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第37話 ハンデの恩恵

 春競馬を締めくくる宝塚記念が行われる週に、厩舎期待の星であるトランククラフトがいよいよ競走馬としてデビューすることになった。

 トランククラフトは母親であるトランクバークがかつてつけていた黒のブリンカーを装着し、2歳新馬戦(福島、芝1200m、12頭立て3番人気)に出走し、見事に逃げ切り勝ちを収めることができた。

「先生!やりましたね!トランクバークと同じくデビュー戦勝利ですよ!」

 木野牧場の経営者であり、トランクバーク、インビジブルマンの馬主でもある木野求次は、星調教師に向かってうれしそうに語りかけた。

「ああ、よくやってくれた。気性面の荒さなど課題はいくつもあるが、それはレースを経験しながら対処はしていけるだろう。鞍上の久矢君もトランクバークの性格や癖を知っているしな。」

「これからが楽しみですね。次は重賞に出走させますか?」

「そうですねえ…。函館2歳S(GⅢ)では間隔が短いし、新潟2歳S(GⅢ)では空きすぎる。だから、その2レースの間に行われるオープン特別にしてみようと思いますが、どうでしょうか?」

「こちらとしてはオープンでもかまわないです。もう以前のような資金難からは開放されましたから。」

「分かりました。ではそのように調整していきましょう。」

 求次と星調教師は、誇らしげに戻ってくるトランククラフトと久矢君を見ながら会話をしていた。


 星調教師はこの日の福島のメインレースであるバーデンバーデンC(オープン、芝1200m、15頭立て14番人気)に出走したヘクターノアが15着のシンガリでゴールインしたのを見届け、馬の体調に問題がないことを確認した。

 そして後のことは村重君に任せ、自らは阪神競馬場へと向かっていった。

 翌日にはカヤノキが加古川特別(阪神、1000万下、ダート1800m、11頭立て4番人気)に出走し、7着に終わった。

 カヤノキは場内がもうすぐ宝塚記念が発走ということで盛り上がっている最中に競馬場を後にし、当日中に美浦へと戻っていった。


 宝塚記念も終わり、本格的な夏競馬となった翌週、星厩舎からは4頭が福島競馬場に集結し、レースに望んでいった。

 各馬の結果は次の通りだった。

 トランクインパクト… 未勝利(芝2000m)2着(11頭立て、2番人気)

 オーバーアゲイン… 障害未勝利(直線ダート2770m)1着(10頭立て3番人気)

 ソーラーエクリプス… 岳特別(500万下、ダート1700m)7着(12頭立て8番人気)

 そして4頭のトリとして、スペースバイウェイが三春駒特別(1000万下、芝1800m)に出走した。

 15頭立ての7番人気(単勝18.6倍)のスペースバイウェイは2枠2番に入り、斤量は50kgと最軽量だった。

(ただし斤量51kgの牡馬、ユーキャンゴーゼアがいるため、牝馬2kg減を考慮すればその馬が一番の軽ハンデということになった。)

 それでも鞍上の久矢君は

(前走でシンガリ負けをしてしまったけれど、そのおかげで(?)斤量も軽くなったし、ここがチャンスだ。7番人気という評価もファンがつけたものだし、気にしないでおこう。すでに英語の先生としてがんばっているサキもスタンドから応援しているし、今度こそやってやる!)

 と、勝つ気満々だった。


 ゲートが開くとほぼ同時に勢い良く飛び出したスペースバイウェイはそのまま先頭に立ち、1コーナーまでの短い直線を走り抜けていった。

 1コーナーでは1番のシーラカンスがコーナーワークを利用して先頭に踊り出た。

 2番手に後退したスペースバイウェイは、シーラカンスをじっとマークする形で走り続けた。

 スペースバイウェイの後ろには5番のドライユアティアズと6番のトランクチャーチがマークするように追走し、14番のユーキャンゴーゼアは一番の軽ハンデにもかかわらず後方にいた。

