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第2話 次元の果てと、復活

一日一話ペースで投稿できるように頑張っていきたいです。

改行になれればもうちょっと楽なんですが……

『いい加減、目を覚ましなさい。待つのは嫌いなの。』


 ……より強くなる眩しい光に加えて、なんの感情もこもってない冷たい声に、私は起こされた。

 再び開かれた瞼は、誰も歩いていない雪国の朝みたいな、輝く白しか映さなかった。


 ……起こされた? 死んだはずなのに? 不思議に思いながら身体を起こそうとすると、すんなりと起き上がることが出来た。ガラスが数えきれない程刺さっていたはずなのに……いや、思い出すのはやめよう。気分が悪くなってきた……。


「あれ……? カイラ? ここは一体……。」


 とてもなじみのある声。慌てて横を向くと、潤田が起き上がり、私を見つめていた。傷も全くないし、首も……うん、ちゃんと正面を向いている。


 良かった。なんで助かったのかはよくわからないけど、二人ともこうして生きている事実が嬉しくて涙が流れてしまう。ただ泣く私を、潤田は困惑しながら優しく頭をなでてくれる。


『二度も言わせないで。私、待つのは嫌いなの。』

 起きる時に聞いた声がまた聞こえた。だけど、さっきより幾段か声音が低い。感情のない声というよりは、敵意に変わるギリギリの声のような……。それにこの声、何か変……。


『ようやくこっちの話を聞く気になったみたいね。

 最初に忠告しておくべきだったけれど、あなた達を蘇らせるのは私にとってひどく簡単なの。そして、その逆もね。』

 そう言いながら声の主は姿を現した。

ーー白い世界の地面から、その白さとは対極的な黒い霧と一緒に、その女性は湧き出てきた。


 服装も霧のように真っ黒なドレスで、この場所の白さとはどこまでも相容れないもののように思えたけれど、その肌は今までに見たことがないほどに透き通っていて、不気味なほどにこの世界とマッチしていた。


「あなたは一体、誰なんですか?」

潤田が震える声で尋ねた。

 私は怖くて声も出せなかった。

この女の人は本質的に私たちとは違う。

見た目だけでなく、全身に突き刺さってくる目に見えない「何か」が、心臓をゆっくりと締め上げてくるのが分かった。


『あなた達の言葉でいうのなら、女神?もしくは、死神かしら。

 名前はヴェリナ。扱う術がちょっと特殊なだけの、魔術師だった時もあるわね。その頃の魔術によって、事故でただ無様に死んでしまうはずのあなた達を生き返らせて、ここに連れてきたの。

 勿論、させたいことがあるからこそ、こうやって蘇らせたのだけど。』


 ……言ってることはあまりにもめちゃくちゃだったけど、疑う気は全く起きなかった。

 だって、さっきの声の違和感。やっと気付いた。

そもそもこの人が話している言葉は、聞いたこともないような言語なんだ。


 ーーだけどその内容を、私たちは正しく理解できてしまっている。

私たちを刺してくる威圧感も、この荒唐無稽な話が真実なんだと嫌でも気づかせてくる。

 そうか、私と潤田は一度死んでしまったんだ。

 

 でも、それなら、

ヴェリナさんは私たちの命の恩人という事になる。

恐ろしいけど、きっと悪い人ではない……と信じたい。

 潤田の方へ視線を向けると、同じような事を考えていたのか、こちらを見て覚悟を決めたように力強く頷いた。そしてヴェリナさんの方へ向き直り、


「なるほど、わかりました。僕たちを助けてくれたのは感謝しています。

 改めて、潤田 一統といいます。彼女はカイラ・枢木です。

 ところで、やらせたい事とは?内容を聞いてから決めたいと思います。」


 潤田は尋ねた。かなり挑戦的な言い方だったけど、ヴェリナさんはそれに対して怒るどころか、逆にうっすらと微笑んだ。あまり友好的な笑い方ではなさそうだけど……。

 

 次の瞬間、激痛が走った。黒い霧が、胸をすり抜けて心臓と肺を鷲掴みにしてきているのを感じる……!ヴェリナさんの方へ何とか視線を送ると、両目が紫色に輝いていた。何とか呼吸が出来ないかともがくけど、黒い霧は私の命そのものをがっちりつかんで離そうとしてくれない。

 事故の時には感じていなかった死への恐怖が、猛烈に湧き上がってくる。生き返れたはずなのに、意味も分からないまま又死ぬなんて嫌だ……!


