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俺も私も生きている  作者: 高槻博
2/8

夏川翔①

夏休みも明け、始業式が始まる今日、俺は転校先の高校に初めて登校する。

緊張などの感情は性格上一切なく、自分でも可愛げないと思うほどだ。


職員室に着くと、担任の先生に連れられ自分のクラスに誘導される。

クラスは2年4組だ。ドア越しにでさえ、新しいクラスメートが夏休み明けで浮き足立ってることが伝わってくる。

予鈴のチャイムとともに担任の先生が教室に入る。俺はドアの外で待ってるよう指示を受けたので、静かに待つ。


「えーみんなおはよう。夏休み大きな事故の連絡もなくて良かった。早速だが、親御さんの都合で転校してきた子がいるので紹介する。入ってきていいぞ。」


俺はその先生の声と同時にドアを開け、教卓の横に立つ。


「初めまして、東京から来ました夏川翔です。よろしくお願いします。」


「夏川はとりあえず1番廊下側の後ろに座ってくれ。」


俺は先生の指示通り、席に着くと前の学校と変わらないような朝礼を行い、体育館へ始業式のため移動することになった。


移動への道中をクラスメートが体育館へ案内してくれた。


「夏川サッカー部入らね?」


「夏川くん彼女いるの?」


「強面系だね!?」


「部活なにやってたの?」


様々な質問が同時に飛び交って騒がしかったが、第1印象を悪くしたくないということもあり、出来るだけ質問に答えた。


蒸し蒸しと暑い体育館の中に人が集まる。人口密度が高いせいでさらに暑く感じるのにも関わらず校長の長い話で皆多少なりの苛立ちを覚える。始業式が終わる頃には全校生徒が汗だくになっていた。


全校生徒が教室に帰ってくなか、担任と業務連絡をしていた俺は遅れて体育館を後にする。

最後尾を歩いているとうちのクラスメート?であろう男子3人を見かけた。

いかにもDQNのような風貌で、なにやら騒いでいる。

近づいてのぞいてみると車椅子の女子に対して「邪魔だから違うとこ通れよ。」と言いながら乱暴をしている。


俺も長時間体育館に居たせいもあり、そんな行為にひどく腹を立てた。


「邪魔なんだけど、男が寄ってたかって女子いじめて恥ずかしくないの?」


我ながら転校初日からなんてこと言ってんだろうと思った。


「は?転校生がヒーロー面してんじゃねよ。」


「生憎、俺は悪人面だから。見てるこっちが恥ずかしいから失せろよ。」


そういうと、舌打ちをしながらもあっさり引ていく姿を見て、悪人面も役に立つもんだなと思った。

八つ当たりのようだが、少しはスッキリしたので、教室に帰ろうとすると車椅子の子が声をかけてきた。


「あの、ありがとうございます。」


その子の声に反応しようと振り返ると、唖然として腰が抜けそうになった。

その子は俺が2年間探し続けた女の子だった。確かな証拠がある訳ではないが、あの可愛らしい顔と綺麗な黒髮は僕の記憶する女の子で間違いがなかった。

やっと会えたという気持ちで歓喜したが、その気持ちは一瞬で消え、血の気が引いていった。


なんでか?そんなの言うまでもない。その子が車椅子に乗っているからだ。


「どうかしましたか?」


その子の言葉で自分の世界から引き剥がされる。


「いや、なんでもないですよ!あの、俺転校してきた夏川翔です!2年です。」


「私は夏目遥です。2年です。さっきはありがとうございました。」


「お礼されるようなことしてないですよ。教室まで送りますよ。」


「大丈夫ですよ。車椅子になって3年になるので自分でいけます。」


夏目さんはニコッと笑って車椅子を手慣れた手つきで操り去って行った。


苛立った気分から一転、どうしようもない罪悪感に追われる。3年前からといことはほぼ間違いなく事故の時から車椅子ということ。

夏目さんに会ったら助けてくださってありがとうと感謝の言葉を言おうと思ってたが、僕がどんな面下げてそんなこといえるだろうか。


そんなことを考えているうちに授業も4時間目まで終わり、僕の雰囲気を察してか、いつの間にか僕の周りには誰も寄り付かなくなっていた。








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