【器用さ上昇・小】①
百鬼怪道は、ごくありふれた小規模ダンジョンだ。
最近見つかったミート・ゾンビが出る階層を除けば、特に稼げるわけでもなく、そのせいで長く攻略が進んでいなかった。
しいて変わっている点を挙げるとすれば……テーマが独特なところだろうか。
「テト、そっちは任せた!」
「おっけー!」
返事を聞いた俺は、目の前のモンスターに集中する。
レッサーオーガの振り下ろす金棒を、軽く弾き返す。そのまま数発斬撃を叩き込むと、弱点部位を突くまでもなくモンスターが四散した。
隣を見ると、テトに切り裂かれたアーススパイダーがエフェクトを散らして消滅したところだった。
散らばったドロップを眺めながら、俺は一息つく。
「ふう」
「まだ私の出番はないみたいね」
なんだか物足りなさそうに言うメリナに、俺は苦笑して答える。
「二十層だからな」
百鬼怪道の二十層は、他のダンジョンの同じ階層と比べても、モンスターがあまり強くなかった。
「でも、そろそろ注意した方がいいんじゃないでしょうか。出てくるモンスターの様子も、なんだか変わってきていますし」
「そうだな」
心配そうに言うココルに、俺はうなずく。
スケルトンやウィルオーウィスプのようなアンデッド系モンスターばかりだった浅層から、徐々にレッサーオーガやアーススパイダーのようなモンスターも増えてきている。
ただ、出現モンスターの法則が、今ひとつよくわからないが……。
「それにしても、このダンジョンなんなんだろ」
テトが階層を見回すように言う。
地下のはずなのに、生ぬるい風が吹いて、通路の端に生えていた植物を揺らした。
テトは、その植物の茎をナイフでつつく。
「これとか、何? 草なの? 木なの? 妙によくしなるし……こんなの見たことないよ」
「たぶんだが、竹という植物だと思う」
あまり自信はなかったが、俺は説明する。
「『竹筒』という、水筒用の素材アイテムがあるんだが、それがこんな質感なんだ。おそらくこの植物から切り出したという設定なんだろう」
「また設定、ね」
「こんなの、ダンジョンの外には生えてないですよね」
「どうだろうな。遠い土地には普通にあるのかもしれない」
「気味の悪い植物だなぁー……」
サラサラと細い葉を揺らす竹を、テトは顔をしかめて見つめる。
「あとさぁ、この脇に並んでる大量の石だよ。なんか文字彫ってあるし、誰かが並べたみたいな感じだけど、柱にしてるわけでもないし……なんの意味があるんだろ」
「あら、これはわかりやすいじゃない」
メリナが、通路を形作るように両脇に並んでいる、大量の石柱を見回す。
綺麗な直方体は、明らかに自然物という雰囲気ではなかった。
「これ、お墓よ」
「え、墓なの? これ」
「人が切り出した石に、文字が彫ってあって、しかも周りにはアンデッド系モンスターが出るでしょ? これでお墓じゃない方が不思議よ」
「実は墳墓系ダンジョンだってことか?」
俺は首をかしげる。
「だがそれにしては、他のダンジョンとずいぶん様子が違う気がするが……」
「墳墓系ダンジョンは、あれ全体が一つの大きなお墓って感じでしょ? でもこれはたぶん、一つ一つが全部違う人のお墓なのよ」
「一つ一つが……」
墳墓系ダンジョンは、かつての王の墓という体裁であることが多い。
それならここは……平民が眠る墓地、ということなのだろうか。
「でも、それならおかしくないですか? お墓なら、ここに彫られるのは死んだ人の名前になると思うんですけど……」
ココルが墓石を覗き込みながら言う。
「ここには名前が彫られてる石なんて一つもありません。『山田家』とか『鈴木家』とか、変な単語ばっかりです」
「そう言われれば、そうね……山田って何かしら? 山の斜面を開拓して水田を作る地方があるとは、聞いたことがあるけど……」
「鈴木って鈴がなる木があるとかー? うるさそう」
「…………これ、人の名前なんじゃないか?」
こちらを見る三人に向け、俺は言う。
「家と書いてあるくらいだ。これは貴族の家名にあたるもの……なんじゃないか?」
「ええ、こんな変な名前を家名にする貴族がいるかしら……?」
「貴族のお墓にしては、数が多すぎません?」
「しかもしょぼいしね」
「確かにそうだが……」
彼女たちの言うことはもっともだ。
だがなんとなく……それでも俺は、これが人の名前であると感じていた。
「……まあいい、進むか」
俺たちは探索を再開する。
階層を埋め尽くす竹と石柱の群れは、どこまで行っても尽きることがない。
ダンジョンの内装は、そのテーマによって様々だ。
仕掛と蟻だらけだった仕掛蟻塚や、全階層が砂で覆われ、地下なのに強い日差しが差していた熱砂浄土など、常軌を逸した内装のダンジョンも多い。
だがそれらと比べても、この百鬼怪道は奇妙で、どこか不気味だった。
このダンジョンにしいて変わった点があるとすれば、この独特なテーマだろう。






