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3話 少年事情

少女の友人視点の話になります。


 紙パックのフルーツオレを啜る。

 このメーカーは当たりだな。今度からこれにしよう。

 フルーツオレは当たり外れが激しい。外れは粉薬の味がするのだ。もっとまろやかさを大切にしてほしい。


 隣で同じメーカーのヨーグルト風味を飲んでいる智香子とは高校に入ってからの友達である。

 一年のとき、たまたま掃除当番が一緒だったことから仲良くなった。

 中学時代に一番仲が良かった子とは高校では離れてしまったのだ。越えられない偏差値の壁。仕方ない。

 そういえば、あの子が一人だけ落ちたから、同じ中学の子は自分の合格を喜べない微妙な空気に……いや、忘れよう。

 

 智香子と友人関係になった理由は一つ。

 あれだ、同じ匂いを感じたのだ。

 一度話しかけてからは早かった。彼女に似たものを感じたことは間違いではなかったのだ。「私のノリに初対面でついていけるとは……、貴様なにやつ!」「ふはは、可愛いは正義ですよ!」というやり取りを、このクラスの可愛い子という話題でした時、そう思った。


 ま、大体の友人関係の始まりはそんなものだろう。


 問題はその友人の交友関係にある。

 あの暗めの明らかに教室片隅系の見た目を裏切って、派手派手しい幼馴染がいるのだ。

 見た感じは交友関係も地味そうだったんだけどね。でも、あの【かていクラブ】に入っているらしいし、人は見た目によらないものだ。と無理やり納得する。


 だから、と言ってはなんだが、彼女と幼馴染君の恋愛事情は格好のネタである。

 なので今日も私は彼女の話に熱心に耳を傾けるのだ。

 

 で、また今日も友人は幼馴染の優斗君をからかって遊んだらしい。まったく。いいぞ、もっとやれ。

 正直なところ私はその幼馴染君と彼女が今後どういう関係に変わっていくのかに興味があるだけ。

 幼馴染君がどんな粗雑に扱われていようと別にかまわない。

 むしろ面白そうだからそそのかす。


 この一年、彼女の友人をやっていて分かったこと。

 智香子もその幼馴染君も、今の関係に満足している。というより、それ以外の関係など選択肢に存在していないのだ。


 でも、それじゃ私が面白くない。もっと変化がほしい。



 ……けしかけてみるか。


「でもさ、幼馴染君スペックだけなら完璧に近いよね」


「そうなんですよね。それがまたムカつきます」


「一組でしょ?すごいよねー。一番頭いいクラス。授業の進度まで他のクラスとは違うらしいし。ムカつくね」


 この学校は一応進学校と言う体裁もあってか、成績順にクラス分けされる。成績がいい方から一組。一番下は七組。要するに上のクラスを目指して頑張りなさい、ってこと。

 さすがに学年が上がれば文理選択で別れるんじゃないのかとも思ったが、この学校はある意味うまくできている。上のクラス、大体三組までが理系を選び、それより下のクラスは大体文系。選択での移動は最小限。例外はいるが、あまり問題は起こらなかったらしい。

 ちなみに我が学年は歴代でも有数のほのぼの学年である。競争意識など無きに等しい。だから、自分のクラスが上だろうが下だろうがあまり拘らない。私が仮に七組だったとしても、特に上のクラスを目指すことなく終わるだろう。

 成績順で分けたクラスが、学年が持ち上がったのに数人の変動しかなかったことが何よりの証拠である。

 ま、何が言いたいかっていうと成績上位者は例外なく一組なわけだ。


「はい。頭いいけどアホなんですよね。残念です」


「残念……。身体測定もすごかったんでしょ?学年総合三位じゃなかったっけ。なんで運動部入らないの?」


「ふ。勝利への執念が無いから合わなかったんですよ。あの人は相手に勝ちを譲る癖があるんですよね。何様なんだか」


「何様……? いや、確かにそんな理由とは思わなかったけどさ。あ、顔立ちは綺麗だよね。身長高いし。綺麗なものは見ている分にはとてもいい」


 彼女の幼馴染を思い浮かべる。彼女は一緒にいすぎて感覚が麻痺しているようだが、最初に紹介された時は目を疑ったものだ。下手な芸能人よりもカッコいいんじゃないんだろうか。いや、綺麗と言うべきか。

 髪を染めることが禁止されているこの学校では特に、少し色素が薄いためだろうか、僅かに茶色がかかった髪も、白い肌も、日本人離れして浮いて見えた。彼だけが別の次元にいるみたいな、そんな感じ。細く艶やかな絹糸のような髪も、整いすぎた顔立ちも、モデルのようなスタイルも、関わるには躊躇してしまう。

