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第27話 因縁の対決

 6月。スペースバイウェイは鎌倉特別(1000万下、東京、ダート1400m)に出走した。

 単勝は32.5倍で15頭立ての10番人気になり、前走の1番人気から大きく人気を落としたが、それでも4着に粘り切った。

 この時点における他の馬達の成績は次の通りだった。

4歳馬

 ヘクターノア… 12戦3勝(オープン、翌月1000万下に2段階降級予定)

 オーバーアゲイン… 12戦3勝(1600万下、翌月1000万下に降級予定)

 カヤノキ… 8戦2勝(1000万下、まだ離脱中。翌月500万下に降級予定)

3歳馬

 ソーラーエクリプス… 9戦0勝

 トランクキャップ… 6戦0勝

 ナイトオブファイア… 6戦0勝

 トランクレッツゴー… 3戦0勝


 上記の通り、3歳馬はまだ誰も勝利を挙げていない状態だった。

 未勝利戦は9月までしかないため、4頭の脳裏には焦りが生じていた。

 彼らは去年、自分達と同様の体験をしてきたスペースバイウェイに、すがるようにアドバイスを求めた。

 スペースバイウェイはすすんで悩みの相談に立ち会い、後輩達に対し

『自分達の長所を信じなさい。アゲイン君は唯一の長所であるスタミナに物を言わせて未勝利を脱出したんだから!』

『あんた達は強いの。きっと勝てるわ。毎日100回「私は強い。私は勝てる。」って言い続けなさい!』

『その気持ちは他の厩舎の馬達も同じよ。でも焦ってはダメ。自信を持ちなさい。それだけで他の厩舎からリードを奪ったことになるわ!』

 と、アドバイスをしながら、キャプテンらしく振るまい続けた。


 そんな中、降級を翌週に控えた東京競馬の最終週に、ヘクターノアがエプソムC(GⅢ、東京、芝1800m、鞍上は久矢君)に出走した。

 人気は12頭立ての8番人気と低めだったが、後方待機から最後の直線で馬場のいい大外に持ち出し、懸命に追い込んだ。

 そして荒れに荒れた内馬場で懸命に粘る人気馬をギリギリ差し切って、見事に番狂わせを起こすことに成功した。

 重賞勝ちという快挙に、厩舎は大盛り上がりとなった。

 ヘクターノアが厩舎に帰ってくると、他の馬達は大騒ぎをするように彼を祝福した。

 そんな歓喜の中で、スペースバイウェイは

『さあ、次は私の番よ。ノア君に続いて私も勝利をゲットして見せるわ!』

 と、高らかに勝利を宣言した。


 翌週、500万下に降級となったスペースバイウェイは、勿来特別(500万下、福島、芝1800m)に出走するため、僚馬のメロディーオブラヴ、ロマリアと共に福島競馬場に向かっていった。

 メロディーオブラヴとロマリアの2頭は、同じ新馬戦に出走し、それぞれ14頭立ての6着、13着に終わった。(鞍上は前者が久矢君、後者が道脇騎手。)


 同じ日に行われた勿来特別では、7枠11番(14頭立て)のスペースバイウェイは単勝3.5倍の1番人気に支持された。

 単勝3.7倍で僅差の2番人気に支持された馬は、4枠5番のトランクハイエストだった。

 この馬は以前、星厩舎に預託されながらも、馬主の意向で関西の名門厩舎に転厩となったため、星調教師や村重君にとっては因縁ができてしまった。

 そのため(馬自身に罪はないものの)彼らはこの馬には絶対に負けられないという意気込みだった。

(ちなみにトランクハイエストは度々調整に手こずったこともあって、ここまで3戦1勝にとどまっていた。)

