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PRINCESS  作者: 羽遠
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1−1:花の国の姫

フィオーレ国


花の国と呼ばれるその国には真、花のように可憐で慎ましい姫がいるそうだ。



***



「我が国は現在、他国との交流を閉ざしておりますが…姫、聞いておられますか」


 とんっと肩をたたかれ姫と呼ばれた少女ははっとした顔をする。


「聞いているわっ…いえ。ごめんなさい」


 少女は慌てて目の前の歴史書のページをめくる。

 まるまる1ページほど見た記憶がなかった。


「本当にごめんなさい。もう一度説明してもらってもいいかしら」


 少女がしゅんっとうなだれると、美しく、淡い金色の髪の毛が肩をさらりとすべる。

 その髪をさわる指は白くて細い。

 全体的に薄い印象を持つ少女だが、瞳の濃い緑が彼女を引き立てる。


 その力強い瞳が彼女は姫であることを語る。

 国王フーゲルと全く同じダークグリーン。


「いえ、今日は時間ですので。姫もお疲れのご様子ですし、次回また説明いたしますよ」


 すっと男が出て行く様子を見送ってから少女は机に突っ伏した。


「やばい、眠いわ」


 誰もいないのをいいことにか少女は髪が乱れていることを気にした様子もない。

 淡い金色の髪がさらりと机から流れ落ちたのと同時に少女は眠りの世界へと入っていった。








「ん・・・」


 目を覚ますと少し肌寒かった。

 ぼーっとした意識のまま、考えをめぐらせる。


 あら、私、なにしてたんだっけ


 目の前に広がる歴史書を目にしてようやく意識がはっきりとした。


「やばい。あのまま寝てしまったんだわ」


 慌てて寝室に飛び込むとクローゼットを勢いよくあけ、薄緑のドレスを引っ張り出す。

 着ていたドレスを投げ捨て、出したドレスを頭からかぶる。

 手で髪をとかしながら、鏡の前にたつとすぐに髪を結う。

 淡い金色の髪はたばねると少しだけ力強い金色へと変わる。

 頭の上にひとつに束ねた髪に最後に飾りの櫛を差した。


 ノックの音が響いたのはちょうど櫛を差したのと同時だった。


「ランフール姫」


「はい、用意できてるわ」


 扉を開けるとランフール付のメイドが立っていた。ランフールの姿をみるなり「お休みされてたんですか」と一言。

 ランフールは苦笑で答えた。


 本来はドレスを着せるのも髪を結うのもメイドの仕事である。しかし、ランフールは人に世話をされることを好まない。それゆえに我が侭を言って自分でさせてもらっているのだ。

 だから用事がある時間以外にメイドが部屋に訪れてくることはない。それでもうまくやっているからそれなりに信用はあるのだろう。


 一国のお姫様を演じるのはもう慣れた。

 可憐で清楚。まさに花の国の姫。

 そんな世間の評価を損なわぬように。


 父であり王であるフーゲルに誇りに思われるように。


 フーゲルは周りのことは全てしてくれるメイドがいて、何十もの美しいドレスがあり、甘いものが好きなだけ食べれることが女の幸せだと思っている。

 母がそうであるから。


 だから自分のことは自分でしたいなどとランフールは口にできない。


 メイドがてきぱきとランフールの髪を結いなおす。

 不本意ではあるが今日はしょうがない。


「ありがとう」


 お礼を言うとメイドは嬉しそうに笑う。

 メイドは仕える者の世話をできることが幸せなのだ。その笑顔をみると、たまには世話を頼んでみようという気になる。

 

「では、姫様」


 先に歩き始めたメイドについて歩く。

 

 薄緑のドレスがランフールの動きに合わせてぎこちなく動く。


 父と母と一緒の食事は何度経験しても緊張するのだ。



***


 

 ひゅっと剣をふる音があたりに響く。

 あたりはすでに月明かりだけの時間になっており、自分の息遣いまでがはっきりと聞こえるほど静かだ。

 しかしこれはこの時間に限ったことではない。

 城の裏庭であるここは普段ほとんど使われることもなく、整備に来る庭師以外、日が昇っている間でも見たことはない。


 アルフレドは長い息を吐いた。

 

 城で働くことになって以来、ここを隠れ場にしていた。

 1人で考え事をするにはいい場所だったし、何より庭と隣接する林が故郷のそれと似ていたから。

 しかし、その林に足を踏み入れることは出来ない。

 城に獣や魔獣が侵入するのを防ぐため、厳重な結界が張ってあるのだ。


 そこにあるのに、入れない。


 帰れるのに、帰れない。


 もう一度大きく長い息をはく。


 いけない。夜は余計なことばかり考えてしまう。


 こんな日に限って、いつも定刻に姿を見せる少女はやってこない。


 もう一度大きく剣を振るう。雑念を払うように。


 月だけがアルフレドを見つめていた。

 その月明かりの色は、なぜかいつもアルフレドに会いにくる少女の髪の色に似ていた。

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