夏目遥
「遥、お待たせ、少し遅れちゃってごめんね?」
「大丈夫だよ、いつもごめんね。」
私は中学2年生の頃トラックに轢かれ車椅子生活を送っている。
しっかり時間をかけ、リハビリをすれば自力で歩くくらいはできるようになっていたかもしれないけど、2年近く塞ぎこんでリハビリをサボっていた私はそうはいかなかった。
「今日は何かいい事でもあったの?」
唐突にママが口を開き出した。
「ママ急にどうしたの?笑」
「今日はお得意の偉人の名言集読んでなかったから、何かいいことでもあったのかと思っただけよ。それにほんの少しだけ口元が緩んでたわよ。」
ママには私のことお見通しのようだ。
「そうなの!今日は車椅子になってから初めて友達ができたの!さっきもママが迎えにきてくれるまで、お話会開いてたの!」
夏川くんが謝った罰でママが迎えに来るまで付き合わせちゃったけど、本人は元からそうするつもりだったって言ってたしそのことは伝えなかった。
「ほんとに!?良かった。」
ママが少し目に涙を浮かべてる姿を見て、私のことすごく気にかけてくれてるんだなぁと思った。
「ほんとだよ!知り合って初日だけど仲良くなれたの!転校生の男の子なんだけど強面で周りの人たちと上手く馴染めなかったんだって。笑だけど内面はすごく優しくてね、同じ学年の人に嫌味言われてる時に助けてくれたの!」
「友達の話が聞けるのはいいけど、お母さん嫌がらせの話を聞いたら不安になっちゃったよ。大丈夫なの?」
「大丈夫だよ!私には偉人の名言とそのお友達がついてるから!」
「お友達はともかく偉人の名言は嫌がらせ中は役に立たないからね。」
ママの的確なツッコミに私思わず吹き出しそうになる。
そんな私を見てかママは安堵の表情を浮かべていた。
「今度そのお友達家に連れてきなさいよ。お礼もしたいし。」
「それはまだ早いよ!ゆっくり距離を詰めてかないと!」
「そうね笑」
「でもいつか連れてくね!」
「パパには内緒よ。卒倒しちゃう。」
「そうだね笑」
ママには隠そうと思ったわけじゃいけれど、夏川くんが私と同じ時に事故があった人だということは言えなかった。
「まぁ遥が笑ってるようでお母さんは何よりよ。」
「心配してくれてありがと。」
確かに自分自身でも久しぶりに誰かと話せて浮かれているのはわかった。
まだまだ学校生活で嫌ことは多いけれど明日からは1つの楽しみが増え、少しだけ学校が楽しみになっていった。