俺の歩んだ3年と夏目親子の3年。
転校してから2日目の登校の日は昨日より一層残暑が残るよな気温だった。額から汗がだらだらと出てきており、苦痛以外の何ものでもなかったが、ここ茨城は田舎ということもあり、心地よい風が吹いていた。それが俺にとって唯一の救いといえるだろう。そんな中、校門を通り、歩いていると1台のミニバンが俺の前で止まった。俺の前でというより、昇降口のまで止まった。運転席からは母であろう人物が降りてきて、後部座席の席を開けた。後部座席から車椅子を下ろし設置すると、予想通り夏目が降りてきた。夏目はこちらにニコッと笑いかけ手を振ってきた。夏目の母親もこちらに対して一礼してきた。俺はまだ夏目の母親に顔を合わせる勇気がなかったので正直、動揺したが、母親が俺に気づくことはなかった。
登校している生徒も多かったので、夏目の母親は周りに一礼をし続けていた。そんな気持ちを汲み取ることができない生徒も多くいるようで、「あーあ。涼しい中、登校できる奴はいいよなぁ。ママ様も過保護ーー。。」「てか、邪魔なんだけどこっちの気持ちにもなれっつーの。」そんな会話が耳に入った。
おいおい。そんな声量で話したら聞こえるだろう。と思ったが、彼女らはあえて聞こえるように言っているのだろうと思った。彼女ら自身その立場になっていないのだし、まだ子供だから汲み取ってやることができないのも仕方ないかなと思う反面、もう高校生なのに言っていい事と言っちゃいけない事の区別もつかないのかと思う自分がいた。俺が後者のような気持ちに100%なりきれないのは、俺自身が夏目遥という少女を巻き込んでしまったという事実があるからで、実際にあの事故がなかったら彼女らのようなことを平気で言っている側に回っていたかもしれないと思ったからだ。そう考えると心底自分がダサく見えた。
夏目の母親を見ると笑ってはいたが、その笑みの中に様々な感情がこもっているのだろうと思った。
「ママ、ありがとう。帰りはまた連絡するね。」
「ええ、教室まで一緒に行こうかしら。」
「大丈夫だよ、心配しないで、こういうのには慣れてるし気にしないから。」
その会話が聞こえた時俺は改めて痛感した。夏目親子は事故が起きてから今日までずっとこうやって生きてきたんだと。周りの声が耳に入ろうと必死に堪えてきたんだろう。きっと今までたくさんの避難を受けてきただろう。母親なんてきっと陰湿なことを言ってる子たちに憤怒の気持ちさえ抱いただろう。夏目の母親にも謝らなければ。俺はそう思った。勢いよく夏目親子に近づいたが、言葉がでてこなかった。
なんて言えばいいんだろう?
こんな大衆の面前で言っても夏目の母親は俺に本音を言えないんじゃないか?
そもそもこの謝罪は夏目に謝った時、同様俺自身の罪悪感を消したいだけなんじゃないか?
そんな謝罪になんの意味がある?
そう言った考えが真っ先に浮かんでくるのは俺が謝ることを無意識のうちに恐れているからなんじゃ?
どの気持ちも本当だけど本物ではないだろう。そう思った。
あーあ。夏目も夏目母も不思議そうにこっち見てるよ。2人を見てそう思った。そりゃあ、いきなり距離詰めたらそうなるわな、とも思った。夏目も大衆の面前で俺に関わらないように気を使ったのだろう。だから小さく手を振ったのだろう。夏目は自分と関わっているといいことはないと思ってるから。
こんな状況で謝罪するのはやはり違うと思い直した俺は母親に向かって声をかけた。
「夏目は、遥さんは俺が教室まで送ってきます!」
不器用な俺にできるのはこれが精一杯だった。
夏目の母親は一瞬動揺したけれど、俺に夏目の警護を任せてくれた。
肝心の夏目は少しムッとした顔を見せた。その表情の意味はきっと私に関わるとあらぬ噂が、、、とか思ってるんだろうけど、そんなことは俺は気にしない。俺が笑いかけると夏目もニコっと笑った。
夏目が笑ってくれたのが俺は何より嬉しかった。