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4.魔導師、魔法を教わる

予約投稿の失敗ェ……

三歳になった。

初めて自分の魔力を感じ動かしてから毎日魔力を循環させていたら、だんだんとスムーズに巡らせることが出来るようになり、魔力の総量も順当に上がっていった。

お母様も僕の魔力が大分上昇したのを感じ取ったようで、時折「リン君は強い魔法使いになれるかもね~♪」と口にしている。


今は使用人さん達が用意した朝食を食べ終わった所で、ちょっとした家族団欒している所だ。

長いテーブルの上座にお父様、その右手にお母様、角を挟んで右にお兄様と、その向かい、お父様と角を経て左側に僕がいる。


「リン君の魔力成長は早いわね~。下級魔法使いの中でも多い方じゃないかしら~。昨日なんて私の真似して魔力循環してたのよ~♪」


そう、魔力が増えたせいだろうか、魔力循環していたらお母様に気付かれてしまったのだ。本来三歳児がやることではないようだが……どうやらお母様は常識に欠けているらしい。息子の成長を無邪気に喜んでいる。


「長男のアレクは頭が良くて家を継ぐのに申し分ないし、次男のリンも魔法使いの才能に恵まれているなら、次代のリエラノーク家は安泰かな」


お母様とお父様がにこやかに会話をしている。

父のライルザーク・フォン・リエラノークは金髪碧眼爽やか王子系で、母のシエラール・フォン・リエラノークが水色のゆるふわお姫様系。二人とも二児の親とは思えぬほど若々しい。

お兄様、アレクザイル・フォン・リエラノークはお父様と同じ金髪碧眼穏やかな王子様系の四歳児だ。

末子の僕がリンフォレーラ・フォン・リエラノーク。白髪銀眼。ぶっちゃけると色素欠乏症で日光に弱いのだが、ここ、ヴォルヴァルザルグ王国北方リエラノーク辺境伯領は寒帯でほぼ一年中雪なのであまり晴れないし、晴れたとしても闇魔法で光を遮る日傘の魔導

具があれば何の問題もないためあまり困っていない。


「今年アレクが五歳になるから王城でのパーティーに参加するけど、魔導飛行船を使って皆で行こうか」


「懐かしいわね~、王城での五歳になる子のためのパーティ~」


リエラノーク辺境伯。

王国北方、最も過酷な自然環境でかつ魔物も多い土地を任されている、辺境伯の中でも王家からの信頼が厚い大貴族。

過去何度も北から魔物の大群の進行が発生しているが、その全てを撃ち破ってきており一度も南へ侵入させていない重要拠点だ。もしここが落ちれば北からの魔物が南へ……王都を筆頭としたいくつもの街へ押し寄せる。まあ、ウチと仲の良くない貴族などは左遷だなんだと言うらしいけれど。

寒冷な気候のせいか氷属性に適正のある魔法使いが生まれやすく、魔法にも精通した一族である。王国初期は寒帯であるため農業に適さない土地であったが、現在は寒帯でも育つ果実や作物の生産を行えている。また、魔物が多いため狩猟も重要な産業であり、鉱山採掘や大きな魔導具会社の存在、観光業などのおかげで経営は安定しており、過酷な環境には不釣り合いなほど繁栄している。


「お父様」


「ん、どうしたんだいリン」


「魔法を勉強して、使いたいです」


そろそろ僕も、長文を喋って怪しまれない程度には成長したし、何より我慢の限界だ


魔 法 が 使 い た い 。


「うーん、ちょっと早いんじゃないかな。普通は魔法を使うの五歳くらいだからね」


ちっ。


「強い魔物がでたら、お母様が戦わなきゃいけないから、お母様負担を減らすためにも、早く魔法使いになりたいです」


半分建前だが、半分は本気だ。大好きなお母様を戦場に立たせたくなんてない。


「シエラ、魔法使いの君はどう思う?」


「リンくんは大人しいし賢いから、間違った使い方はしないと思うわ~。それに魔力が大きいもの、むしろ早めに制御の仕方を教えたほうが良いかもしれないわね~」


「魔法使いの君がそう言うなら大丈夫だろうね。リン、シエラに教えてもらいなさい」


「はい! ありがとうございます!」


よし、やっと魔法が使える。魔力循環ができるようになってからの数年間、ずっと魔力循環と読書と、どんな魔法を使うかの空想、いや考察をしていただけの生活とはおさらばだ。




