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こんな夢を観た

こんな夢を観た「友人が栗の栽培を始める」

作者: 夢野彼方
掲載日:2014/10/11

 芸術の秋、読書の秋、色々あるけれど、やっぱりわたしには食欲の秋がお似合いだなぁ、などと1人想う。

「そうだ、中谷のところに行ってみようかな。あの人は料理とか好きだから、秋らしい食材で、お昼をご馳走してくれるかも」

 自慢じゃないが、こういう時の行動は素早い。わたしはサンダルをつっかけ、自転車に乗って中谷美枝子の家へと向かった。


 インターフォンのボタンを押すと、液晶モニターがぽっと灯る。

「はい、どちらさま?」小さな画面いっぱいに、中谷のすました顔が映し出された。ふうーん、これがよそ行きの顔か。何だか笑えてくる。「何だ、むぅにぃじゃないの。今、行くからちょっと待ってて」

 奥からパタパタとスリッパの音が近づいてきた。

「急に来ちゃった」わかりきったことと知りながら、そう告げる。

「そう、いいよ。上がって」中谷は、そんなわたしの行動に慣れっこだ。

 廊下を後からついて歩いていると、

「さっき、笑ってなかった?」と聞いてくる。

「うん、笑った。だって、中谷ってば、よそ行きの顔なんかしちゃって」わたしはまたおかしくなってきた。

「どこの誰が来たかなんて、わかりゃあしないもん。のっけからムスッとした顔もできないでしょ?」


 中谷の部屋に入ると、かすかに香りがする。

「この匂い、もしかすると栗?」わたしは鼻をクンクンとならした。

「よくわかったじゃない」中谷は言う。「去年、親戚が送ってきたものを、1年かけて増やしたんだよ。ほら、そこの押し入れ。ふすまが、もうパンパンでしょ?」

「増やした? 押し入れで?」わたしは驚いた。ふすまに目をやると、今にも弾けそうなほど膨らんでいる。

「当たり前じゃないの。栗は押し入れで増やすものだよ? あんた、まさか知らなかったの?」反対に問いただされてしまう。

 そうだったかなぁ。いとこの家にも栗の木はあったけれど、木の枝からイガに包まれてぶら下がっていた気がする。


「ね、ちょっと中を見てもいい?」わたしは聞いた。

「いいよ。そろそろ、収穫しなくちゃいけない時期だし」

 わたしは押し入れを少しだけ開いてみる。ゴロゴロッと栗が崩れる音がした。

「めいっぱい、入ってそう」とわたし。

「一気に開けちゃっていいよ」

 中谷がそう言うので、わたしはふすまをガラガラッと引いた。

 茶色いつやつやとした大粒の栗が、どっと溢れこぼれる。たちまち、部屋中が栗で埋めつくされてしまった。

「す、すごい量だね、これ。どうすんのさ、こんなに巻き散らかしちゃって」栗の渦に飲まれながら、わたしは叫ぶ。


「心配ないって。業者を呼んで、あらかた引き取ってもらうんだから。1キロ辺り千円として、80万円は固いね。あんた、段ボールに入るだけ持っていきなさいよ。栗ご飯くらいは作れるでしょ?」

「うん、ありがとう。それにしても、栗が自宅で栽培できるなんて知らなかったなぁ」

「全部食べちゃわないで、ザル一山分残しておくといいよ。それを押し入れに蒔いておくの。来年の秋には、パンパンになるほど採れるから。けっこう、いいお小遣いになるんだ」

「そうなんだ。やってみようかな」わたしは、自分の家の押し入れが栗でいっぱいになる様子を思い浮かべた。「そうだ、ついでに柿も入れて増やしちゃおうかな。好きなんだ、柿」

「柿?」中谷が不思議そうな顔をする。「そんなもん、押し入れに入れてどうするつもり? 腐って、カピカピになるだけだよ?」


 あれえ、栗はよくて、柿じゃダメなのか。この世はいったい、どんな法則で成りたっているんだろう。

 うーん、と考え込んでいたら、危うく栗の海で溺れるところだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 良いです。とても。栗を増やす……自給自足の鏡ですね。久しぶりにほっこりと、させていただきました。夢野さんの文体と内容が、ふわっとしながらしっかりと、はまっていると思います。
[一言] うわ〜、こんな栗欲しいです!いや、こんな押し入れが…こんな世界が欲しいというべきでしょうか(笑) 暗いところにひっそり置いて育てるなんて、もやしのようですね。 でもころころの栗がいつの間にか…
[一言] 押し入れにいっぱい詰め込まれた栗、想像したら笑ってしまいました。暗いところですくすく育つんですね。面白いです。 (柿がだめならぶどうもだめかな…)
2014/10/11 08:17 退会済み
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