 レースがスタートすると、鞍上の久矢君はいきなり出ムチを入れて、逃げに打って出た。

 しかし、隣の6枠10番トランクブルースリと2枠2番のシーラカンスもスタートダッシュをかけてきたため、3頭が前に並ぶ形になってしまった。

 結局、スペースバイウェイは単騎で逃げを打つことができないまま、1コーナーのカーブを曲がっていった。

 一方のトランクハイエストは中段で1枠1番のジャスティスライトと並走しながらコーナーに入っていった。

 星調教師と井王君は、渋い表情でレースを見守った。

「うーーん、トランクブルースリとシーラカンスも逃げでくるとは…。意外だったな。」

「あと、1コーナーまでの距離が短かったことも痛いですね。」

「そうだな。しかしこのまま外を走らされるとなると、距離をロスしてしまうことになるな…。」

「それに今週は福島の開幕週ですから馬場もいいですし、内枠が有利ですから、ますます不利になりますね。」

「その通りだ。あと、トランクハイエストを始めとする、他の陣営からのマークも受けるだろうしな…。」

「でも、久矢君なら何とかしてくれるでしょうね。」

「そう信じることにしよう。」

 2人が話をしている間に、各馬は向こう正面までやってきた。

『先頭はトランクブルースリ。頭一つ抜け出しています。すぐ後ろにはシーラカンス。スペースバイウェイは4番手辺り。』

『トランクハイエストは中段のまま。』

『ジャスティスライトは少しずつ後退。ここで外を走る13番のライジングホースと並んだ。』

 アナウンサーが後方の馬の実況をしている間に、スペースバイウェイは外を走りながら少しずつ上がっていき、再び3番手に上がった。

 3コーナーに入ると、トランクハイエストと鞍上の逗子騎手は、少しずつペースを上げながら前の馬達に接近してきた。

 そして、スペースバイウェイとシーラカンスの間に割り込んできて、抜け出しを図ってきた。

 シーラカンス鞍上の騎手は、そうは抜かせるものかとばかりに手綱を動かし、お互いけん制しあった。

 一方のスペースバイウェイ騎乗の久矢君は潔くトランクハイエストを先に行かせ、自身はじっと我慢を選択したため、順位は少しずつ下がっていった。

 4コーナーを回り切り、最後の直線にやってくると、トランクハイエストはトランクブルースリとシーラカンスを振り切って一気に先頭に立った。

「さあ、行け!スペースバイウェイ!」

 久矢騎手は直線に入ってすぐにムチを入れ、前にいる5頭を追った。

 途中から後退していったジャスティスライトは直線に入っても全く伸びが見られず、ライジングホースに置いてけぼりにされてしまった。

 そのライジングホースも伸びてはいるものの、福島の短い直線では先頭まではとても届きそうにない状態だった。

 スペースバイウェイ直線で一気に伸びていき、シーラカンスやトランクブルースリらを次々と追い抜いていった。

 残るはトランクハイエストのみ。もはや勝負はこの2頭に絞られてきた。

「バイウェイ!差し切れ!」

「もう少しだ!行け!」

 星調教師と井王君は懸命に叫んだ。

「ハイエスト、その調子だ!逃げ切れ!」

 近くではトランクハイエストの馬主が、負けるものかとばかりに大声を出した。

『先頭はトランクハイエスト!まだ1馬身のリードがある!』

『スペースバイウェイ、接近してきた!』

『トランクハイエストか!スペースバイウェイか!』

『スペースバイウェイがここで並んだ!2頭が並んでゴールイン!内がトランクハイエスト!外がスペースバイウェイ!』

『離れた3着にはトランクブルースリ、その後にはライジングホースが続いた模様です。』

 アナウンサーがゴールシーンでの実況を終えてしばらくすると、場内にはリプレイが流された。

 そして頭差程で、スペースバイウェイが先着している様子が映し出された。

「やったーーっ!!これで3勝目だーっ!」

「ハイエストに引導を渡してやったぞ!」

 井王君と星調教師はガッツポーズをしながら喜んだ。

「ちくしょー…。最後の直線でもっと伸びると思ったのに…。逗子!油断騎乗したわけじゃないだろうな!?」

 もう一伸びがなかったために最後の最後で交わされてしまったトランクハイエストの馬主は、怒りを押し殺すようにして言い放った。

(※レース後、トランクハイエストは骨折を発症していたことが判明しました。このせいで伸びが鈍り、スペースバイウェイに勝利を献上する形になった挙句、長期休養に追い込まれてしまいました。期待の良血でありながら不運が続く状況に、馬主さんは周りの人達にかなり当り散らしたそうです。)


 レース後、メロディーオブラヴ、ロマリアと共に厩舎に帰ってきたスペースバイウェイは、3歳馬4頭に『私だって勝てたんだから、あんた達にもできないわけはないわ。頑張ってきなさい!』とハッパをかけた。

 その甲斐もあってか、翌週トランクキャップが未勝利戦を勝利し、やっと1頭が勝ち抜けた。

 一方、ナイトオブファイアは惜しくも2着。トランクレッツゴーはシンガリの16着に敗れてしまった。

(ソーラーエクリプスは現在レースに向けて調整中。)

 残された3頭の焦りはますます大きくなったが、それでもスペースバイウェイはキャプテンらしく『きっと勝てるから、あきらめないで!』と彼らを鼓舞し続けていた。


 4歳7月の時点におけるスペースバイウェイの成績

 14戦3勝

 本賞金:1200万円

 総賞金:3190万円

 クラス:1000万下


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