◆◇◆




一時間後、僕の部屋。木机に向かって僕とお母様二人で座っている。


「リン君はもう魔法の本を自分から読んでたし、魔力についての基本的なことは解るわよね~?」


「自然に存在する魔素が生物に取り込まれると魔力になって、詠唱や魔方陣などで魔力に形を持たせて魔法にするんですよね」


「そうよ~、良い子良い子~」


ゆったりと頭を撫でられる。心地良い。

魔法は初級、下級、中級、上級、天級とランク付けされており、火、水、風、土の下位属性と炎、氷、雷、地、光、闇の上位属性に分けられている。

そんな初歩的なことをおさらいするようにお母様に説明していった。


「基礎知識は大丈夫ね~。魔力循環も滞りなくスムーズにできているし、。次にお手歩を見せるわね~。【暖気(ウォーム)】」


母がそう口にしながら僕の頬に手のひらを添える。その手はじんわり暖かかった。


「魔力がどう動いたかわかるかしら~?」


「お母様の右手に集まって、火属性の魔力に変換されて、熱に変わったと思います」


「……その通り、完璧よ~。何度も側で使ってから、簡単だったかな~?」


確かに初級火魔法の【暖気(ウォーム)】はお母様や使用人が何度も使っていたため魔力の動きが見慣れている。


「はい。それに【冷気(クール)】を使う時よりも魔力の属性変換が鈍いと感じました」


お母様の属性適性は氷に偏っている。そのため火属性の【暖気(ウォーム)】より得意な氷の下位属性である水の【冷気(クール)】の方が展開が速いし消費する魔力も僅かに少なくて済んでいる。


「あらあら~……そこまで気付いていたの~。魔力の成長だけじゃく、感知能力も驚く程高いわね~」


お母様は普段崩さないニコニコの微笑みの中に驚きを滲ませながら、用意していた掌サイズの透明な水晶球を取り出す。


「今度はリン君の属性適性を調べましょうね~」


どうやらこの水晶に触れて魔力を流せば、適性のある魔力が色分けされて見えるようだ。

……クロマトグラフィーに似ているかもしれない。

差し出された水晶を掬うように持って魔力を流す。


すると水晶は淡く発光し、数秒後経つと色が変わっていた。


「……」


「……」


なんというかそれは子供が気の向くままに絵の具をだばだば撒き散らしたらこうなるかもしれないというほどに無秩序で複雑な色合いをしていた。

金、紅、黄、黒、銀、白と、鮮烈な順に並べると大体こうなるだろうか。


「え~と、リン君、全属性使えるわね~……特に強いのは光と炎、雷かしら~……」


これは予想通りだ。

魔力に触れてからずっと一日中魔力循環を行うことで自分の魔力がどんなものか大分前から感覚的に理解していて、全ての属性に適性を持っている事はもう感じ取れていたのだから。


「……とりあえず、【暖気(ウォーム)】の練習をしましょうか~。ママと手を繋いで、掌に魔法を展開してみてね~……。暴走しそうになったら、ちゃんと私が止めるから~」


隠しきれない驚愕を滲ませながら、お母様が僕の掌をそっと握る。

魔力というのは思念に反応して形を成し魔法となる。

思念、つまるところイメージと、現象に対する理解だろう。

例えば下級魔法の【火球(ファイヤーボール)】一つとっても、魔法にも自然学にも無学な魔法使いと、それらの知識を持っている魔法使いでは、同じ魔力で魔法を使っても後者の方が威力も精度も上になるのが普通だ。

詠唱はそのイメージを確固たるものにするための補助であって必須ではない。お母様のような上級者になると高位の魔法でも詠唱短縮、魔法名を唱えるだけで発動させてしまう。


暴走しないように念のため極少量の魔力を繋いだ手に流し込みながら、前世で勉強した物理化学や熱力学などの知識を引っ張り出して、そっと小さく口を開く。


「【暖気(ウォーム)】」


ドクン、と、自分の魔力が熱へと変換されるのを感じた。

じんわりとした暖かさが掌に纏ったのを感じ、歓喜で震えそうな心を抑えそれを持続させる。


「おめでとう~! 始めてなのに上手くできているわね~♪」


母の声がどこか遠く感じる。

初めて自分から魔法を使ったことで魔力がどうやって形を成すのか直に感じることができて解ったこと。

始めは振動、途中から励起からの熱放射、その二種類のイメージどちらでも【暖気(ウォーム)】を発動させることができた。それも、お母様のそれよりも遥かに少ない魔力で、同等の効果を得たということは、おそらくそのイメージで間違ってない。

なら、魔力は量子なのだろうか。いや、魔力は魔素が生体内で集まったものだから、魔力ではなく魔素の方かな?

それらの事が頭の中をぐるぐる高速で巡り考察を繰り返す。

熱放射ができるなら光の放射も試したいし、風は気体分子を動かすのだろうか、雷は電子そのものを動かすのか、魔力が電子状に変換されるのか、地は、闇は────


「リン君~?」


「あ、え、はい」


お母様の言葉で我に返る。思考の海に沈んで現実の方へ意識が向いていなかった。

前世からの悪い癖だ。実験でも勉強でも、興味を持ったものに集中するあまり周りが見えなくなることがある。


「疲労感があったり、目眩がしたりしない~?」


「全くないので次は光魔法を使いたいです」


「あら~、やる気満々ね~。いいわ~、じゃあ光の初級魔法の【(ライト)】をしましょうね~。この魔法は──」


結局その日、全属性の初級魔法を教えてもらったが僕の魔力が尽きることはなかった。

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