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第3話 だから嫌だって

和やかな勇者(イサモノ)家の朝をぶち壊したのはモンスターの襲撃だった。

さっきまで味噌汁すすりながら呑気にテレビを見ていたというのに。もはやのんびりとした朝どころではない。特に両親はすっかり戦闘モードである。


「戦闘準備OKよ!」


「こっちもOKだよ母さん!」


すっかり戦う気満々な両親だが、状況が呑み込めない太郎は未だ戸惑うばかりである。

大体公務員と専業主婦がモンスターと戦えるのか?いや一応元・勇者と元・女戦士だからそんな心配杞憂か。

そうこうしているうちに、父ヒロシはすでにモンスターへと近付いている。


「見ていなさい太郎。父さんああ見えてすっごく強いんだから」


「ああ見えてって言うか見た目が一番常軌を逸してるんだけどね」


子犬程度の小さなモンスターと成人男性のドラゴンではどう見ても父ヒロシの方が凶悪モンスターである。


「父の雄姿をよく見ておくがいい!はいやあああ!はいっ!はいっ!はいぃっ!」


ヒロシはどこぞの香港映画のように声をあげながらモンスターを素手で張り倒す。勇者って剣で戦うんじゃないのか。というかこの程度のモンスター、素手で充分なのかもしれない。

ヒロシに続いて母みち子も華麗な足技でモンスターを蹴り飛ばす。流石は女戦士。長年専業主婦として生活してきたブランクなど感じさせない、鮮やかな戦闘である。

やり返す暇もなくコテンパンにやられたモンスターはすっかり戦闘不能に陥った。この状況からしても、やはり凶悪モンスターは父ヒロシである。


「どうだ?モンスターとの戦闘方法はわかったか?」


悠々とモンスターの亡骸を横に語る父ヒロシ。戦闘も何も、あんたがやったのほとんどリンチみたいなもんだろ。


「嫌だ!俺は絶対勇者なんかなりたくない!」


「嫌だなんて言うんじゃない。なるんだよ勇者に!」


「倒置法で言うほどの事か」


息子が全力で拒否しているにもかかわらず、全く折れる気がしない。やはり勇者への道を避けるには、この家から家出するしかなさそうだ。


「大体勇者ってどうすればなれる訳?役所にでも申請するの?」


余りにも押しの強い両親のせいか、心なしか太郎、少し勇者に興味が湧いてきたようだ。それとももう若干諦めの境地に入っているのだろうか。


「おっ、なんだ太郎。父さんの活躍を見て勇者に興味が湧いてきたか?」


「そういう訳じゃないけど……」


「心配はいらないぞ。勇者を目指す者は『勇者アカデミー』に通って勇者になる為の勉強をすればいいのだ」


そう言うとヒロシは勇者アカデミーのパンフレットを取り出した。ちょっと待て。パンフレットを用意していたという事は、すでに勇者アカデミーへ通わせる準備をしていたのかコイツ……。


パンフレットには勇者アカデミーの概要が書かれていた。


『初心者でも安心!親切、丁寧な教育方針で新米勇者もあっという間に一流勇者に!勇者の血筋でなくてもOK!剣を握った事が無くてもOK!ゼロから始められるサポートも充実!君も勇者アカデミーで勇者を目指そう!』


ここまで胡散臭い学校に誰が通うというのだろうか。


「そんなところに通う暇あったらさっさと姫を助けに行った方がいいのでは?」


勇者になりたい訳じゃない太郎だが、このツッコミは適切である。


「バカヤローッ!レベル1の勇者にラスボスが倒せるかー!?あぁ――っ!?」


負けじと反論するヒロシ。なるほどこの理屈も間違っちゃいない。ラスボスって誰だよって話だが。


「それにさ、俺もう高校の入学決まってるんだよ!?今更勇者アカデミーなんて訳わかんないところ行けないよ!」


「ああ、それなら大丈夫だ。こんな事もあろうかと、父さん高校の入学取り消して太郎の代わりに勇者アカデミー受験しておいたんだぞ」


「!!!!」


怒涛の出来事に絶句する太郎であった。そりゃそうだ、勝手に入学取り消された上訳わかんない学校への進学が決まってしまったのだから。

太郎が思い描いていたそれなりの高校へ行きそれなりの大学を出たら安定した中小企業に就職するという平凡まっしぐらの人生は、この滅茶苦茶な親のせいで台無しになってしまったのだ。

それより替え玉受験でも問題なく入学できるって、この勇者アカデミーとやら本当に大丈夫なのだろうか?


「嫌だ嫌だ!勇者なんて嫌だよ俺は!俺はもっと地味で平凡な人生を歩みたいんだぁ!」


最早半泣きで悲願する太郎。しかしどれだけ抵抗しても、この両親に逆らえるはずがない。第一下手に逆らったら、先程のモンスターのようにボコボコにされるのがオチである。


「そんな夢もへったくれもない事言ってんじゃないわよ。勇者だって結構いい収入があるのよ?」


「そうそう、実は父さんも母さんも勇者アカデミー出身だしな!心配する事はない。アカデミーでしっかり勉強して、勇者としての素質を磨きなさい」


押しの強すぎる両親にすっかり丸め込まれた太郎は、もう反論する気すら起きずただただ運命を受け入れるしかないような気がするのだった。


(なんなの……?俺の平凡な人生はどこへ行ってしまったの……)


愕然とする太郎の気などお構いなしに、勇者アカデミーへの入学日は迫りくるのである。


【つづく】

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