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第5話 星厩舎へ

 牧場の所有馬として走ることになったスペースバイウェイは、1歳の秋に育成施設へと移っていった。

 そして競走馬になるために、本格的な調教やゲート試験を受けた。

 12月のある日、伸郎は育成施設に出向いて関係者と面会した。

 そしてスペースバイウェイの近況や特徴について色々と聞くことにした。

 話によると、この馬は寂しがり屋で他馬とあまり接しようとはしないものの、気性は決して悪くないということだった。そのため、ゲート試験はすんなりとクリアできた。

 しかしなにぶん成長が遅く、現段階ではスタミナ不足ですぐに息切れしてしまうため、十分な運動ができずにいた。

 そのため、能力の開花が通常の馬達よりも遅くなるだろうということだった。

(うーーん…。ゲート以外は前向きなコメント無しか…。まいったなあ…。)

 伸郎は厳しい表情をしながら考え込んでしまった。

「道脇さん。この馬が競走馬になれば、間違いなく厳しい戦いが待っていると思います。未勝利戦がある3歳9月までに勝利を挙げることができれば、こちらとしては御の字だと思います。」

「そうですか…。」

「正直、私はこれまでこのような馬をたくさん見てきました。そしてオーナーさん達と協議をしてきました。それでも競走馬としてデビューさせることを選んだ人もいましたが、半数以上は競走馬として走らせることを断念し、馬を返してもらうという結果になっています。」

「半数以上ですか…。それでも、牧場スタッフの執念でここまで育て上げてきた期待の星ですから、やっぱり競走馬として走らせてみたいと思います。」

 伸郎は厳しいコメントを聞かされながらも、迷うことなくきっぱりと言い切った。

「競走馬になれば、待っているのは間違いなくイバラの道です。苦労すると思いますが、よろしいですか?」

「はいっ!」

「……分かりました。」

 関係者の人はしばらく考え込みながらも、伸郎の熱意に押される形で同意をした。

「それでは、私達はスペースバイウェイを競走馬にするための訓練や調教をこのまま継続していくことにします。よろしいですか?」

「ぜひお願いします。厩舎に入れる準備ができましたらまた連絡をしてください。」

「分かりました。それでは、今後も経過について随時報告をしていきます。」

 関係者の人はお辞儀をしながらそう言うと、席を立って

「今後とも、よろしくお願いします。」

 と言った。

 そしてスペースバイウェイの管理を担当している人に、今後の指示を出しに行った。


 その後、育成施設で調教を積み重ねたスペースバイウェイは、翌年の春に入厩OKのサインが出た。

 牧場スタッフの4人は片っ端に厩舎の特徴や馬房の空き状況を調べ、受け入れてくれそうなところを探した。

 しかし次から次へと断られてしまい、あっという間に1ヶ月が過ぎてしまった。

「道脇さん、なかなか受け入れてくれそうなところが見つかりませんね。」

「やっぱりこの馬の体質が災いしているせいなんでしょうか。」

「このまま預託先が見つからなければ、デビューすることなく引退になってしまうかもしれませんね。」

 伸郎に相談する井王君、長谷さん、ケイ子には焦りの表情が浮かんでいた。

(確かにこの状況ではあせるな…。うーーん…。この馬は本当に何をするにしても苦労ばかりするなあ。まあ、競走馬にすると決めたのはこちらだし、馬のせいにはしたくないが…。)

 伸郎は懸命に気持ちを落ち着かせながら、すがるような気持ちで美浦にある星厩舎に連絡を取った。

 星厩舎は調教師の星 駿馬しゅんまの他に、調教助手、厩務員、所属騎手が1人ずついる小さな厩舎だった。

(なお、厩務員の人は調教厩務員の資格を得ているため、調教もできる立場だった。)

 所属している競走馬は5頭で、プロフィールは次の通りだった。


 ホーソンフォレスト(6歳 オス 32戦1勝)

 ウェーブマシン(3歳 オス 4戦1勝)

 ヘクターノア(2歳 オス デビュー前)

 オーバーアゲイン(2歳 オス デビュー前)

 カヤノキ(2歳 メス デビュー前)