 平々凡々とした見た目の智香子がネクタイを掴んで引きずっていなければ知り合いとはとても思わなかったし、あの漫才がなければ話しかけるなんてとても出来ない。それほどの美形だ。


「遺伝子って怖いですよね。両親が美男美女ってだけであそこまで恵まれるものだとは。不公平にもほどがある。ああ、あのまつ毛を引っこ抜きたいと何度願ったことか」


「まつ毛よりさ、眉毛全部抜いたほうが面白い顔になるんじゃないかな」


「む。それは面白そうですね」


「これで家が大金持ちとかだったら笑えるんだけどな」


「大金持ちではありませんが小金持ちですよ? お家はおしゃれなカフェを夫婦で経営しています。カフェ自体かなり儲かっていますが、その売り上げを軽く上回る優斗君のお母様、薫子様への貢物総額。ホワイトデーのお返しにグッチだのエルメスだのをポンポン貰っています。……美しさって、罪ですよね」


 へー。カフェねぇ。それはまたモテそうな、ん? みつぎもの?


「貢物!? やばい、薫子様。超会いたい。美しい系? 可愛い系? ああ、どこにいくら払えば会えるの!」


 あの優斗君の母上と言うなら相当期待できる。薫子様、薫子様かぁ……!名前も素敵!


「ぐふふー。美しい系でスタイル抜群です。カフェに行けば会えますよ。生クリームが絶品です。地図描きます? 一緒に行きます? ウインナーコーヒー飲みます?」


「げへへ。それはよろしいですな。生クリームの為ならどこへでも行くよ。私は生クリームには少々煩いからね!甘さ控えめでちょっとチーズの風味とかあるのもいいよね! ただ砂糖だけじゃない味の広がりにこそ生クリームの真髄はある! ところで生クリームはボウルで出てくるのかな。ガッツリ食べたいんだけど」


「いえ、それは流石に。小皿に盛ってあるだけです」

 

 なんだ。つまらない。いや、行くけどね。

 あ、いけない。話が脱線してしまった。美女とか生クリームとか卑怯だ。

 

 とりあえず、けしかけねば。全ては私の娯楽のために。



「でもさ、そんなにモテる要素があるなら、女の子に告白されるぐらいはあるんじゃない? そんなのんびりしてていいの? 誰かに取られちゃうよ?」


 さあ、どうでる?


 頬杖を突き、すでに空になった紙パックを空いている手で遊びながら話しかける。

 さて、どういう反応をするかな。人の色恋沙汰は見ている分にはとても面白いことを経験上知っている。

 まして、こんなに格差がある二人なんて。滅多にあることじゃない。


「告白はありました。中学の時にも、実は高校に入ってからも頻繁に。でも……」


 彼女はそこで言葉を区切った。


 やっぱりされてるのか。あの容姿で、全く想いを寄せられないなどあり得ないと思っていたから、そこは別に以外でもなんでもない。

 でも話を聞く限りはかなりのお人よしだから「断るなんてとんでもない」って感じになって、普通に付き合うのかと思っていた。だけど今彼女がいる感じはないんだよねー。遠距離? 


 いや、それとも?


「でも、何?」


 続きを促す。彼女は言っていいものか少し躊躇ったのか、口を開けて、閉じた。

 そして再度彼女が口を開く、その時。



「智香ちゃーん! 助けて――――――っ!」


 あー、も――――っ!いいところだったのに! と声のする方へ顔を向ける。

 ……なんだ幼馴染君じゃないか。


 相変わらずきらめいてるなぁ。

 そんな幼馴染君のその手にはラブレター。ラブレター!?

 可愛らしい桜色の封筒、少し透かしが入っていて美しい。そしてお決まりのハートのシール。

 今でもラブレターとかあるんだ。いや、それはいい。古典的だが奥ゆかしさを感じさせるよい方法だ。


 でも、なんで持ってくる?

 お前一組だろ、クラスに戻れ、今面白いところなんだから、と念じる。


 幼馴染君は私に欠片も興味がないのか視線を無視しやがった。

 とりあえず今は智香子に要件を伝えたくていっぱいいっぱいなようだ。


「どうしよう、手紙で呼び出された!」


「はい」


 はいじゃねーよ。

 もっとリアクションしなさいな。


「こっ、告白したいって書いてあった!」


「モテますね」


 そういわれた幼馴染君はちょっと照れて、そうじゃなくて!と声を張り上げる。


 もしかして、幼馴染君は?え、うわ、うわ。

 いや、この感じは絶対そうだろう!俄然面白くなってきた!

 よしよし、いいぞ幼馴染君!


 彼は私の考えを感じ取ったのか、少し顔を赤くした。


 そして彼は頼りなげに言い放った。




「一人で行くの、怖いから付いてきて」




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