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俺も私も生きている  作者: 高槻博
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夏川翔②

転校して初日となれば、クラスメートにチヤホヤされながら昼食を取るのが、一般的に多くみる風景だろうが、俺がだす負のオーラとDQNのようなクラスメートたちが喧嘩を売られたと言いふらしていたことで誰も寄り付かなくなっていた。新しい学校生活に期待を膨らましていたわけでもないので、特別ショックを受けることはなかった。


1人になった俺は中庭付近に誰も寄り付かなさそうなベンチを見つけたので、そこで食べることにした。

弁当を開けると母さんなりの気遣いだろうか、いつもより豪華なお弁当だった。高校生になってそんな気遣いはハッキリ言って無用だが、そんな豪華な弁当を誰にも見せる機会がないことを心の中で謝罪した。


「あ。」


そんな感傷に浸っていると、この学校で数少ない聞き覚えのある声が聞こえた。夏目さんだ。


「どうしたの?」


「いや、ここのベンチで食べてる人珍しかったので、ごめんなさい。他探します。」


夏目さんは逃げるようにその場をさろうとする。


「あの、夏目さんが嫌じゃなかったら一緒にどうです?」


普段は同級生に対して優しい口調を使う機会なんてそうそう無いので、恥ずかしい。


「え、あ、じゃあ、すいません。」


咄嗟に止めてしまったが、俺はどんな顔して話せばいいだろうか。まず謝罪をしなければ。そんなことを考えていると夏目さんが話し出した。


「夏川くんのお弁当豪華だね。美味しそう。」


「母さんが張り切っちゃてさ!よかったら食う?」


「お言葉に甘えて少しもらおうかな。」


「少しと言わず全部食べな!」


「それはちょっと多いし、大丈夫だよ。ありがとね。」


夏目さんが自分をかばって事故にあった子だとわかってるから普段通りに話すことができない。


夏目さんは俺のことを認識しているのだろうか。聞いてみようかと思ってると、気をきかしてか夏目さんが再び口を開く。


「転校初日に聞くのもどうかと思うけど、どう学校生活は?」


夏目さんのこと考えてたら、人が寄り付かなくなったなんて言えないし、体育館から帰る時、揉めたからなんても言えない俺は別の嘘にならない理由を考える。


「俺はこんな風貌だし、ちょっと怖がられちゃって笑」


「そっか。大体の人はみんな見た目で判断するからね。慣れるよう頑張れ。私だって夏川くんより長くこの学校にいるけど全然慣れないし。」


「そうなの?」


「まぁこんな足してるしね。クラスじゃ無口だよ。自慢じゃないけど、こんなになるまでは友達もたくさんいたし、結構モテてたんだよ?」


その言葉が俺の胸に刺さる。俺を助けたばかりにたくさんの大切なものを失ってきただろう。


「重い話で、ごめんね。」


夏目さんの謝罪で俺の表情が明らかに変わってしまったことに気づいた。

謝る機会を失った俺はそれから二人で他愛のない会話をして昼を終えた。


5、6時間目の授業もろくに頭に入ってこなかった。このままじゃいけないと、夏目さんが覚えてようが、覚えてなからろうが、放課後、本当のことを話し謝罪しようと思った。


お昼に夏目さんのクラスが隣の3組だと聞いたので、出向こうとすると、またしにても担任の先生に呼ばれる。

担任からの要件は本当にどうでもいい与太話で1時間という時間だけが過ぎていった。

もう教室には居ないだろうと、3組を覗くと1人本を読む姿があった。


「あ、夏川くん、帰り遅いね。」


居ないものだろうと思ってたので呆気にとられる。


「どうしたの?私の読んでる本が気になる?これはね、偉人たちの名言集だよ。」


夏目さんはまたしても気を使って話題を振ってくれる。

この優しさに乗ってはいけないと会話の腰を全力で折りにいった。


「夏目!本当にごめん。その足、俺のせいなんだ。謝っても仕方ないことはわかってる、それでも本当にごめん。」


謝ることに必死で語彙量の落ちている俺だが、できる限り、精一杯の謝罪をする。

すると被害者の同級生は俺の予想とは見当違いのことを言い出した。


「夏川くんのせい?私がこうなったのはトラックに轢かれたからだよ?運転手は髭ぼうぼうのおじさん。夏川くんじゃないよ。」


「運転手じゃないけど、夏目は俺をかばうために飛び込んできたから足がそうなっちゃって。」


バン!!!


俺が必死に説明をしていると、夏目が手のひらで机を叩く。


「あの時の男の子、夏川くんなんだね?最初に言っておくけど私恨んだりしてないから、謝らないで。恨んでるとしたら運転手だけ。確かにそれで辛い思いもたくさんしたし、最初は塞ぎ込んだりもしたけど、どうしようもないものはどうしようもない。」


「だからって平然としてられるほど俺は能天気でも無関心でもない。」


「夏川くんは悪くないよ。でも悪いと思って私に謝ってくるなら許してあげる。その代わり、もう絶対そのことで謝ったりしないで。そして変に下手にでたりしないでフェアにいこ?ていうか私が勝手に飛び込んだだけだし。」


その言葉1つで夏目自身の器の広さが計り知れないものだと思った。もし俺が逆の立場ならどうなってたかもわからない。

問題が片付いたわけではないが、彼女の言葉に心が少し楽になった。


「わかった。それでも事故の時は助けてくれてありがとう。そんでごめん。」


「はい!夏川くんまた謝ったー。罰として私のママが迎えにくるまで私とここでお話会ね。」


「言われなくてもそうしようと思ってたよ。」


「ていうか、いつの間に名前呼び捨てになったの!」


「フェアなんだから別にいいだろ。てか、クラスでもその明るい感じでいけばいい感じになるだろ!」


「残念ながら、クラスではみんなに迷惑をかけたくないので無口で行きます!」


「よくわかんねぇな。」


俺は心にかなりの罪悪感を残しながらも夏目が望むならと、出来るだけフェアに接していた。

フェアになって話す夏目との会話はとても楽しかった。

1時間ほどすると夏目の母が迎えにきたようで見送りまでしようと思ったが夏目の母に会う勇気は出てこず、俺は帰路をたどった。


その日は3年間探し続けたこと会えたからか、それとも怪我への罪悪感からか夜は中々寝付けなかった。








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