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私立叢雲学園怪奇事件簿【第二部 魄王丸編】  作者: 来栖らいか
【第二章 錯綜】
11/42

〔4〕

 本棟のリビングでは遅い昼食を終えた全員が揃って、各自にくつろいでいた。真っ先に優樹に気付いたアキラが、手にしていたカメラを置いて立ち上がる。

「秋本は?」

「大丈夫です、何か口に出来る物を貰いに来ました」

 そうか、と、安堵の表情を浮かべて直ぐに顔を曇らせたアキラが小さく声をかけた。

「何があった」

 優樹は周りをさっと見渡した。アキラと佐野は、遼の特別な力を知っている。しかし他の者達は、知らない。

「何か見たようだけど……詳しくは後で話します」

 了解の仕草で、アキラは優樹の背を叩いた。

 美月に頼んで、リンゴジュースとクラッカーを貰う。「おにぎりでも」と言う申し出は、遼の様子を見た限り食べられそうにはないと判断して断った。

 コテージに戻りかけたところを呼び止められ優樹が振り向くと、美月が二つの握り飯を手にしたトレーに載せた。

「遼君が食べられなくても、君はお腹がすいてるでしょう?」

「……有り難うございます」

 遼を案じて我が身に気が回らなかった優樹は、美月の気遣いに赤面した。優しい微笑みを浮かべ、保護者の眼差しで見つめるその目を真っ直ぐに見返す。

 その場では「関係ない」と反論したものの、美月が何かを知っていると言った遼の言葉が気に掛かる。

 何を知っているのだろうか? 

 直接聞いてみようとしたその時、冬也がリビングに顔を出した。

「美月、杏子ちゃん達が駅に着いたと電話があった、迎えに行ってくるよ。二時間くらいで戻るから、郷田さんと及川さんが来たらそういっといてくれ」

「父さんは?」

「生け簀にニジマスを捕りに行っている、頼んだよ」

 そう言い残して、冬也は車のキーを鳴らしながら急いで出て行った。

「郷田さんと及川さん? 俺たちの他にお客さんが?」

 あらかじめ、冬也から他の客はないと聞いていた優樹が美月に尋ねる。

「違うわ、郷田さんはうちの専属シェフで、及川さんは従業員よ。料金をいただいているのに、毎晩父の山小屋料理じゃ申し訳ないもの。今夜は郷田さんの家庭風フランス料理でおもてなしするわ。女の子のために、私はケーキを焼くところなの」

「あ、俺もケーキ好きです。どんなケーキですか?」

 ゲームの攻略本を投げ出し、遥斗が立ち上がった。どうやら美月に話しかける切っ掛けを捜していたらしく、先ほどからこちらを伺っていたようだ。

「木イチゴのパイと、山栗を使ったマロンケーキよ」

「うわ、美味そう」

 嬉しそうな声を上げた遥斗を、天文雑誌を見ていた宙が冷たく見上げる。

「おまえさ、何しに来てるんだ?」

「えっ? えっと、何でしたっけ先パイ」

 本来の目的よりも、仲間と騒ぐ事が楽しくて仕方ない様子に批判を込めた宙の言葉を意にも介さず、遥斗はニコニコしながら轟木に尋ねた。

「春の星座と土星・木星の観測。それからガリレオ衛星相互食の記録だよ」

 苦笑混じりに応じた轟木に、ぺろりと遥斗は舌を出した。

「頼りない後輩だなぁ、轟木」

 アキラが茶化すと遥斗はソファに座り直し、横にいる宙と肩を組む。

「いいんですよ俺は、だって宇宙飛行士になるんだから。バックアップは宙がやってくれる事になってるんだ」

「勝手に決めるな、約束した覚えなんかない。本気で宇宙飛行士になるつもりなら、もう少し真面目に勉強しろ」

「やっぱ、そう思う?」

 恒例のやり取りに、既に他の仲間は関心を示さなかった。

 屈託のない二人に優樹も笑みがこぼれたが、背を向けた途端、真顔に戻る。

 遙人と宙の距離感が、自分と遼には足りない。

 互いの溝を埋めなければ乗り越えられない事態が、必ず来る……。

 それは何か、今は解らなかった。

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