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第11話 勇者(イサモノ)、勇者やめるってよ。

前回網走先生から激しい頭突きを食らって気絶した太郎は、気が付くと保健室のベッドに寝ていた。


「う~~ん……。あ、頭痛い……」


「おう、気が付いたか」


「網走先生、俺は一体……?」


「すまんな、ついうっかり腹が立って頭突きしてしもうた」


あの暴行がついうっかりで済むのなら、この世の秩序は無法地帯である。


(もう嫌だ。こんな学校、命がいくつあっても耐えられない)


どうにか意識が戻ったので教室へ戻ろうとする太郎だったが、授業の度に気絶させられるようではこの先生き残れる自信がない。

教室へ入る一歩手前になった時、とうとう痺れを切らした太郎は、思いのたけを網走先生に打ち明けた。


「せ、先生。俺もう学校辞めたいです!」


「な、なんやて!?」


「俺もう勇者なんて向いてないんです……。もう辞めたいんです……」


涙声になりながら打ち明ける太郎。


「とりあえず、教室戻ろか!こんなところで話し合いができるかい!」


網走先生は慌てて太郎を教室へと連れ込んだ。

教室ではほかの生徒達がざわついている。どうやら太郎の声が教室にも聞こえていたらしい。


勇者(イサモノ)、お前今辞めるとか言わなかったか?」


クラスメートが声を掛ける。


「なんだよお前。まさかテストで100点取ったから満足しちゃったのか?」


そんな訳ない。


「違う違う!俺もう勇者なんてやりたくないんです!毎日何かしら怖い目にも痛い目にも遭うし、この先何があるかもわからない。もう勇者としてやっていける自信がないんです!」


突然の告白に網走先生は酷くご立腹である。


「ふざけるなー!もう辞めますだと!?まだ勇者らしいこと何一つやってないのに、んな根性ない事言ってどないすんじゃボケ!」


「そうだそうだ!」


勇者(イサモノ)、気合が足んねーぞ!」


クラスメートが罵声を飛ばす。そんな中一際大きな声を上げる男が居た。


「その通りだ。ふざけた事言ってんじゃねーぞ!」


教室の一番後ろに座っていた体の大きな男は、その場で立ち上がると太郎に激しく怒鳴り散らした。


「向いてないから辞めるだァ!?勇者舐めてんじゃねーぞ!俺はテメーみたいないい加減な男が大嫌いなんだよ!」


ガタイのいいクラスメートの中でも特別大きく、いかにも強そうな金髪の男。

勇ましい者と書いて勇者と読むが、まさしくこの男のなりは勇者にピッタリの風貌だ。

なんか鎧も着込んでいるし、少なくとも他の世紀末ヒャッハーやヤンキー風に比べれば『マトモな勇者像』である。

で、この男一体誰なのか。


「あ、あいつは……武田・ゴンザレス・Jr!」


「なに!? 武田・ゴンザレス・Jrだと!?」


ご丁寧に分かりやすく名前を言ってくれたクラスメートのお蔭で、この男の名が分かった。

どうやら武田・ゴンザレス・Jrと言うらしい。


「あの武田・ゴンザレス・Jrがこの学校の生徒だったなんて……」


クラスメートの反応から察するに有名人らしいが、あんたら入学してから今まで気付かなかったのかね。


「……誰?」


一方武田・ゴンザレス・Jrが誰なのかさっぱりわからない太郎はキョトン顔である。


「馬鹿!お前知らねーのか武田・ゴンザレス・Jrを!」


「うん」


「あいつの父親が誰だか知らねーのかよ!」


「さあ?Jrジェイアールって事は鉄道関係かな?」


そのJRではない。


「あいつの父親、武田ゴンザレスは最強の勇者と噂された男なんだ。そしてあいつ自身もその血を受け継ぐ最強の勇者と言われている」


「そいつはすげぇや」


それに比べて太郎の父と言ったら役所のすぐ殺る課である。


「おい、勇者とか言ったな!」


武田・ゴンザレス・Jrは偉く怒った様子で太郎に問い掛ける。今日初めて口を利くクラスメートにいきなり怒られて、太郎は子犬のように委縮するばかりである。


「お前こんなに早く辞めるなんて言うならなんで入学しやがった!一度決めた癖にグズグズしてんじゃねーよ!」


「あ、あの人なんであんなに怒ってんの……?」


確かに太郎の言動は褒められたものではないが、かと言って赤の他人に怒られる筋合いはない。


「あいつは誇り高き勇者の息子。だから勇者を甘く見るお前が許せんのやろ」


「そんなぁ……理不尽な」


「おい!まさか簡単に辞められるなんて思ってんじゃねえだろうな?そんな事俺が許さねえぞ!」


「そんなぁ!」


理不尽な状況にそんなぁしか言えない太郎である。


「いいか!勇者太郎!辞める前に一度俺と勝負しろ!戦いの厳しさも知らずに辞めるなんて虫が良すぎるんだよ!」


「はあ?」


なんとただ辞めたいと言っただけでいかにも強そうな勇者に決闘を挑まれてしまった。

しかしいきなり生徒が決闘を始めようとしてるんだから、きっと先生が止めてくれるだろう。


「おっ!こりゃいいぜ!武田・ゴンザレス・Jrの戦いが生で見れるなんて!」


太郎の気などつゆ知らず、クラスメートは勝手に盛り上がっている。


(なんだよコイツら。脳味噌まで筋肉かよ……。でもまあ先生がどうにかしてくれるよね)


「なあいいだろ?コイツに戦いの厳しさを教えてやっても!」


武田・ゴンザレス・Jrは網走先生に問い掛けた。


「ふむ、確かにこのまま辞めるなんて虫が良すぎるな。よし!二人の決闘を認める!」


「ええっ!?ちょっと、決闘って何!?お父さん血糖値上がっちゃった~、とかそう言うんじゃないんだよ!ねぇ!」


「早速体育館に移動や!勇者(イサモノ)と武田の決闘をおっぱじめるで!」


「覚悟しろ勇者(イサモノ)。お前の甘えた根性俺が叩き直してやるぜ」


「なんでこーなるの……」


【つづく】

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