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第8話 2戦目

 スペースバイウェイが新馬戦を終えたことで、星厩舎に所属している馬達は全てデビューを終えた。

 2歳馬は全員惨敗してしまったが、まだ1回走っただけということもあって、陣営はこれから各馬の特徴をつかんだ上でレースに出すことを考えていた。

 スペースバイウェイが出走停止になっている間、厩舎にいる他の馬達が次々とレースに挑んでいった。

(※ヘクターノアは放牧から戻ってきた後、調教でなかなか真面目に走らず、結果として調子が上向かなかったため、出走していません。)

 結果は次の通りだった。

 カヤノキ: 未勝利戦… 10着(中山、12頭立て)

 ウェーブマシン: 500万以下… 6着(中山、16頭立て)

 オーバーアゲイン: 未勝利戦… 3着(中山、8頭立て)

 ホーソンフォレスト: 500万以下… 7着(札幌、11頭立て)

(※ホーソンフォレストは6歳の1勝馬なので、裏開催しか出走権がありません。)

 立て続けに出走をした割には成績があまり伴わず、勝利を挙げることはできなかった。

「うーーん…。また勝てなかったか。これで今年の2月にウェーブマシンが未勝利戦を勝って以来、勝ち星なしだな…。何とかして1着を取りたいものだが…。」

 今年、厩舎ではまだ1勝しか挙げられていないだけに、星調教師はもどかしさを抱えながらつぶやいた。

 それは、村重調教助手やスクーグ調教厩務員、久矢騎手も同じだった。

 救いは久矢君が他の厩舎からの騎乗依頼を増やして、着々と賞金を稼いでいることだった。

「まあ、僕が何とかして厩舎を支えていきますから。皆さんもがんばりましょう。」

 彼はそう言いながら他の3人を元気付けていた。

「そうだな。僕達があきらめたら馬に悪い影響を与えるからな。」

「ええ。勝てる時は必ず来るから、Chin upでいきましょう!」

 村重君、スクーグさんも久矢君の励ましに奮い立った。

(Chin up.… Chinは「あご」です。直訳すると「あごを上げろ。」ですが、日本語としては「下を向くな。」という意味になります。)


10月。タイムオーバーが明けたスペースバイウェイは、東京競馬場で行われる2歳未勝利戦(ダート1300m)に出走することになった。

 この時、久矢君は他の厩舎の馬に騎乗するために福島競馬場に行っていたため、星調教師は道脇長伸騎手に依頼することにした。

「ありがとうございます!精一杯頑張ります!」

 まだ騎乗依頼に十分恵まれていない彼は、気合いを入れながら彼は喜んで引き受けてくれた。


 13頭立ての4枠4番に入ったスペースバイウェイは、レース当日、単勝58.2倍の12番人気だった。

 辛うじて最低人気だけは免れたものの、それでも厩舎の陣営や伸郎にとっては頭の痛い数字だった。

「先生、作戦はどのようにお考えですか?」

 道脇騎手は星調教師に質問をした。

「道中は中段につけて、最後の長い直線で好位抜け出しを狙ってほしい。」

「分かりました。特にマークするような馬はいますか?」

「3番のトランクリベラの出方が気になるな。人気もあるし、隣の枠だからこの馬をちょっとマークしてくれないか?」

「はい。」

 道脇騎手は打ち合わせが終わると、気合いを入れてパドックへと向かっていった。


 レースは全馬がきれいにそろってスタートした。

 人気を集めたトランクリベラは中段に待機し、タマモロッジが先頭に立った。

 スペースバイウェイはトランクリベラをマークするような形で、トランクブルースリと並んで後方を追走した。

 その後ろにはシーラカンスがおり、最後方はスペシャルデイオフという展開で、各馬は固まったまま3コーナーへと入っていった。

 しかしスペースバイウェイは、コーナーを曲がっている時から少しずつ後退していった。

「何だ何だ?」

「作戦でしょうか?」

 競馬場にやってきた伸郎と井王君は少し慌てたような口調で言った。

 4コーナーでは道脇騎手の手が早くも動き、スパートに入っているような感じだった。

 しかし順位は一向に上がらず、トランクリベラ、トランクブルースリからどんどん置いてけぼりにされてしまった。

 最後の直線に入ると、後ろにいたシーラカンスに交わされて、さらには最後方にいたスペシャルデイオフと並んでしまった。

 レースはタマモロッジが最後の直線で逃げ切りを図ったが、最後の直線で猛然と追い込んできたトランクブルースリに抜かされてしまった。

 トランクブルースリはそのまま他馬を置き去りにしながらぐんぐんと差を広げていき、2着に6馬身もの差をつけて1着でゴールインした。

 タマモロッジは2着を死守しようと懸命に見せ場を作ったものの、ゴール直前でシーラカンスを含む他馬に一斉に交わされてしまい、5着まで順位を下げてしまった。

(シーラカンスは4着。2着以降の差は頭、ハナ、クビ。)

