道
目の前には二つの道があった。
右の道は平坦で、左の道は坂だった。
僕は左の道を選んだ。
労力は何倍もかかるくせに、行き着く場所は右と同じだ。
意味など無い。
力を込めてペダルを踏み、坂道を上った。
徐々に視界に空が現れる。
夕陽は山の向こうに沈み、その朱い光が消えかけ、再び蒼が現れていた。
その二つの色はこれ以上ないくらいに自然に色を変えていた。
朱から蒼へ。
そしてこれから夜は更けて、蒼から紺へ、そして黒へ。
川を見ると、毒々しい色のネオンが水面に僅かばかり反射してぼんやりと光っていた。
シルエットになった鳥たちが、その水面にを少し揺らす。
風はなく、辺りは静寂に支配されていた。
心地良い静けさだった。
意味など無いかも知れないけれど、僕はこれからもこの道を選び続けるのだろう。
頬で風を切って、坂を下っていく。
静寂を掻き消すように、新幹線が川の上を通り過ぎた。
そちらの空はもう薄暗くて、客席から放たれる黄色い光さえ、美しく浮かんで見えた。