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9.魔導師、模擬戦を申し込まれる

屋根の上でリュミーイルとお話、というより最早講義をして、流石に何時間も彼女を独り占めしていては大量の貴族から深く恨まれるだろうから一時間程後に二人で庭園に降りる事にした。


『あははははははっ』


で、絶賛二人で高所からの自由落下中だ。空気抵抗? 魔法である程度は逃している。

先程はリュミーイルをお姫さま抱っこして飛んだけど、今度は二人で手を繋いでるだけだ。スカートが風に激しく靡いているから、しっかりと【暗黒(ダークネス)】で隠しておく。

十秒もせずに庭園へ降り立ち、【韋駄天(スカフ)】で制動をかけて軟着陸すると、やはり周りから驚愕や敵意といった目線の嵐を向けられた。

まあ仕方あるまい。お姫さま……リュミーイル・フォン・ヴォルヴァルザルグと普通に話しだけでは得られなかっただろう絆を獲得したのだから、このくらい安いものだろう。


「リン」


「ん?」


約束(・・)……ちゃんと守るのだぞ? 待っておるからの?」


「勿論。何があろうと、必ず守ってみせるよ」


「なら、安心じゃ。それでは、また夜にな」


「うん、またね」


そう言ってリュミーイルは安堵の笑みを浮かべるとこちらに礼をしてから、数人の大人しそうなお嬢様方が集まったグループに入って行った。彼女なら苦労せず輪に溶け込めるだろう。


それより問題は他でもない僕だ。

大きな人だかりを飛び越えて最も人気が高いお姫様(リュミーイル)を強引に拉致って行ったのだから、ほとんどの貴族から怨みを大人買いしたことだろう。友達なんて一人も作れない可能性すらあった。

リュミーイルと友好的な関係を彼女にとって強い印象を残しつつ構築できたのは僥倖(ぎょうこう)だが、かと言って彼女しか味方がいないのは心許ない。

まあ、僕の魔法目当てに打算で近寄ろうとする貴族やその子供はいるかもしれないけど、さて、敵意の無さげな子はいないかと首を回したところで、こちらへ近づいてくる成人男性が……って国王陛下か。


「よお、あんなおもしれえ誘い方は初めて見たぜ? 大いに笑わせてもらったぞ。四歳とは思えねえ魔法の技量だな」


リュミーイルとどこか似ている不敵な笑みを浮かべた若き王は、堂々とした立ち振舞いで僕に話しかけてきた。

赤みがかった金髪に、鋭い銀の瞳。背は高く筋肉質でどう見ても武人なのに、これでヴォルヴァルザルグという大国を上手く治めている賢王でもある。


「お褒めに預かり光栄です、ゼオンハルト国王陛下。リンフォレーラ・フォン・リエラノークでごさいます」


「ああ、そんな堅苦しくしなくていい、ってお前まさかライルの子供か?」


「はい、ライルザーク・フォン・リエラノークは私の父です。時折陛下と共に学園生活を送った話などを聞き及んでおります」


共に剣を打ち合い、共に筆を走らせ、時に……殴りあった悪友だとね。


「そうかそうか、で、二つ頼みがあるんだが」


「はい、何でしょうか」



「さっきお前【韋駄天(スカフ)】で飛んでたよな? 魔導具作れるか?」


やはりそう来たか。

現在ヴォルヴァルザルグ王国にある魔導飛行船は全て古代遺跡から発掘された古代魔導具(アーキファクト) だ。

古代魔導具は現代魔導技術ではほとんど復元できない程高レベルな仕組みで、数千年前の物品でありながら少し整備すれば平然と動くような代物で、遺跡の多さイコール国力に直結するような、国にとって重要な品なのである。

そして現在、空を飛ぶ魔法も魔導具も『存在しない』。

最早僕の扱う【韋駄天(スカフ)】は既存の【韋駄天(スカフ)】とは全く違う構成であり、ただ基にした魔法の名前を継いだだけの完全に別物なのだ。


空を飛べれば様々な事が可能になる。

運搬や伝令は迅速になるし、何より軍事力として喉から手が出る程魅力的だろう。


「魔導具の作成はまだ教わっておりませんので、数年先になる予定です」


半分は本当で、半分は嘘だ。確かにまだ魔導具作成は教わってない。しかし、実際はいくつか内緒で作った魔導具があるし、飛行用魔導具は個人用、飛行船用、どちらも理論は組み立てている。作ろうとすれば作れるが、それを披露するのはもう先の予定だ。


「そうか、なら仕方ねえな、今後に期待する。じゃあもう1つの頼みだが」


「はい」


「ちょっと俺と、模擬戦しねえか?」


ゼオンハルト国王陛下がニヤリと笑う。彼の剣の腕を伝え聞く限り『勝てる気がしない』。

しかし、ここは戦っておいた方が良いだろう。

さっき僕はリュミーイルを拉致ることでほとんどの貴族に喧嘩を売ったのだ。今後、もしくは今にでも嫌がらせされる可能性は低くない。というかあっておかしくない。

だから今のうちに僕の強さを広めて、『脅しつける』必要があった。

本当は今から、敵意を向けてきている貴族の子供を挑発して喧嘩に持ち込んでからそうする気だったが、これは渡りに船である。


「弱輩者ですが、喜んでお受けいたしまます」


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