親への疑問
なかなか寝付けない夜、俺は考えていた。父さんや母さんは夏目が車椅子になっているということに気付いていたんだろう。俺を傷つけまいと隠していたことはわかっていたけど、なんで教えてくれなかったんだろうという気持ちばかりが先行してならなかった。本当は事故から助けてくれた女の子、夏目が自分より重症なことなんて事故現場からも両親の表情からも見て取れたのに、そのことに関して強く考えなかったのは無意識のうちに逃げていたんだろう。夜なのでネガティブになりやすいこともあり、自分の嫌なところばかりが頭に浮かんだ。
それでも俺は事故にあってから3年間自分なりにできることはしてきたつもりだ。もし、もう1度、あの女の子に会えたら、助けられるんじゃなくて助けられるような人に。と思ったので強くなろうと努力した。脳筋の俺は物理的に強くなることしか思いつかず、筋トレをしたり走り込みをしたりした。気づけば体は大きくなり、周りからも一目置かれるようになった。その努力を否定するわけではないが、今日の夏目を見るとなんの意味もない気がした。無性にイライラしたが、その時は気を沈め、なんとか寝ついた。
次の日、俺が起きると朝食は既に4人分用意されていた。どうやら昨日寝付けなかったこともあり、起きるのが遅くなってしまったようだ。
「お兄。起きるの遅いよ。」
これは俺の妹の『花火』まぁ、生意気だけど可愛い妹だ。現在中学2年生。今のところは俺と違って反抗期に入ってなさそうだ。
「翔、時間は大丈夫なの?」
「学校はどうだ?」
父さんや母さんは俺を心配して聞いてくれたが、俺はどうしても夏目のことが気になって仕方なかった。
「なぁ、父さん、母さん。花火がいるところで聞くのも変だけど、夏目遥って知ってるか?嘘は言わないでほしい。」
「何?お兄。早速彼女でもできたの?」
「残念。そうじゃない。」
普段は俺をいじるのが好きな花火だが、空気を読んでか、それ以上踏み込んで来ることはなかった。
「あ、花火、今日新しい友達と登校の約束してるの忘れてたぁ!ごちそうさま!行ってきます!」
花火は颯爽と家を後にした。なんてできた妹なんだろう。
「翔、その子の名前どこで聞いたんだ?」
父さんが一呼吸空けて俺に聞いてきた。
「どこも何も俺と同じ高校の同じ学年だからね。」
「そうか。」
「で、父さんと母さんはどこまで知ってるの?」
俺がそう聞くと父さんは諦めたかのように口を開いた。
「父さんも母さんもその子がお前を助けて、車椅子生活になり、塞ぎ込んでしまったということもあり、都会で住むより、田舎の方がということで、引っ越したことまでは知っているけど、まさかお前と同じ高校だとは知らなかった。だけど、お前に伝えないようにしようって言ったのは父さんが言ったから母さんは責めないでくれ。」
「別に父さんも母さんも責めるつもりはないよ。ごちそうさま。行ってきます。」
リビングから出る時、父さんと母さんの心配そうにこちらを見ている姿が見て取れた。そんな状態の2人に夏目と友達になった。なんていうことはできなかった。