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5.魔導師、そろそろ五歳

「【紅光槍(カロトンランス)】」


僕の放った8(・・)の赤々と光る槍が、的である氷壁を消失させた。


「……もう中級魔法も完璧ね~。器用貧乏になるどころか全属性を上手く組み合わせているし、そろそろ上級魔法を教えて良い頃かしら~……」


「やったー♪」


早すぎる気がするけどね~、なんてお母様の呟きは聞こえなかったことにする。


もう僕は五歳間近になっており、同年代の魔法使い(の卵)が魔法を教えるか否か判断される頃合いだというのに、上級魔法教導の許可を得ていた。

ふふふ、これで今まで理論だけを生み出し記憶の底に鍵をかけて保存していた魔法を使える時が来た。


ふふふ、ふふふふふふ。


「でも、王城でのパーティーが終わってからにしましょうね~」


「……え……?」


なん……だと……?


「あら~、完全に忘れていたようね~。本当、魔法大好きで他の事には無頓着なんだから~」


お母様がいつもの女神様ような微笑みを浮かべながら放った言葉に僕の思考は一瞬停止した。


「伯爵家以上の貴族の五歳になる子供は皆、その年の春に王城でのパーティーに参加するのよ~」


で、リエラノーク辺境伯家次男の僕は出席不可避、と。

この王国の序列は王、王族、公爵、辺境伯と侯爵が同位、伯爵、子爵、男爵、騎士爵、上級市民、一般市民の順になっているが、実際の所、王都で暮らしている侯爵よりも、広大な領地を任されている辺境伯の方が財力も兵力も遥かに上だし、中には伯爵を超える資産を持つ大企業幹部の上級市民だっている。


「今年は同い年のお姫さまもいるわよ~。できれば仲良くなってね~?」


「お母様、強制にしか聞こえませんよ」


「あら~、拒否権が無いってちゃんと気づいたわね~。良い子良い子~♪」


うふふーと微笑み僕の頭を優しく撫でる彼女の目と雰囲気は全く笑っていなかった。

本音を言うとめんどくさい。政治とか関わりたくない。それはとっくに両親に伝えており、兄のアレクと兄弟で当主の座を奪い合うフラグはとっくにへし折ったものの貴族社会はその程度で自由気ままに魔法の研究だけできるような生ぬるいものではないようだ。

リエラノーク辺境伯家は王からの信頼も厚いし魔法使いがかなり生まれやすい。挙げ句僕自身が魔法使いとして破格の才能を持っているから早急に婚約者が決まるのは避けられない(させない)とは母の談だ。


「パーティーは一ヶ月後だから、服とか色々用意しなきゃね~。あと、マナーのお勉強の時間を増やしましょう~」


「……はい」


……めんどくさい……。




◆◇◆




所変わって僕の部屋。

普段はベッドと机、椅子、幾つかの魔法具(秘密裏に改造した)に大量の魔導書(内1つは自分で書いた)が嵌まっている本棚位しかないはずのその部屋は、今、とてもカラフルなことになっていた。


「うーん、やっぱりドレスにしましょう~。騎士服よりも黒衣よりも、やっぱりフリフリのドレスが似合うわ~♪」


何故ならば大量の服がハンガーラックごと使用人の手によって運び込まれ、この僕がお母様の着せ替え人形にされているせいである。まさかまさか本番のパーティーまで女装させて行くつもりじゃないはずだと信じたい。

確かに僕は女顔だ。それも前世から。

今のところ女の子が生まれていないお母様は可愛い成分に飢えていたのか、僕の白い髪を腰まで伸ばさせていた。魔法ばかりやってたせいか線が細いし体型も適していたのだろう。着せ替え人形になるのは一度や二度ではない。たまにお父様やお兄様が憐憫(れんびん)と戦慄の目を僕に向けるが気にしないことにした。

正直恥ずかしいしプライド的なものが磨り減るっているような気もするのだが……


「リン君リン君、この兎さんのお人形を抱えたみて~? うん、そうよ~……きゃぁぁあああ可愛いわぁぁぁあああ♪」


何だろう、楽しそうに、嬉しそうに、幸せそうに悶絶しながら喜んで抱き締めてくるお母様を見てると、拒否する気にならない。


「兎さんは一旦置きましょうね~、今度はこの白とピンクのふりふりを着て~……髪を結んであげるわ、そこに座って~………………できたわ~。じゃあ、「ママ」って呼んでちょうだ~い?」


確かに普段、「貴族だから家族にも敬語を使いなさい」と言われているため「お母様」と呼んでいるから、「ママ」と呼んだことはない。前世でもない。


「ママ、だいすき」


仕返しに、一言加えて彼女に抱きついてみる。

暖かくて、柔らかくて、心地好い。


「……リン君」


「うん?」


「私も、愛してるわよ~」


そっと囁かれてぎゅっ、と抱き締め返される。

嗚呼……こうしていると……何故か安心する……。

暖かい。勿論密着するによる体温の伝達で感じる温かさもあるが、それ以上に精神的な心地好さがあるのだ。

願わくば、ずっとこうしていたいとすら思えるほどに、酷くそれは幸せで……守りたい、そう思った。


僕が魔法にこれほどのめり込んでいる理由。

楽しいから、というのも勿論ある。前世から研究は大好きで、そんな僕が魔法という未知の、まだ解っていないことがいくらでもあるこの現象に心惹かれないはずがなかった。


でもそれだけじゃないんだ。


この世界はきっと、前世で生きていた日本より命が軽い。

戦争、魔獣、それら人の命を容易く奪うものが身近に存在するのだ。お母様は上級魔法使いでしかもリエラノーク辺境伯家の人間だから、強力な魔獣や魔獣の群れが領地に接近したりすれば戦わなければならない。


そう、この優しくて賢くて、そして強いお母様は、いつ死んでも、いや殺されても、おかしくないのだ。


……絶対に、そんな理不尽な別れ方をしたくない。

きっとお母様は認めないだろう。この優しくて優しくて、慈しみ深いこの人は、息子が自分の代わりに戦うなんて決して認めないだろう。

だから、とっくに充分な技量を持っている僕に上級魔法を教えるのをパーティー後にするつもりなのだろう。五歳で上級魔法を使えることが大々的に広まれば、きっと他の貴族に目をつけられ、若い内に戦場に立たさらるかもしれないから。

僕だって早死にしたくなんてない。この暖かい家族と早々に別れるなんて嫌だ。

だから今は、パーティーが終わるまでは、上級魔法の習得は我慢しよう。


てもその後は、お母様の負担をすぐにでも減らしたい。


だから、強くなってみせる。自分の大切な家族くらい、余裕で守れるように。


「リン君~、女装したままパーティーでない~? きっと受けが良いわ~♪」


「……お断りします」


こんな下らない、でも暖かで貴重な一時を守るために。


リン君書いたのでみてみんにup

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