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マイナススキル持ち四人が集まったら、なんかシナジー発揮して最強パーティーができた件  作者: 小鈴危一
1章

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【ミイラ盗り】⑤

「この人はギルドに突き出しましょう!」


 頭にこぶを作り、ロープのアイテムで縛られたテトの前で、ココルが激しい口調で言う。


「他の冒険者を襲うソロの盗賊なんて、このままにしておけません! 残念ですけど、帰還アイテムで一度戻るべきです。ここにはまた来ればいいです!」

「……そうね」


 メリナも、溜息をつきながらうなずく。


「少なくとも、これ以上冒険は続けられないわ。こいつを野放しにはできないし、かと言って、ダンジョンの真ん中にこのまま放り出していくのも寝覚めが悪いものね」

「へぇ。やさしーねー、お姉さん」


 おどけたように言うテトを、メリナが横目で睨む。


「別に、そうしてもいいのよ? あなたをギルドじゃなく、このままマーマンの群れの前に突き出しても」

「おいメリナ、それは……」

「アルヴィン。思えばあの時、私たちはモンスターPKを仕掛けられていたのかもしれないわ。このパーティーだったから普通に倒し切れたけど、平均レベルが低い三人パーティーなら危なかった。こいつはただの泥棒よりたちが悪いかもしれない」

「……」


 冒険者が、同じ冒険者を殺す。

 それは冒険者殺し(プレイヤー・キル)と呼ばれ、様々な手法が存在していた。大量のモンスターを引っ張ってきてターゲットを他人に押しつけるモンスターPKも、その一つだ。

 もちろん、どんな手法であれPKは重大な禁忌だ。


「ひどいなぁ。あれは本当に事故だったんだよ。お姉さんたちがいてボクだってびっくりしたんだから」

「あなたの言うことは信用できません。アルヴィンさん、いいですか?」


 ココルが自分のストレージからアイテムを取り出す。

 丸まった羊皮紙。『記憶の地図』という、ダンジョンのどこにいても入り口まで帰還できる、高価なアイテムだ。

 深層まで潜る冒険者なら、誰もが一つはストレージに持つアイテムでもある。


「アルヴィンさんがよければ、わたしのアイテムで帰還しましょう。この人のことはギルドに任せた方がいいです」

「私も賛成よ。アルヴィン、いい?」

「ん……」


 俺は、これまでの一連の出来事を思い返す。

 そして、やや迷った末に告げた。


「いや……ちょっと待ってくれないか」

「アルヴィンさん?」

「どうしたのよ」


 二人が訝しげに言う。

 俺は少し置いて、静かに説明を始める。


「まず、テトさんをギルドに突き出すのはたぶん無理だ。どうせ拘束を抜け出すタイプのスキルを持ってる。いざとなったら逃げられるから、こんなに余裕でいられるんだ」


 テトが一瞬目を見開き、それから口で笑みを作る。


「ははっ、お兄さん考えすぎだよ。スキルなんて、そう都合よく持ってるものじゃない」

「あんたが普通の、スキルを二つか三つしか持っていないような冒険者だったなら、俺もそう考えただろうな」

「……!」

「盗賊職は間合いが近く、モンスターに拘束されやすいから、縄抜けスキルは他の職業以上に重要だと言われる。そして冒険者は普通、自分の持っているスキルに向いた職業を選ぶものだ。……あんたも、そうだったんじゃないか?」


 テトが、ばつが悪くなったように目を逸らした。

 メリナとココルは、話がわからないようで不思議そうな顔をしている。

 俺は続ける。


「俺は学はないが……普段と違うことがあった時は、なぜかをよく考えるようにしている。俺に剣を教えてくれた元冒険者が、そうしろとしつこく言っていたからだ。だから今回も考えた。でも、いくら考えてもわからないことがある」


 俺はテトへ訊ねる。


「テトさん。あんたはどうして、俺から冒険に必要なアイテムしか盗ろうとしなかった?」


 散らばったアイテムを仕舞い直した時のことを思い出す。

 テトが盗もうとしたアイテムは、どれも俺が冒険前に用意したものばかりだった。

 ただし、その中に俺の『記憶の地図』はない。


「少なくとも安いポーションよりは、『エメラルド鉱石』や『マーマンの涙』の方が高く売れるはずだ。高価なモンスタードロップや『記憶の地図』まで無視して、なぜポーションや予備の装備品ばかり選んでいたんだ?」

「……」

「あんたは、ここのボス部屋まで行ったことがあると言ってたな。ひょっとして――――俺たちがこれ以上先に進むのを、止めたかったのか? 今大人しく捕まっているのもそれが理由か?」


 しばしの沈黙の後――――テトは、はぁー、と大きな溜息を漏らす。


「そこまで察してくれたならさー、もう大人しく帰ってくれないかなー。一応助けてもらったし、せめて今回だけでも止めてあげるのがボクの務めかなと思ったんだけど……ま、でもどうせ、自分たちで挑んでみるまでは何を言っても聞かないよね」

「……」

「はーあ。冒険者ってほんと、バカばっかり。これだから嫌なんだよ」

「……どういうことですか」


 ココルが低い声で問いかける。


「わたしたちを止めるって……あなたはここのボスの、何を知ってるって言うんですか」

「お姉さんたち、このまま挑んでもどうせ死んじゃうよ」


 テトが口の端を吊り上げ、皮肉げに笑う。


「ここのボスには秘密があるんだ。きっと誰も勝てない」

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