第2話 勇者なんて嫌だ
前回両親に突如勇者になれと無茶ぶりされた主人公。彼の名は勇者太郎。ユウシャではない、イサモノである。
唐突に父からドラゴンの血を受け継いでいると告白をされたが、太郎の父ヒロシは見たまんまドラゴンである。ドラゴンがスーツ着て飯食ってる。どうしようもなく馬鹿げた光景だが、となると太郎は人間とドラゴンのハーフという事になるのか……?
「いいか太郎。歴史に名を残すには血筋が大切なんだよ。少年漫画だって大抵は主人公の血筋だろ?お前はドラゴンの血を引いてるとか、なんかこう血筋の時点で伝説っぽいから大人しく勇者になりなさい!」
相変わらず熱弁している父ヒロシ。それに対して息子太郎は呆れ顔で返答する。
「嫌だよ。勇者なんてなりたくないよ。大体歴史に名を残すって言ってもさ、太郎なんてダセー名前残したくないよ」
「おバカ!」
母みち子が太郎の頭をひっぱたく。
「アンタの名前はお父さんとお母さんが一生懸命考えたのよ。ありがたく思いなさい」
「そうだぞ太郎。お前だっていい加減なゲーマーが付けた『ああああ』とかよりマシだろ」
マシとかそう言うレベルの問題じゃないと思うが……。
話し合いの内容が大分くだらなくなってきたが、両親はますます熱心に勇者への道を勧めてくる。まあ先程の父の話から察するに、ガッポリ稼げる勇者は割のいい仕事なのだろう。多分。
「そんなに深く考える事ないのよ太郎。勇者になればメリットがいっぱいなの。人の家のタンスを開けてもツボを割っても怒られないし、履歴書にも勇者と書けるわ」
「大したメリットじゃないな」
「しかもお前は一国の姫を救うかもしれないんだぞ。そうすれば嬉しい特典がいっぱいだ。名声とか権力とか財産とか……」
「邪な言葉しかねえよ!」
どす黒い欲望を隠し切れない父ヒロシ。どうやら息子に荒稼ぎして貰い、楽な生活を望んでいるらしいぞこの公務員は。
「だからな、太郎。我が家の財産の為に、いやさらわれた姫の為にも思い切って勇者になりなさい」
「サラッと本音が出たよね今」
遂に本音が隠しきれなくなったぞこの公務員は。
さて、なんやかんやと家族会議を繰り広げていた勇者家だが、三人の目に再びテレビのニュースが飛び込んできた。どうやら先程さらわれた姫に関する続報らしい。
「こちらは姫がさらわれたというチバ王国の現場です!」
緊迫したキャスターの声が響く。どうやら生中継のようだ。
「なんと王国の至る所に大量のモンスターが現れています!これは姫がさらわれた事件と関係性があるのでしょうか!?この大量発生したモンスター、住宅地にも侵入をしているそうです。国民の皆様、くれぐれもお気を付け下さい!」
テレビに映し出されたのは無数のモンスターであった。恐ろしく牙をむき、人々に襲い掛からんばかりの様子が映し出されている。
モンスターなど滅多に出ない平和なチバ王国だが、今までとはうって変わって恐ろしいモンスターに侵略されていた。
「な、なんじゃこりゃあ!?」
松田勇作宜しく、太郎はテレビに向かって叫んだ。
「父さん!母さん!大変だよ!あんなに沢山のモンスターが……」
慌てふためく太郎を横目に、両親は相変わらず呑気である。
「よかったわねあなた。モンスター討伐も勇者の仕事よ。敵が多いほど儲けも増えるわ」
「そうだな母さん」
モンスターが出て恐ろしいどころか、この夫婦とことん儲ける事しか考えていない。その上そのモンスター討伐を息子に任せようとしているのだから、情もへったくれもあったもんじゃない。
なおこの世界ではモンスターを倒すと国から報酬が貰える仕組みである。勇者を職業としている者は、これで生計を立てている人が多い。
余談だがRPGとかでモンスターを倒すとその場でお金が貰えるのはどういう仕組みなのだ?モンスターの懐から抜き取っているのか?カツアゲみたいで嫌だな。
「お、俺に戦えと言うのか……」
「あら、戦闘なんて簡単よ。母さん昔は女戦士だったんだから。今は専業主婦だけど」
「父さんだってなかなか凄腕の勇者だったんだぞ。今は公務員だけど」
どこまでも過去と現在に差があり過ぎる夫婦である。
(家出しよう……)
太郎は決心した。こんな両親のもとに居たら絶対に無理矢理勇者の道を歩まされるに決まっている。そんな危険な道に進めるか。
太郎の人生設計は極めて平凡なものである。それなりの高校へ行き、それなりの大学を出たら、安定した中小企業に就職する。平凡な人生よバンザイ。
太郎がひっそりと決意を胸にした瞬間、突如勇者家のリビングの窓が粉々に砕け散った。
外から何者かが飛び込んできたようである。
「うわああ!?なんなのなんなの!?」
驚く太郎が目にしたのは、こちらに向かって威嚇するモンスターであった。
せっかくなのでモンスターの解説でもしてみようか。
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■モンスター『バウワン』
種族・獣
子犬のような外見をしたモンスター。小柄で一見可愛らしいが、性格は獰猛。鋭い牙と額に付いた大きな一本角を使い攻撃をしてくる。
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モンスターは唸り声をあげながらこちらを睨んでいる。正直あまり迫力のないモンスターなので大して怖くはないのだが、突然のモンスター襲撃に困惑する太郎である。
「あなた!早く部屋片して!」
「はい母さん!」
一方モンスターの襲撃に全く動じない両親は、冷静に食卓のご飯を片づけ始めている。
「ご飯のあるところで戦闘はできないからな。さあ母さん、片づけも済んだしモンスターと戦闘でもしようか!」
「わかったわあなた!」
「戦闘!?あんたらリビングで何を始める気なの!?」
【つづく】