こんな夢を観た「友人が栗の栽培を始める」
芸術の秋、読書の秋、色々あるけれど、やっぱりわたしには食欲の秋がお似合いだなぁ、などと1人想う。
「そうだ、中谷のところに行ってみようかな。あの人は料理とか好きだから、秋らしい食材で、お昼をご馳走してくれるかも」
自慢じゃないが、こういう時の行動は素早い。わたしはサンダルをつっかけ、自転車に乗って中谷美枝子の家へと向かった。
インターフォンのボタンを押すと、液晶モニターがぽっと灯る。
「はい、どちらさま?」小さな画面いっぱいに、中谷のすました顔が映し出された。ふうーん、これがよそ行きの顔か。何だか笑えてくる。「何だ、むぅにぃじゃないの。今、行くからちょっと待ってて」
奥からパタパタとスリッパの音が近づいてきた。
「急に来ちゃった」わかりきったことと知りながら、そう告げる。
「そう、いいよ。上がって」中谷は、そんなわたしの行動に慣れっこだ。
廊下を後からついて歩いていると、
「さっき、笑ってなかった?」と聞いてくる。
「うん、笑った。だって、中谷ってば、よそ行きの顔なんかしちゃって」わたしはまたおかしくなってきた。
「どこの誰が来たかなんて、わかりゃあしないもん。のっけからムスッとした顔もできないでしょ?」
中谷の部屋に入ると、かすかに香りがする。
「この匂い、もしかすると栗?」わたしは鼻をクンクンとならした。
「よくわかったじゃない」中谷は言う。「去年、親戚が送ってきたものを、1年かけて増やしたんだよ。ほら、そこの押し入れ。ふすまが、もうパンパンでしょ?」
「増やした? 押し入れで?」わたしは驚いた。ふすまに目をやると、今にも弾けそうなほど膨らんでいる。
「当たり前じゃないの。栗は押し入れで増やすものだよ? あんた、まさか知らなかったの?」反対に問いただされてしまう。
そうだったかなぁ。いとこの家にも栗の木はあったけれど、木の枝からイガに包まれてぶら下がっていた気がする。
「ね、ちょっと中を見てもいい?」わたしは聞いた。
「いいよ。そろそろ、収穫しなくちゃいけない時期だし」
わたしは押し入れを少しだけ開いてみる。ゴロゴロッと栗が崩れる音がした。
「めいっぱい、入ってそう」とわたし。
「一気に開けちゃっていいよ」
中谷がそう言うので、わたしはふすまをガラガラッと引いた。
茶色いつやつやとした大粒の栗が、どっと溢れこぼれる。たちまち、部屋中が栗で埋めつくされてしまった。
「す、すごい量だね、これ。どうすんのさ、こんなに巻き散らかしちゃって」栗の渦に飲まれながら、わたしは叫ぶ。
「心配ないって。業者を呼んで、あらかた引き取ってもらうんだから。1キロ辺り千円として、80万円は固いね。あんた、段ボールに入るだけ持っていきなさいよ。栗ご飯くらいは作れるでしょ?」
「うん、ありがとう。それにしても、栗が自宅で栽培できるなんて知らなかったなぁ」
「全部食べちゃわないで、ザル一山分残しておくといいよ。それを押し入れに蒔いておくの。来年の秋には、パンパンになるほど採れるから。けっこう、いいお小遣いになるんだ」
「そうなんだ。やってみようかな」わたしは、自分の家の押し入れが栗でいっぱいになる様子を思い浮かべた。「そうだ、ついでに柿も入れて増やしちゃおうかな。好きなんだ、柿」
「柿?」中谷が不思議そうな顔をする。「そんなもん、押し入れに入れてどうするつもり? 腐って、カピカピになるだけだよ?」
あれえ、栗はよくて、柿じゃダメなのか。この世はいったい、どんな法則で成りたっているんだろう。
うーん、と考え込んでいたら、危うく栗の海で溺れるところだった。