 1番人気の9番ナルリョボリョは中段、トップハンデの57kgを背負っている13番のアイハヴアドリーム(2番人気)は後方からレースを進めていた。

 レースはそのまま淡々と進んでいき、先頭はシーラカンス、2番手はスペースバイウェイのまま2コーナーを回り切った。

 向こう正面ではドライユアティアズが少し後退して中段まで下がり、トランクチャーチはそのままスペースバイウェイの後ろにつけていた。

 3コーナーに差し掛かると、ナルリョボリョとアイハヴアドリームが外に持ち出しながら上がっていった。

 先頭のシーラカンスから最後方のユーキャンゴーゼアまでの差は段々詰まっていき、4コーナーではハンデ戦らしく各馬は一団となった。

 そんな中で、スペースバイウェイはシーラカンスの横に出て並びかけた。

 さらにその横ではトランクチャーチが並び、先頭は3頭が横一線になった。

 一方、ドライユアティアズは手応えが怪しく、なかなか伸びずにいる状態だった。

 最後の直線。スペースバイウェイは頭一つ抜け出して先頭に立った。

 内のシーラカンスは必死に追いすがるもののスペースバイウェイを抜き返すことができず、徐々に後退していった。

『残り200m。先頭はスペースバイウェイ。2番手はトランクチャーチ。』

『しかし外からはナルリョボリョとアイハヴアドリームがぐんぐん伸びてきた。』(※アナウンサーのセリフです。)

「行け!そのまま逃げ切れ!」

「頑張れ!抜かれるんじゃないぞ!」

 星調教師と伸郎は大声で叫んだ。

「もう少しよ!最後まで持ちこたえて!」

 スタンドにいるスクーグさんも叫んだ。

『残り100m。先頭はスペースバイウェイ。2番手はナルリョボリョに変わった。』

『3番手はトランクチャーチ。そこにアイハヴアドリームが襲いかかる!』

『スペースバイウェイ、半馬身程抜け出している!しかしナルリョボリョが追う!』

『トランクチャーチを交わしたアイハヴアドリームも差を詰める!』

『先頭はスペースバイウェイ!ナルリョボリョ!アイハヴアドリームも来た!』

『スペースバイウェイ粘り切るか!粘り切れるか!?』

『スペースバイウェイ先頭で今ゴールイン!2番手はアイハヴアドリーム!わずかにナルリョボリョを差し切った!』

「やったーーーっ!!5勝目だーーっ!!」

 伸郎は両手を高々と突き上げながら叫んだ。

 道脇牧場の他の3人も伸郎のそばで飛び上がりながら喜びを分かち合っていた。

「久矢君、バイウェイ!おめでとーーー!」

 スクーグさんはクールダウンをしながら1コーナーを回っている久矢君とスペースバイウェイに向かって叫んだ。

「星先生、体が弱かったこの馬を5回も勝たせていただき、本当にありがとうございます!」

「思えばセリで見向きもされず、所属厩舎さえなかなか見つからず、1勝すら不可能だと思われた馬が…。」

「そうですね。その馬が5回も勝てるなんてそれだけでも本当に夢のようです。ありがとうございます。」

 ケイ子、井王君、長谷さんはこれまでに起こった色々なことを思い出しながら、星調教師にお礼を言った。

「いえ、僕だけのおかげではないです。村重君や久矢君、長伸君や咲。坂江騎手、あなた達やバイウェイ自身、そして厩舎の馬達のおかげです。この中の誰1人、1頭が抜けても、今のバイウェイはなかったでしょう。皆様のおかげです。この馬からはあきらめないことの大切さを学ばせていただきました。この馬に出会わせていただき、本当にありがとうございます。」

 星調教師は深々とお辞儀をしながら、伸郎達にお礼を言った。


 記念撮影にはスペースバイウェイと久矢君、星調教師と長伸君。そして道脇牧場の4人が一緒にカメラに収まった。

 その様子をウィナーズサークルの脇にいるスクーグさんは、満面の笑みで見つめていた。


 5歳7月の時点におけるスペースバイウェイの成績

 21戦5勝

 本賞金:2400万円

 総賞金:6350万円

 クラス:1600万下


 ※ナルリョボリョは「インビジブルマン号物語」のScene15、アイハヴアドリームはScene17に名前の由来が書かれていますので、ここでは省略します。

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