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6.魔導師、王城へ行く

ヴォルヴァルザルグ王国王都ヴォールブルクは温帯に位置し四季がある。寒帯で年中寒いリエラノーク辺境伯領で育った身には、四月の陽気すら暑いとすら感じるし、アルビノの僕には日光がきつい。そのため自分で闇属性の初級魔法【薄闇(ペイルダークネス)】を仕込んだ日傘をさして、無詠唱で【冷気(クール)】を使用している始末だ。


「ははは、まさか本当にその格好で参加するとは思ってなかったよ」


「……」


リエラノーク辺境伯領から魔導飛行船で移動し約一日程。

お父様とお母様、そして僕は王城の庭園、つまり今年五歳を迎える上級貴族の子供のためのパーティー開場にいた。兄のアレクは王立学園の寮暮らしで、かつこのパーティーは五歳になる子とその親しか参加できない(王族除く)。


「ふふふ、可愛くて良いじゃな~い♪」


「リン、辛かったいつでも言うんだよ? どうにかしてシエラを止めるからね」


幸せそうに微笑むお母様と対称的にお父様が苦笑いして同情的な視線をむけてくるが、果たして彼は役に立つのだろうか。


「大丈夫ですよお父様。お母様が笑ってくれるなら何も恥じることなどありません」


「ナライインダケドネー」


僕は結局、フリフリの黒地に白いフリルをあしらったゴスロリドレスと日傘、青バラのコサージュを装備していた。腰まで届く白い髪はそのまま下ろしているが、4本ほど細い三つ編みを編んでいる。

鏡を見たときは本気で自分の性別が分からなくなったが、終始お母様が嬉しそうに微笑んでいるため、嫌な気分じゃない。


むしろ問題は暖かな春の陽気と穏やかな日差し、つまり寒帯育ちの色素欠乏症(アルビノ)患者にとっては焼けるような天候である。【冷気(クール)】と【薄闇(ペイルダークネス)】がなければ今頃倒れている自信がある。


「さて、もう国王陛下と姫様の挨拶は終わったし、リン、自由にしていいよ」


「わかりました、散歩して来ます」


「ああ、いってらっしゃい」


俺様系の若い国王陛下の話は要約すると「ガキ供成長できて良かったな、せいぜい仲良くしろや」というもので、次に国王陛下の娘であるお姫さまの挨拶があった。


「自由にしていい」とお父様は言ったものの、意訳すれば友達(コネ)作ってこいということである。そのためにこのパーティーがあるのだし。

開場にはきらびやかな、しかし落ち着きのある衣装を纏った成人貴族の方々と、反して鮮やかな色の衣服を纏った主役である子供達の群れ。

騒いだりする子はほとんどいないが、それでも皆ウキウキしているのだろう。

貴族の子供は基本防犯のためにこのパーティーまでほとんど家を出ない。仲が良く家が近い貴族同士なら子供でも多少面識があるとか、そのくらいのものだ。


つまり僕は絶賛ぼっちである。早急に友達(コネ)を作らなければ。

とりあえず馬鹿そうな御子様は関わる価値もない。

我儘なのも御免だ。

しかしもうその時点で大半が話しかける候補から消える。


一応一人はもう決めている。お姫さまだ。しかし今行った所で彼女の周囲は混雑しているだろう。大人数で囲んだら困るはずだ。迷惑になるだけだろうし、たとえ会話できたとしてもきっと『大勢の中の一人』程度の認識しか持たれない。後回しにしよう。




……とでも言うと思ったかな?




お姫さまを探すのは簡単だった。風の探索魔法を使うまでもない。一番混んでいる場所。

案の定大人数に囲まれているお姫さまは少し困った表情を浮かべているが、周囲の子供達はそんなこと考えている余裕などないだろう。気配りできる子供なんて極僅かだし、それができれば今のお姫さまに近寄らない。何より皆、親から「お姫さまと仲良くなってきなさい」と言われているだろうから、彼女をターゲットから外す貴族の子はほとんどいまい。


ん? なんで小柄な僕が人混みの中心にいるお姫さまの表情を把握してるって?

勿論、魔法である。でも探索魔法なんて必要ない。


「【韋駄天(スカフ)】」


かつてお母様は言いました。「ごり押しすればいいのよー」と。


中級風魔法【韋駄天(スカフ)】。本来ただ風を吹かせて移動速度を上げるだけの地味な魔法だが、中級魔法の【紅光槍(カロトンランス)】を同時に八個展開、制御できる僕にとって。


空を駆けるくらい、どうということはない。


結構な人数の驚愕の声を置き去りにして──その中にはお父様のものとお母様の楽しそうな笑い声も混じっていた──僕は人垣を飛び越えお姫さまの隣に、日傘をパラシュートのように広げそっと着地する。


「な、何だ貴様は、どこから、それに今は俺が──」


「ごめんね、【静寂(サイレント)】」


「 」


お姫さまのそばにいた黄髪の男の子の言葉を、下級風魔法で空気の振動を止め無理やり遮る。


「ここは煩いしごちゃごちゃしているから、静かな所にいかない?」


僕がお姫さまに右手を差しのべると、意外なことに彼女は一瞬驚いただけでほとんど躊躇なく僕の手に自分の手を重ねてくれた。

ふむ、無理矢理拉致る手間が省けて良かったよ。

すばやく、しかし優しく彼女を文字通りお姫さま抱っこする。


「【韋駄天(スカフ)】、【暗闇(ダークネス)】」


「むっ……!?」


誰かが後ろから僕の肩をひっつかもうと手を伸ばしてきたけれど、それより早く、速く、魔法を唱え、傘を畳み、思いっきり跳んだ。

一応、スカートの中が見えないように小さく闇魔法をかけておき、そのまま呆気に取られている周りの人々を置き去りにして、王城の屋根まで翔んでいく。


「はははっ」


結構な速さで翔んでいるが、お姫さまはご満悦のようだ。楽しそうに笑っている。前世ならきっとジェットコースターを楽しめるタイプの人間なのだろう。


傘を広げて王城の赤い屋根にふわりと着地する。

無事成功して良かった。下手すれば警備に就いてる近衛騎士に捕らえられてたかもしれないからね。

さて、お姫様とお話しようか。



※「ごり押しすればいいのよー(にっこり」二話参照

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