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8.魔導師、お姫様とお話する

闇魔法の【倉庫(ストレージ)】からシートとクッションを出して王城の屋根に敷き、お姫さまを座らせて、少し感覚を空けて横に僕も座った。

この魔法は言わば四次元ポケットだ。使用者にしか取り出せず、魔力が大きければ大きいほどたくさん入る。


「始めまして、リンフォレーラ・フォン・リエラノークだよ。長いからリンって呼んでくれた方が楽かな」


(わらわ)はリュミーイル・フォン・ヴォルヴァルザルグじゃ。よろしくの、リン」


緑よりの薄い黄緑の長い髪に銀の瞳。青を基調としたドレス、で、独特な口調で不敵な笑みを浮かべている。

耳は少し長く、彼女がエルフであることを示していた。


「今更だけど、屋根の上に連れてきても大丈夫だったかな?」


「うむ、大人数に囲まれて困っておったところじゃったしの、寧ろ助かったわ、礼を言うぞ」


「良かった、悲鳴でも上げられたら処刑されかねなかったからね」


「笑顔で言える言葉ではないと思うがの……」


まあ、その時はすぐ【静寂(サイレント)】で音を消させてもらうけどね。


「お主は魔法使いかえ?」


「そうだよ。将来は魔法の研究をしたいな」


魔法技術はまだまだいくらでも伸びしろがある。

魔法使いでなくても魔導具があれば中級魔法程度の攻撃手段はあるものの、上級魔獣にはまだ対向できないのがこの大陸の現状だ。

逆に言えば、魔法技術が更に発展され、いや、僕が発展させて、上級魔法を魔導具にできるようになれば、魔法使いが……お母様が戦場に出る必要はなくなるはずだ。

新たな武力の出現により戦争や紛争、領地拡大などの危険性があるから、扱いには気を付ける必要があるけどね。

そんな話をしていると、彼女はぽつりぽつりと質問を続けてきた。


何故傘をさしているのか、触れたときにヒンヤリしていたのか、などの他愛もない話。そしてその答えは大抵、魔法に繋がってしまう。

傘は自分で闇魔法を込めたものだし、冷気もやはり魔法によるものなのだから。


「リンは本当に、魔法と家族が好きなのじゃな」


「うん。リュミーイルは魔法が好きかな? 君も魔法使いの素質あるでしょ?」


「……よく解ったの」


「魔力に敏感でね、なんとなくだけど解るよ。適性は風……あと雷もかな?」


「正解じゃ。リンは魔法使いの素質が高いのじゃな。先程使っていた魔法も明らかに初級ではなかったしの?」


「ああ、【韋駄天(スカフ)】は中級だよ」


「!!」


僕の言葉にリュミーイルは驚いた表情になり、そしてどこか憂うかのように空を見上げた。

透き通った青空にもこもこした綿雲がいくつか浮かび、ときおり緩やかな風が通り抜けて行く。


「妾は半年程前から魔法を母上に教えてもらってるのじゃが、感知だけでまだ魔力を動かせてすらおらなんだ。その点、自由に魔法を使えるリンが……少し羨ましいの」


そう言って、彼女の笑みが少しだけ影を帯びる。

……そういえば自分の魔力を感じたり循環させたりするのって一年かかってもおかしくないんだっけ、忘れてた。

これはフォローしないと気まずい空気になる。


「せっかくだし手伝うよ。ちょっと強めに魔力を流すから、手、握るよ?」


「え、ああ、良いぞ」


許可を得てから彼女の小さな手に僕の手を重ね、少しだけ強めに魔力をリュミーイルに流し込んでみた。


「ぬ……っ」


他人から魔力を流されると、人によって様々な反応がある。

僕の場合……お母様が魔力を流し込んだとたん、拒絶するかのように熱を持って流された魔力を焼失させた。つまり、僕の魔力は暴れやすい。だから制御は割りと力技だし、実は【韋駄天(スカフ)】や【暗黒(ダークネス)】などのチマチマした魔法より、【紅光槍(カロトンランス)】のような攻撃魔法の方が得意なのだ。


対してリュミーイルの魔力は、僕の魔力を避けるというか、団扇(うちわ)で扇いだかのように流動していく。


流す魔力を少しずつ弱くしていくと、リュミーイルの魔力は段々逃げなくなり、やがて僕の魔力と一緒に流れるようになった。


「……妾でも動かせなかった魔力を、こんな短時間で動かせるとはの……」


「リュミーイルの魔力は気ままな風か、警戒心の強い子猫と似ているかな。力業じゃすぐに逃げて行くね。リュミーイルが従わせるんじゃなく、リュミーイルが魔力に合わせて引き出すと良いんじゃないかなー?」


一旦魔力を流すのを止めて彼女自身での制御を促す。


「解った……やってみよう」


……コネ作りのパーティーがいつの間にか二人の魔法の抗議になっている事に何も思わないでもないけれど、まあ良いだろう。他に彼女とうまく接近してかつ印象に残って貰える手段が他に浮かばない。


「まだ少し(りき)んでるかな? このくらい、そよ風みたいなイメージで大丈夫だと思うよ」


繋いだ手から、もう一度リュミーイルに魔力をそっと流す。ふわり、と、彼女の魔力と僕の魔力と一緒に流れ動いた。


「そよ風……」


リュミーイルが目を閉じて空へ顔を向ける。

相変わらず穏やかな陽気(僕にとっては殺人光線と熱波)で、たまにのんびりと風が通り抜けて行く。


「あ」


「あ」


「その調子、続けて?」


「うむっ」


一瞬、ほんの刹那の時間、確かに彼女の魔力が流動したのだ。一度動けば感覚的に理解できただろう。もうさほど時間はかからないハズ……


ふわー。


と。

彼女の魔力が、一瞬ではなく、継続して循環する。

どうやら、コツを掴んだのだろう。こうなればいつでも自分で循環できるはずだ。


「魔力循環の習得おめでとう、リュミーイル」


驚き過ぎて固まっているお姫さまに、僕は追撃を仕掛けた。


「さて、基本ができたことだし……これで魔法を教えられるね?」


「……なん……じゃと……?」




◆◇◆





これが後に「天災魔導師」だの「大賢者」だの言われる事になるリンフォレーラ・フォン・リエラノークの、初めての魔導授業だった。

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