 この厩舎は開業してまだ5年と日が浅いこともあってか、これまで目立った実績がなく、存続の危機に立たされていた。

 しかし、今年の2月まで現役馬として所属していたトランクバークの活躍により、経営を持ち直すことができた。

 そして3月末から4月初めにかけて3頭の2歳馬が入厩し、少しずつ活気が出てきていた。

 伸郎はその厩舎と連絡を取ると、何とか預けることができないか交渉をした。

 すると、星調教師は馬を見た上で一度面談をしたいと申し出てきた。

 伸郎ははやる気持ちを抑えながらそれを承諾した。


 星調教師はスペースバイウェイが到着すると馬房に連れて行き、そこで馬体を色々チェックしては、この馬のいきさつなど、色々と質問をしてきた。

 その度に伸郎はこれまでにあったことを包み隠すことなく、正直に話した。

「なるほど。道脇さんとしてはそのような苦労があったというわけですね?」

「はい。何度もくじけそうになりましたが、その度にあきらめてたまるかという気持ちでここまできました。」

 星調教師は馬の体が弱いと言ったような、一見マイナス要素になりそうなことも、真剣に聞いてくれた。

 その様子を見て、伸郎は確かな手応えを感じ始めた。

「それでは、人を一人呼んでくることにします。しばらくお待ちいただけますか?」

「はい、分かりました。」

「では、しばらくここを空けます。どうぞ椅子にかけてお待ちください。」

 星調教師はそう言うと、一旦部屋を後にしていった。


 15分後、彼に付き添われながら一人の女性が「失礼します。」と言いながら馬房入口に入ってきた。

 その女性は身長150cm程度で、まるで子供と見間違えてしまうような小柄な人だった。

 髪はこげ茶色で、後ろで結んでおり、顔はどこか外国人風に見えた。

「道脇さん、紹介をいたします。この人はスクーグ さきさん。うちの厩舎の調教厩務員です。」

「初めまして、スクーグ ベンジャミン 咲と申します。この度は先生からの打診を受けまして、これからスペースバイウェイの管理を担当することになります。よろしくお願いします。」

 スクーグ ベンジャミン 咲と名乗ったその女性は、自己紹介をした後、深々とお辞儀をしながらそう言った。

「星先生、それでは預かっていただけるんですか?」

 伸郎は驚いたような表情で確認を取った。

「はい。彼女にスペースバイウェイのことを話したら『その馬、私と少し重なって見えるので、ぜひ私に担当させてください。』と名乗り出てくれました。ですからうちで預かることにします。」

「ありがとうございますっ!スペースバイウェイをよろしくお願いします!どうか幸せにしてあげてください!」

「道脇さん、こちらこそよろしくお願いします。いい関係を築いていきましょう。」

「私も、これからこの馬のために全力を尽くしますので、よろしくお願いします。」

 星調教師とスクーグさんはそう言いながらお辞儀をした。

「こちらこそ、よろしくお願いしますっ!」

 伸郎はやっと所属先が見つかったことを素直に喜んだ。

 しかし、これからがスペースバイウェイの本当の試練が待っているということを、彼はまだ知らずにいた。


 名前の由来コーナー その4


・ホーソンフォレスト(Hawthorn Forest)(オス)… 「ホーソン」はオーストラリアのメルボルンにある地域の名前です。僕がメルボルンに住んでいた時、ホーソンにある森がきれいだったので、この名前をつけました。ちなみにゲームには登場しておらず、小説オリジナルの馬です。


・ウェーブマシン(Wave Machine)(オス)… 「ウェーブ」は僕の書いた競馬作品に登場したキャラ、武並定光の所有馬につける冠名(後に廃止)、「マシン」は執筆している時に即興でつけた名前です。この馬もゲームには登場しておらず、小説オリジナルです。


・ヘクターノア(Hector Noah)(オス)… 「ヘクター」はPCエンジンのゲームソフト「スーパースターソルジャー」の2分間モードのBGM (さらにはファミコンソフト「Hector ’87」の1面のBGM)「Hector ’87」。「ノア」はファミコンソフト「Hector ’87」のプレイヤー機「ノア号」から取りました。


・オーバーアゲイン(Over Again)(オス)… PCエンジンのゲームソフト「スーパースターソルジャー」のタイトル画面のBGM「Over Again」から取りました。


・カヤノキ(Kayanoki)(メス)… メープルパームにちなんで、植物に関する名前をつけようと思い、この名前にしました。


・ベンジャミン… スクーグさんのミドルネームは今作で初登場なので、説明しておきます。元々は「星野求次の英会話ジョーク」に登場するベニー先生から、ベニーにしようとしました。しかし何度も使うのはちょっとと思ったため、千葉ロッテマリーンズに所属していたベニー選手の本名「ベンジャミン ピーター アグバヤニ」からベンジャミンにしました。

(参考:「スクーグ」はMS(ムラシゲ&スクーグ)培地から、「咲」はたまたま友人が読んでいたマンガのタイトルを見て即興で決めたものです。)

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