11.魔導師、友達作る
タグの狐っ娘は四十話まで出ませんスマソ
陛下と模擬戦をし終わると、少し日が傾いて来ていた。
それにしても強い人だった。何で訓練用の剣で光や雷、炎に爆発を斬ることができて、【韋駄天】使ってた僕より速いんだよ。
さて、そろそろ真面目に友達つくらなきゃ。
派手に陛下とドンパチしたせいか僕へ露骨に敵意を向けてくる人数はかなり減った。むしろ一部の子は敬意やら好奇やらの目を向けている。概ね強迫は成功だろう。
「少し良いかな?」
敵意のなさそうな二人組に近付いて声をかける。
赤髪で短髪、明るい赤目の勝ち気そうな男の子と、青髪を肩まで伸ばした深い青の瞳な理知的そうな男の子。
「ああ、勿論良いぜ。むしろこっちから行こうかって二人で話してた所だ」
「ええ、魔法使いの方とは是非とも交友を持ちたかったので」
おお、友好的で良かった。近寄んなとでも言われたらまた他に話し相手を探すのが面倒だからね。
「僕はリンフォレーラ・フォン・リエラノーク。趣味は魔法と読書さ。リンって呼んで良いよ。よろしくね」
「俺はザクスレイ・フォン・ゼリアハルトだ。ザクスとでも呼んでくれ。趣味は剣だな」
「私はグレンクス・フォン・グラスフィールです。グレンとお呼びください。私も読書が好きですよ」
ゼリアハルトは確か武官系の、グラスフィールは文官系の伯爵家だったかな。
まず僕のリュミーイル拉致話と魔法の話を聞かれ、次に家の話になった。
どうやらリエラノーク辺境伯家は五つある辺境伯家の中で最も繁栄しており立場も上だったようで、それを知ったグレンは途端畏まろうとしたが面倒だったから止めた。確かにこのパーティーはコネ作りのものでもあるけれど、僕はそんな家や爵位に拘ったばかりの関係じゃなくて普通に友人が欲しい。
対してザックスは大らかな性格であまり気にしていないようだったけど。
ザックスは騎士である彼の父から剣を学んでいるようで、グレンは経営などを勉強しているようだ。まだ基礎を始めたばかりらしいが、大抵の貴族はこのパーティーの半年前辺りから子供の教育を始めるらしいので普通のことだ。
それから三人で談笑しているとやがて日が傾き空に黄色がかってきた。
そろそろ昼の部が終わって夜のパーティーまでの準備、休憩時間になる。
ちらほらと貴族が庭園から去って行き、さてそろそろ僕らも戻ろうかとなった時。
庭園の端にある樹の下で一人の女の子が本を広げているのが視界に入る。このパーティーで読書してるということは、口下手か人嫌いかだろう。それだけなら興味を持たずに無視している所だが……彼女の開いている本のタイトルを見て、僕はその子に話しかける事にした。
「おい、リン……って、あいつに話しかける気か? 多分反応しないぞ?」
「経験者は語りますね、ザクス」
どうやらザクスは話しかけてあえなく轟沈したらしい。
「ふふふ。二人は先に戻ってなよ。僕一人で良いから」
「うーん、先に帰るのもなんだし、リン1人を残してくのも不安だ」
「ええ、リンが何かしでかさないか、私は不安で仕方ありませんね」
「はは、否定できないね」
彼女は……ちょっと強引にでも仲間にしたいな。
◆◇◆
「『マルクレイフ子爵の魔導書』なんて、酷くつまらない本を読んでいるだね」
僕が声をかけると、女の子はぼーっとした目でこちらを一瞥すると、興味を無くした猫のように視線を本に戻した。
紫色の長い髪と琥珀色の眠たげな瞳に僕と同様小柄な体。そしてその身に流れる黒い魔力が、彼女を闇魔法使いだと証明していた。
「『現代の魔導技術では古代魔導具を超える魔導具を作るのは不可能だから、開発より発掘を優先すべきである』、だっけ?」
「……知ってる……の……?」
よし、反応した。
「一度読んだからね。でも時間の無駄だったかな。『ボズゴロフだんしゃくのやさしいまどうがく』の方が遥かにましだよ」
「『やさしいまどうがく』なんて……とっくに読んだ……幼児向けの、絵本レベルじゃない……」
