型斥候のセオリー通り立ち回ってくれ」

「ええっと……中衛位置で攻撃よりも回避優先、無闇にヘイトを集めない、ってことでいいッスか?」

「ああ」


 俺はうなずく。

 それが、戦闘時における弓型斥候のセオリーだった。


 これは前衛を後衛火力や回復役の守りに集中させるための、要するに足手まといにならないような立ち回りだ。

 どうしても火力に乏しく、役割が戦闘以外のところにある都合上、斥候は必然的にこういう運用になってしまう。

 ただ……今はどちらかといえば、ユーリの安全のためという意味合いが強い。


「基本的には、ステータスに余裕がある俺が中心に戦う。レベル差もあることだし、普通にしていればヘイトがユーリに集まることはないと思うが……念のためだな」

「わかったッス!」


 はきはきと返事をするユーリに、俺は少し笑って続ける。


「あとは、できるだけマッピングもしておこう。ボスがいそうな部屋のあたりをつけておきたい。ヒントになるテキストも見つけられればなおいいな」

「了解ッス!」


 元気のいい声と共に、ユーリが立ち上がった。

 そこで、俺はふと訊ねる。


「なあ。ユーリは、眠りが浅い方なのか?」

「へ……?」


 ユーリは、きょとんとした顔で答える。


「そんなことないッスよ。ウチ、眠るのは得意ッス!」

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