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マイナススキル持ち四人が集まったら、なんかシナジー発揮して最強パーティーができた件  作者: 小鈴危一
1章

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【嫉妬神の加護】③

「えっ、ハメだった?」


 少し道を戻った、セーフポイントにて。

 俺は、思わず訊き返していた。


「そうよ」


 地面にぺたんと座り、膝に杖と帽子を置いた魔導士の少女は、にこりともせずうなずく。


「あそこの行き止まり、横幅が狭くなってるのよ。だからゴーレムくらい大きなモンスターだと詰まる(・・・)の。エメラルドゴーレムは遠距離攻撃の手段がないから、魔導士や弓手のような後衛だと一方的にハメ殺せるってわけ」

「ええー……」


 彼女が語っているのは、いわゆるハメだった。

 地形を利用し、モンスターの攻撃が届かないところから一方的に狩る方法。

 ドロップ集めにもレベリングにも使える便利な方法だが、実際に行える場所はごく限られる。人気の場所だとパーティーが順番待ちで列を作るほどだ。


 ハメポイントの情報はすぐに出回るうえ、普通は高低を利用することが多いから、まさかあそこでハメを行っている冒険者がいるとは思わなかった。


「じゃあ……あのゴーレムは、まさかあんたが引っ張ってきたものだったのか?」

「ええ。プラント系のモンスターを焼きながらね。ここ余計なモンスターが多いから、あまり作業効率がよくないのよね」

「それは……悪いことをした」


 俺は素直に謝る。

 知らなかったとは言え、人の狩りに割り込むのはマナー違反だ。


 しかし、少女は首を横に振る。


「いいわ。あそこの情報は出回ってないし、紛らわしかったわね。気にしないで。ドロップも自分の分は受け取ってちょうだい」

「だが……」

「いいのよ。ここであなたが悪いことになったら、次に誰かを助ける時ためらうでしょう? それで手遅れになったら私も気分が悪いわ。あなたはいいことをしたの。そういうことにした方が、みんな得する。わかった?」

「あ、ああ……」


 そうまで言われたら引き下がるしかなかった。

 ココルがススッと寄ってきて小声で言う。


「いい人でよかったですね」

「そうだな」


 というより、かなり合理的な考え方をする人だ。


 黒いローブに、杖。大きな帽子は今は外していて、軽く編み込んだ金髪を晒している。

 いかにも魔導士と言った見た目だが、それだけに意外だった。

 どちらかというと、魔導士は感情的な人間が多いイメージだったから。


 ふと目を戻すと、少女が半眼でこちらを見つめている。


「……魔導士なのに理屈っぽい、とか思ってない?」

「い、いやそこまでは……」

「ちょっとは思ってるのね。はあ……それ、完全に偏見だから。だいたい職業で性格が分かれるなら、魔導士こそ理屈っぽくなくちゃおかしいじゃない。いくら振ってもなくならない斧や剣と違って、こっちは減っていくMPと相手の属性見ながら魔法を選ばなきゃいけないのに」

「そ、そうだな……」


 職業への偏見はともかくとして、目の前の少女が理屈っぽい性格なのは確かなようだ。


 それはそうと、俺は気になっていたことを訊ねようと口を開く。


「しかし、あんた……」

「メリナよ」

「……悪い、そう言えば名乗っていなかったな。俺は剣士のアルヴィン。こっちは神官のココルだ。ここで出会って、臨時のパーティーを組んでいる」

「よ、よろしくです」


 俺は気を取り直し、メリナと名乗った少女へと問う。


「メリナさん。あんたさっき、あのハメポイントの情報は出回っていないと言っていたが……もしかして、あんたが見つけたのか?」

「ええ、そうよ」

「それはすごいな」


 素直に感心する。

 ああいう場所を見つけるには、地形やモンスターへの知識もそうだが、ある種の目敏さが必要になる。

 ステータスとして見えるレベルやスキルとは異なるそういったセンスも、冒険者にとっては重要なものだった。


「ひょっとして、本職の地図屋だったりするのか?」

「地図屋? いいえ。あそこはたまたま見つけただけよ。このダンジョンには用があって潜っているだけだから」

「用が?」


 それを聞いて、俺は恐る恐る訊ねる。


「もしかして……あんたも、このダンジョンのボスを倒しに?」

「まさか」


 メリナが自嘲するように笑って答える。


「こんな小規模ダンジョンでも、さすがに魔導士のソロでボスは無理よ。それなりにレベルは上げているつもりだけど、パーティーが要るわ」

「それもそうか」


 確かに、魔導士はソロに向いた職業ではない。

 ひょっとしたらと思ったのだが……考えすぎだっただろうか。

 だが、それからメリナが続けて言った。


「でも、いつかは攻略するつもりよ」

「えっ」

「私ね、マッピングしながら何回もここへ潜って、少しずつ下へ進んでいるの。攻略本番の日、ボス部屋までなるべく消耗しないで行けるように、ダンジョンの構造を把握しておきたいのよね。あそこでエメラルドゴーレムを狩ってたのは、単純にお金稼ぎのため。作業効率はよくないけど、他の人が来ないし、とにかくお金を稼げるのよ。実力のある冒険者を雇うには、大金が必要だから」

「……」


 とりあえず、俺は当然の疑問を口にする。


「それはわかったが、その……パーティーメンバーは、普通に募集するのではダメなのか? あんたは見たところかなり実力があるようだし、十分レベルの高い冒険者が寄ってくると思うんだが。何も金で雇わなくても……」

「ふっ……ダメよ」


 メリナが、再び自嘲するように笑った。


「私はパーティーなんて組むべき人間じゃないわ。大金を支払って、ボス戦のためだけに臨時で助っ人を雇う。その程度にしておいた方がいいの……危ないからね」

「……」

「あなたたち二人は、こんな噂を聞いたことがあるかしら。落日洞穴のボスは、持っているスキルを消すアイテムをドロップする……。何度も潜って思わせぶりな原典(フレーバー・テキスト)を集めた限りでは、これは真実よ。私には、そのアイテムが必要なの」


 メリナが、続けて言う。


「私は、マイナススキルを持っているから」


 それは、俺の予感が当たったことを意味していた。


「【嫉妬神の加護】というスキルをね」

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