「少なくとも思考停止して発展を諦めたマルクレイフ子爵の魔導書よりも希望に溢れてるじゃないか。僕のお勧めは『アンドレイの魔導書』だね」
「奇人アンドレイの本……あなた、頭大丈夫……?」
「問題は正常か異常かじゃない、結果さ」
アンドレイ。百年前の魔導師で稀代の変人であり彼の考えた魔法理論はどれも突拍子もない予言じみたもので今でもその評価は変わっていない。
そうたとえば……魔素が量子である、なんて考えとかね。
「ごめん、話が逸れたね。現代の魔導具は古代魔導具を超えられないなんて主張したマルクレイフ子爵の本なんて読む価値ないよ。……ってもうほとんど読み終わってるか」
「実際に……今の魔導技術じゃ……古代魔導具を、超えられていない……」
「そうだね。だからって諦めるのは愚の骨頂だよ。【静寂】、【暗闇】」
僕は見つからないように周囲を暗くした。
『これ』はまだ……お母様にもお父様にも、陛下にも……もちろん他の貴族にも、見せる訳にはいかないから。
「何を、」
僕がしたのは一つの魔導具の起動。
「空を飛べないなんて、愚かな思い違いさ」
僕は今浮いていた。【韋駄天】じゃない。何の魔法も使ってない。
背中に展開した魔導具が重力の鎖を断ち切り、僕に浮力をもたらす。
形状としては、前世のモビ○スーツやアー○ードコアのウイングに近い、シャープで機械的なものだ。
女の子の眠たげな瞳が大きく見開かれ、僕の作った魔導具に視線が固定される。
「僕にはやりたいことがある。僕は今の魔導具を変えたいと思ってる」
今の魔導具は弱い。生活用魔導具は良いのだが、戦闘用のそれは酷く弱い。込めれる魔法は中級が精々で、それも作るのにコストがかかる。そう易々と使える物ではない。
それでは足りないのだ。
大好きなお母様を守るには。
大好きな家族を守るには。
足りない。足りない。全然足りない。
なら僕が変えれば良い。この停滞した魔導技術を。
でも僕一人では手が足りない。だから仲間が必要だ。
それは協力な後ろ楯になれる可能性があるリュミーイルだったり。
それは社交的で様々な味方を手に入れられるだろうザクスだったり。
それは経営について日々勉強しているグレンだったり。
それは変わり者だが、だからこそ研究者として信頼できる女の子だったり。
「僕と一緒に、世界を変えてみないかい?」
彼女に手を差し伸べる。できるだけ、魅力的に見えそうな笑顔をうかべながら。
「私は……話すの苦手だし……人と関わるの苦手だし……」
「だからこそさ。君は話さなくて良い。代わりに研究室にでも籠って頭を使ってほしいな」
「……。……ルーナリエール……フォン……ルーラフレール……。ルーナで、良い……」
ちょん、と、彼女が……ルーナが、僕の手にそっと右手を重ねる。
「よろしくね、ルーナ」
「……」
無愛想だけど、それで良い。
周りがどうでもよくなるくらい……集中して、没頭して本を読み、自分の世界に籠れるルーナは、研究者の素質がある。
魔導具と魔法を解くともう空は赤く染まっていた。
いくつかの街灯状の照明に光が灯っているため暗くはないが、周りに人はほとんどいなかった。
「おお、すげー、ホントに連れてきた」
「……【暗闇】と【静寂】を使ってまで、何をしていたのですか?」
「待っててくれてありがとう。何年かしたら教えるよー」
ザックスとグレンが揃って「えー」と残念そうな声をあげるがスルーする。
「ルーナも秘密にしてね。親にも陛下にも誰にも言っちゃダメだよ」
僕の言葉にルーナはコクンと頷く。
まだこの魔導具はバレる訳にはいかない。
これは一歩間違えれば戦争の引き金になりかねない危険なものだから。
家族を守るために戦争になっては本末転倒だからね。
「さてと、また夜会おうね~」
「おう、またな」
「はい、また」
「……(こくん)」
さて、少し疲れたけど、まだやることがある。準備を始めなきゃ。