【器用さ上昇・小】③
「まったくひどい人たちですね!」
ユーリを仲間に引き入れ、百鬼怪道を進む道すがら。
ココルは憤慨したようにぶつくさ言っていた。
「パーティーメンバーをダンジョンの真ん中に置いていこうとするなんて!」
「まったくだ」
俺も同意する。
自分から出て行くこともあったメリナやテトと違い、俺とココルはパーティーから追い出されてばかりだったので、ユーリへの仕打ちには妙なトラウマが刺激された。
「わたしだって、そこまでされたことはありませんでした!」
「本当にな」
続けて同意する。
まあもっとも、冒険の途中で回復職を置いていったら困るのは残りのメンバーだろうが……。
「あはは……すみませんみなさん。ご迷惑をおかけしてしまって……しかもパーティーにまで……」
ユーリが申し訳なさそうに言う。
同行が決まった時点で、ユーリのことはパーティーメンバーとして登録していた。
その方が、パーティー全体でもらえる経験値の総量が増えて得だからだ。
「そんなの気にしなくていいんですよ、ユーリさん!」
ココルがにっこり笑って言う。
「行き会った者同士でパーティーを組むのだって、冒険ではよくあることです!」
「それが意外と長く続いたりな」
「私たちがそうだったものね」
「そう言ってもらえると、ありがたいッス……あと、テトせんぱいも」
「え?」
振り向いて訊き返すテトに、ユーリが言う。
「ありがとうッス……怒ってくれて」
「別にあんなの、何かしたうちに入らないよ」
テトがそっけなく答える。
「昔だったら、ああいう連中は睡眠武器で眠らせて金目の物奪ってたし」
「……」
テトなら本当にやっていそうだった。
もし俺が制止していなかったら、あの侍のこともボコボコにしていたかもしれない。
それでも手を止めてくれたということは……俺たちのことも考えてくれているのだろう。
「ところでなんだが、ユーリさんたちは何が目的でこのダンジョンに来たんだ? まさかとは思うが……」
「えっとたぶん、そのまさかッス。二十九層でのレベリング目的ッスよ」
「……あの連中は、全員レベル30くらいはあるのか?」
そのくらいなければ危険だ。ただ、あまりそうは見えなかったが……。
案の定、ユーリは首を横に振る。
「ウチを除いても、平均レベルは23か24くらいッス」
「やっぱりか……」
「ウチも危ないとは思ったんスけど……リーダーが、一度言い出したら聞かない人で……」
リーダーとは、おそらくあの侍のことだろう。
「ウチも含めて、みんな経験値が欲しいのは事実だったんで、止めきれなかったんス。でも……このくらいの階層にまでくると、やっぱりヒヤッとすることが増えて……」
「それは、そうだろうな」
「モンスターを倒すのにも時間がかかるようになってきたんで、ウチもがんばったんスけど……」
「あなたがヘイトを奪いすぎてしまって、かえって危なくなったってことかしら?」
メリナが訊ねると、ユーリは気落ちしたようにうなずく。
「はい……実はあのリーダー、レベル以上の階層に潜ろうって言い出すことが結構あって……前から同じようなことで、よく揉めてたんス……」
メリナが溜息をつきたそうな顔で言う。
「それは完全に、パーティーの問題ね。レベル以上の階層に潜るのは、絶対にやってはいけないことではないけれど……それで危なくなるようではまずいわ。抜けてよかったんじゃないかしら」
「っていうか、弓型斥候にヘイトを奪われてるあの前衛も後衛もやばいでしょ。侍に暗黒騎士、赤魔導士に司教って、普通より火力も回復量もあるはずなのにさぁ」
「そうね……このくらいの階層で冒険するには、まだ実力が足りてないのかもしれないわ」
呆れたように言うテトに、メリナも同意する。
火力の上がる侍や赤魔導士、WISに大きな補正がかかる司教に、一部の闇属性魔法が使えるようになる暗黒騎士は、いずれも元の職業よりもモンスターのヘイトを稼ぎやすくなる派生職だ。
弓の威力に補正がかかる弓手ならまだしも、弓型斥候にヘイトが散ってしまうようでは、実力不足と言われても仕方ない。
まあ……それだけが原因と言い切ってしまうのは、さすがに少しかわいそうではあるが。
ココルが朗らかに言う。
「せっかくですし、ユーリさんも一緒に二十九層まで行きましょう! 適正レベルよりはだいぶ下の階層になっちゃいますけど、パワーレベリングならこのくらい全然潜りますし。いいですよね、アルヴィンさん?」
「そうだな」
レベルが上の者に助けられながら経験値を稼ぐパワーレベリングは、現レベルプラス10くらいの階層にまで潜ることはざらにあった。
もちろん助ける側は、その階層をソロでもこなせるくらい強い必要があるが、俺たちなら問題ない。
「五人でミート・ゾンビ狩りといくか」
「何から何まで申し訳ないッス……」
「そんなのいいんですよ!」
「はあ……」
ココルが元気づけるように言うも、ユーリは縮こまったようにするだけだった。
やはり……パーティーを追い出されたのが堪えているのだろうか。
俺も何度も経験したが、自分が要らない存在に思えてきて、あれは本当に凹む。
元気が出ないのも無理はないかもしれない。
「あっ」
その時、ココルが声を上げた。
俺もその存在に気づく。
前方に現れた、朽ちた肉体に鎧を着け、刀を装備したそのモンスターは、ゾンビ・サムライだった。
通常のゾンビ系モンスターよりもすばやく、攻撃力が高いのが特徴だ。
とは言っても、この階層で出るものはそこまで怖くない。
普通に処理しようと剣を構えた時、後ろでココルが憐れむように呟いた。
「ああ、さっきの人……モンスターにやられてあんな姿に……」
「ぶふっ!」
俺は思わず吹き出してしまった。
言われてみれば、装備の形や色合いが少し似ている。
周りでも笑いが起こる。
「んははっ、ほんとだ」
「ふふっ、や、やめなさいよ」
メリナが笑いをこらえながら呪文を唱え、光属性魔法でゾンビ・サムライを四散させる。
しばらく行くと、またも前方にモンスターが現れた。
白骨の体に鎧を着け、そして刀を装備している。
スケルトンの上位種――――スケルトン・サムライだ。
その姿を見て口角が上がりかけたその時、ココルがまた呟く。
「ああっ、さっきの人!」
「ぶはっ!」
「あっはっは!」
「ふふっ、だ、だからやめなさいって」
笑いながら剣を振って、スケルトン・サムライを四散させる。
ドロップを回収しながら皆でひとしきり笑っていると、それを見ていたユーリが小さく言った。
「……あはは、みなさんおもしろいッスね」
それから担いでいた弓を握り、はりきったように言う。
「次出てきたら、今度はウチがやってやるッス!」