『百も生きてない……それどころか魔術すら知らない子供にしては、肝が据わっている方ねあなた達。

 二人いる事でお互い支えあっているのか、それとも一人でもしっかりしてるのか……別段、興味がある訳ではないけれど。』

黒い霧が、ゆっくりと拘束を緩め始めた。ギリギリ息が出来るようになり、必死で酸素を取り込む。ヴェリナさんの目の輝きも、拘束が緩むにつれて元の黒目に戻っていった。これが魔術……?

 咳き込む私と潤田の様子をつまらなそうに少し眺めて、また話始めた。

 

『まあ、あなた達にしてもらいたい事は、きっとあなた達のような若者にこそ、向いているものだと思うわ。

 「世界を救う」なんてのは、私には見るからに似合わないじゃない? だから代わりにあなた達にやってもらうわ。』


 ーーえ? 世界を救う? 私たちが? なぜ?

「あの……なぜ私たちが選ばれたんですか?」

『……タイミングが良かったのよ。』

「タイミング、ですか?」

 

『私がとある世界に関して悩んでいる時、あなた達が元の世界で事故に遭ったのを見たの。

 この場所『次元の果て』は、様々な世界の様子を眺める事が出来る。さらに他の世界へ行ったり来たりもしやすいの。

 

 ちょっと巻き戻してみたら、そっちのウルダって子、魔術のセンスがあると分かってね。この子を使えばいいかと思ったの。死んでしまうよりは、よっぽどましでしょう?

 後、カイラと言ったかしら? あなたに関しては……まあオマケね。彼と仲が良かったのは幸運だと思いなさい。

  

 本題に戻るわ。あなた達に救ってほしい世界は、最近できたばかりの世界で、魔術による争いが絶えない世界。私が元々住んでいる世界と非常に近いせいで、余波が飛んできてとても煩わしいの。


 とはいえ私が出張るのは面倒だし、何より死者が世界を征服してしまうわ。静かになるならそれも一つの手だけど、他の魔術師に目を付けられるのはもっと嫌。

 だからあなた達はその世界に行って、争いを止めなさい。世界を滅ぼすなり、平和にするなりは一任するわ。その為の力はちゃんと与えるから安心なさい。』


 さっきので怒っているのかと思いきや、意外にも丁寧に説明してくれるヴェリナさん。

 私が名前呼びで、潤田だけ苗字呼びなのってなんで……あ、そうか。潤田が名乗った時に、頭に来たほうが名前だと思われたのかな。


それにしても、私は潤田のオマケなんだ……。

いや、いいけどね……。

 

 でも凄い、本当にファンタジーそのものの世界に行って、それを救うだなんて!

 ワクワクはするけど、争いを止めるためっていうのは怖いな……。

「ねえ、潤田はどうしたい?」

目を向けると、潤田は考え込んでいた。


 ……あ、この考え方はもう答えが決まってるヤツだ。

 世界大会の予選に通って、外国に行くかどうか悩んでいる時にも見た。

 考えてはいるんだけど、好奇心で目がものすごく光ってる。

 小学校の頃からずっと見ているけど、この状態の潤田は、もう「どうするか?」は完全に決まっていて、そのためには何が必要なのかを検討しているだけ。気づいたらみんなをほっぽって先にゴールへと突き進んでしまう。


 でも、こういった時の潤田が決めた選択はほとんどが正しい。なんてったって初出場で世界チャンピオンになれたんだもん。

 ……そして潤田が口を開いた。


「わかりました。ヴェリナさん。恩人であるあなたの頼みは引き受けます。

 では、その世界の構造と、 魔術という概念についてを教えてください。ここにいるうちにマスターしておきたいので。これからよろしくお願いします。」

そう言って頭を下げた。


『……え? 全部? 』

「え? はい。」

え?


 ーーこうして、私たちの異世界の物語は始まる。

数十日のレクチャーの後に。




~今日のカード~

《黄泉からの帰還》

黒のリアニメイト(復活)呪文。

破壊されてしまった召喚獣を場に戻す。

ヴェリナさんの得意技。


ここまで読んで頂き誠にありがとうございます!


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