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第9話 アカデミーなんて嫌だ

モンスターに襲撃されたアカデミーだったが、太郎の父ヒロシの活躍によりモンスターは見事全滅した。

仕事をやり終えたヒロシはやたらドヤ顔でこちらを見ている。なんとなくムカツク。


「どうだ太郎。父さんの活躍を見て勇者っていいもんだと思っただろ?」


「いや全然」


「はっはっは、冷たいな太郎は。父さんは久々に沢山のモンスターと戦闘したから燃えちゃったぞ」


「物理的にも燃えてたね」


「おっ!」


【ヒロシのレベルが上がった!】


「アンタがレベルアップすんのかよ!」


主人公より先に父のレベルが上がるとは斬新だな。


【太郎のレベルが上がった!】


「え?なんで?」


「説明しよう。父さんが稼いだ経験値の一部が太郎にも加算されたのだ。いわば『ご家族優待ポイント』だ」


(いいのか?そんなんでレベル上げしちゃって)


この調子で父ヒロシがすぐ()る課の仕事を頑張ってくれれば勝手にレベルが上がるのに……。

そんなだらしない事を考える太郎であった。


「しかし父のおこぼれにばかり甘えるなよ。経験値は自分で稼ぐんだぞ」


「わかったよ」


「そうそうそれと、太郎に渡したいものがあったんだ」


そう言うとヒロシは何か紙切れのようなものを渡した。


「なに?これ」


「母さんからの手紙だ。母さんもああ見えて太郎の事を心配してるんだぞ。さあ早く母さんの心がこもった手紙を読みなさい」


気丈に振る舞っていたがやはり子を心配する親心という奴か。

母の気持ちにちょっとだけじーんとした太郎は、手渡された手紙を開き目を通した。


『にんじん・じゃがいも・たまねぎ・牛肉』


「すまん!それは夕食の買い出しメモだった!」


「うん、だろうね。察するに今夜はカレーだね」


「残念!肉じゃがでした!」


「どうでもいいわ!いちいちムカつくドヤ顔しやがって!」


「それじゃあ太郎、ちゃんと手紙を読むんだぞ」


そう言い残してヒロシは職場へと戻って行った。とりあえずお疲れさん、パピィ。


太郎は早速手紙を読んでみた。


『太郎へ。辛い勇者修行になると思うけど、弱音を吐かず頑張るのよ。なお金銭的な援助は一切しないのでお小遣いは自分で稼ぐように』


(くっ……こんな事をわざわざ)


やはり親心なんてなかった。


なんやかんやあってゴタゴタの入学セレモニーとなってしまったが、一先ず太郎は勇者クラスへと戻った。入学初日からこの騒ぎでは、きっとこの先ますます気苦労絶えない日々になるだろう。


ところ変わって、ここは勇者アカデミーの寮である。前にも説明した気がするが、勇者アカデミーは全寮制。膨大な人数の生徒が、アカデミーの寮で生活している。

男女別に別れた棟にはバス・トイレ完備の部屋が用意されている。

ちなみに大浴場から食堂まであり、割と快適そうな作りである。


「えーと、あ、この部屋だ。三人部屋なんだな」


部屋のドアには勇者(イサモノ)の文字。そしてルームメイト二人の名前も書かれていた。


「あんなガラの悪い連中と一緒に生活するなんて嫌だなあ……」


不安を抱えながら部屋に入る太郎。中では既に二人のルームメイトがくつろいでいた。


「おう、遅いじゃねーかチビ!」


「テメェこれからは俺達と同室だからな!」


モヒカン頭にいかつい筋肉質の体。教室に居た世紀末な男達がルームメイトである。

言っておくがこのルームメイトたち、これと言って重要キャラじゃないので名前は特に出さないでおく。ルームメイトA、Bとかモヒカン1、2とか適当に呼べばよし。


「おう、チビ。早速なんだけどよー」


「はっはい!?なんでしょうか!」


すっかり敬語でへっぴり腰の太郎である。


「ロビーにある自販機でジュース買ってこい。俺たち二人分な」


「は、はあ……」


「言っとくけど梨ソーダじゃねぇと駄目だかんな!他のもんと間違えんじゃねぇぞ!」


(なら自分で買ってこいよ……)


と、思ったが逆らったら何をされるかわからないので、しぶしぶ買いに行く太郎であった。

しかもあいつら、頼んでおいてお金をくれないとは、完全に太郎に払わせる気である。なにが悲しゅうて初対面のモヒカンマッチョ二人におごらなければいけないのか。

それ以前にこの状況、完全に太郎は使いっ走りである。


最高にブルーな太郎がロビーへ行くと、偶然自販機でジュースを買っている安倍に遭遇した。こういう時、嫌でも顔を合わせてしまうのが腐れ縁の宿命である。


「おう、太郎じゃん。お前も買いに来たの?」


「うん……俺のじゃないんだけどね……」


「暗っ!なんか暗っ!どうしたの太郎」


「どうせ中学の時いけてないグループだった俺なんてパシリで当然だよね……」


「な……(コイツめんどくせーな)何があったんだよ。俺が聞いてやるぞ?僧侶はヒーラーでもあるからな。心の傷を癒してあげましょ」


「いや、いい……」


太郎は超猫背姿勢のまま自販機の前に立った。安倍は知っている。太郎の猫背が悪化している時は大体メンタルを病んでいる時だと。


(しょうがないか。なりたくなかったのにいきなり勇者だもんな。その上どうやらクラスメートにはいじめられてるみたいだし。ま、ほっとけばそのうち元気になるだろ)


そう思いながら安倍は自販機で買ったジュースを飲み始めた。


「あれ?頼まれてた梨ソーダが売り切れだ」


「あ、ごめん。さっき俺が買った。そして今飲んじゃった」


「安倍エエエエエエエエ!!」


「自販機なら食堂の方にもあったからそっちで買ってこいよ」


「わかったよ、ああもう!」


太郎はそう言うと食堂へと走って行った。入学初日からパシリにされている太郎。

そんな太郎の後ろ姿が妙に可哀相に見える安倍だったが、とりあえずどうにかなるだろ。と思いひっそりとエールを送るのだった。


【つづく】

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