 スペシャルデイオフは離れた10着、トランクリベラは人気を大きく裏切って12着に沈んだ。

 そしてスペースバイウェイはトランクリベラからさらに大きく遅れてシンガリでやっとゴールインした。

 すでにトランクブルースリがゴールしてから5秒以上経過していたため、またタイムオーバーになってしまった。

(トランクブルースリとの着差は31馬身)

「おいおい!どうしたんだ道脇!」

「あれが見習い騎手の実力なんでしょうか?」

 伸郎と井王君は首をかしげながら言った。

「騎手の腕ではないと思います。スペースバイウェイが途中でバテてしまったからこうなったんだと思います。ごめんなさい。調教を担当した私の力が足りなかったせいで…。」

「まあ、君がそう言うのならそういうことなんだろう。君を責めるつもりはないから気にしないでくれ。」

「そうだよ。君がいなかったら厩舎に入れないまま引退になっていただろうから、僕達はあれこれ言ったりはしない。自分を責めないでくれ。」

 伸郎と井王君はスクーグさんに配慮してくれたが、彼女は返す言葉もないまま、悔しさに耐えていた。


 レースを終えて引き上げてきた道脇騎手は、馬から降りると、うつむきながら星調教師に向かって

「すみません。何もできませんでした。」

 とあやまった。

「結果は確かに残念だが、この着差はひどいな。何か理由があったのかね?」

「色々あります。まず、他馬を怖がっています。そのために馬群に割り込んでいくことができずに後方待機になってしまいました。」

「そうか。他には何かあるかね?」

 道脇騎手は途中でペースを乱したこと、スタミナ不足であること、そして最後は馬が混乱して走る気をなくしたことを打ち明けた。

「まあ、これだけの条件が重なっては厳しいだろうな。残念だが、君には大変な思いをさせてしまったな。」

「いえ、僕の実力不足です。もっと実力があれば少なくともタイムオーバーだけはならずに済んだはずなのに…。」

「まあ、早く気持ちを切り替えてくれ。君はすぐ次のレースにも騎乗することになっているだろう?」

「はい…。」

 彼は悔しそうに返事をすると、両手で顔をパンパンと2回たたいた。

 そして騎乗依頼をしてくれたことに対する感謝の言葉を残して、次のレースに向かっていった。


 これまで2回出走して最低人気とブービー人気。結果は2回続けてタイムオーバー。

 スタミナ不足、そして怖がり。

 果たしてこんな馬が、来年の9月までに勝利を挙げることができるのだろうか…。

 明るい要素が見つからず、悪い要素ばかりが増えていく状況になってしまったが、彼らはそれを受け入れるしかなかった。


 2歳10月の時点におけるスペースバイウェイの成績

 2戦0勝

 本賞金:0円

 総賞金:0円

 クラス:未勝利


 名前の由来コーナー その5


・タマモロッジ(Tamamo Lodge)(オス)… この馬は小説オリジナルの馬で、名前は読者の方から寄せられたものです。どうもありがとうございました。


・トランクリベラ(Trunk Libera)(オス)… 「トランク」は冠名。「リベラ」はイギリスの少年合唱団の名前です。リベラは期待の馬に命名することにしていたので、セリで4100万円で買ってきたこの馬につけることにしました。


・スペシャルデイオフ(Special Day-off)(メス)… 父が「スペシャルウィーク」、母が「ローマンホリデー」だったので、ホリデーをデイオフに変えた上でこのように命名しました。


・トランクブルースリ(Trunk Bruce Lee)(オス)… 「トランク」は冠名。「ブルースリ」は香港のアクション俳優「ブルース・リー」から命名しました。2008年の菊花賞馬「オウケンブルースリ」も意識しています。(関係者の皆さん、ごめんなさい。)


・シーラカンス(Coelacanth)(オス)… その名の通り、生きた化石と言われる魚の名前です。この英単語のスペルを忘れたくないと思ったので、馬名に使わせていただきました(笑)。


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