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第16話 牧場を救った競走馬

 ここではアンダースローが主人公の馬となってストーリーが進行し、ある意味番外編に近い内容になっています。

 当初は1話の中で、前半がアンダースロー中心、後半がスペースバイウェイ中心になってストーリーが進行する予定でしたが、前半部分がかなり長くなったため、2つに分けました。


 スペースバイウェイは勝利を挙げられないまま、道脇牧場に戻ってきた。

 牧場では、主に井王君が面倒を見ていた。

 彼は疲れを取るということと、なるべく早く厩舎に戻すという相反する要素の中で、懸命に体調管理に努めた。

 そんな中で、もう一頭の所有馬であるアンダースローは、6月のジューンS(1600万下、東京、芝2400m)に出走した。

 直線が長いだけに有力馬が後ろに控える中、2枠2番のアンダースローは豊富なスタミナを活かす目的で先行策を取った。

 そして道中2番手につけた後、4コーナーで先頭に並び、最後の直線ですぐに先頭に踊り出た。

 有力馬が後ろから懸命に追い込んでくる中、アンダースローはクビ差で最後まで粘り切り、見事に勝利を挙げた。

 東京競馬場まで来ていた伸郎と長谷さんは飛び上がって喜び、愛馬の勝利を祝福した。

「やったーーっ!!これだけ稼げれば牧場経営も楽になるぞ!」

「良かったですね。これでアルゴンランプとアンダーラインを廃用にしなくてすみますね。」

「そうだな。資金面が心配だっただけに、今までどうしようか迷ったが、本当に良かった。」

「私もです。本当にほっとしました。」

 その気持ちは、牧場にいたケイ子と井王君も同じだった。

「このレースの勝利で1300万円あまりのお金が入ってくるのね。何だか夢見たいね。」

「ですね。しかも月が変わればまた同じクラスのレースに出られるわけですから、次のレースも期待したいですね。」

「そうね。勢いもありそうだし、勝ってくれれば本当に牧場を救った英雄になれるわね。」

「いつか報われる時を信じていれば、こういうこともあるもんですね。」

 この勝利は、これまで慢性的な資金難に苦しんできた牧場にとって、大きな希望になった。

(※アンダースローはこのレースを勝った時点ではオープンクラスに上がりましたが、翌月に1600万以下に降級になるため、事実上はクラスがそのままということになります。)


 この馬の勢いはその後も続いた。

 翌月、垂水S(1600万下、阪神、芝2000m)に13頭の中で唯一の関東馬として出走したアンダースローは、単勝3.3倍の1番人気に支持された。

 そして前走で2400mを粘り切ったスタミナをここでもいかんなく発揮し、見事1着でゴールインした。

「これで2連勝だ!また1300万円が手に入ったぞ!!」

「よし!完全アウェーの中で、1番人気に応えたぞ!!」

 伸郎は2連勝したことを、堂森調教師は関東馬が関西で勝てたことを心から喜んだ。

 彼らは記念撮影を終えた後、早速次走について話し合った。

「道脇さん、こちらとしては新潟記念(GⅢ、新潟、芝2000m))に出走させてみたいのですが、いかがでしょうか?」

「重賞ですか。僕としてはオープン特別で手堅くと考えていたのですが。」

「まあハンデ戦なので斤量を見てからになりますが、この勢いならば一気に3連勝で重賞制覇もできるのではないかと思うんです。それに…。」

「それに、何ですか?」

「うちの厩舎、新潟の芝2000mに相性がいいんですよ。出走すると、何故かよく勝てるんです。」

「何か根拠はあるんですか?」

「分かりません。こちらが教えてほしいくらいですが、でも、ひょっとしたら勝てるんじゃないかという気がするんです。ですから、ぜひとも出走したいと思っているのですが、どうでしょう?」

「堂森先生がその気でしたら、ぜひお願いします。1ヵ月後にまた会いましょう。」

「はい。楽しみにしていてください。」

 2人は話し合いが終わると、馬運車に乗って阪神競馬場を去っていくアンダースローを見届けた。

 そして伸郎はすぐに伊丹空港に向かっていき、飛行機で北海道に帰っていった。

 それから間もなく、疲れも取れたスペースバイウェイは美浦へと戻っていき、熾烈な残留争いを勝ち抜くために調整していくことになった。


 1ヶ月後、堂森調教師の言葉通り、アンダースローは新潟記念に出走した。

 レースは13頭立てで、坂江騎手が騎乗するアンダースローは1枠1番になった。

「よし!最短距離で行ける枠に入った。これはついているぞ!」

 堂森調教師は勝てそうな気配をありありと感じていた。

 一方、道脇牧場の4人は重賞ということもあり、初めて全員そろって競馬場にやってきた。

(牧場の仕事はケイ子がお世話になっている、近くの牧場の人に頼んできた。)

「あ~緊張するなあ。まさかうちの馬が重賞に出走するなんて。」

「私も。これで勝てたら本当に夢みたいな話よね。」

「そうよね。2連勝するだけでも驚きなのにねえ。」

 井王君、長谷さん、ケイ子の3人はこれまで経験したことのないような雰囲気を感じ取っていた。

 レースは9番のイントゥザバトルが1番人気、11番のユーアーザヒロインが2番人気になり、斤量53kgのアンダースローは3番人気だった。

 レースがスタートすると、好スタートを切ったアンダースローはそのまま先頭に立ち、逃げる形になった。

 2番手には3番のオークランドシティがつけ、4番のミラクルロッジが続いた。

 外からは12番のトランクミヤジマがまくるようにして前に出て行き、ミラクルロッジに並びかけていった。

 人気のイントゥザバトルとユーアーザヒロインは中段よりやや後ろに控え、4番人気の8番マシーンヴォイスは後方からの競馬となった。

「よし。まずは思い通りの展開だ。坂江君、このまま自分のペースに持ち込んでくれよ。」

 堂森調教師は腕を組みながら笑みを浮かべた。

 レースは先頭のアンダースローがオークランドシティ、ミラクルロッジ、トランクミヤジマを引きつけたまま逃げ続け、900mを超える長い向こう正面の直線を過ぎて3コーナーへと入っていった。

 一方、後方にいるイントゥザバトル、ユーアーザヒロイン、マシーンヴォイスは全く動く気配のないままコーナーに入った。

 どうやら最後の長い直線で勝負をかけるつもりのようだ。

 アンダースローは先頭をキープしたまま直線に姿を現した。

 坂江騎手はそれから間もなくスパートを開始し、逃げ切りに入った。

 それにつられるように、オークランドシティ、ミラクルロッジ、トランクミヤジマに乗っている騎手もスパートに入った。

 アンダースローはスタミナに物を言わせて逃げ続けた。

「くっ!このままではまずい!」

 イントゥザバトル鞍上の網走騎手は懸命にムチを入れ、後方から猛然と追い上げ体制に入った。

「そのまま行け!頑張れアンダースロー!」

「もう少しよ!最後まで粘りきって!」

「お願い!牧場の救世主になって!」

「あと300だ!抜かれるんじゃないぞ!」

 伸郎、ケイ子、長谷さん、井王君は懸命に叫んだ。

 イントゥザバトルは外から他馬をゴボウ抜きにしていき、どんどん順位を上げてきた。

 同じく後方にいたマシーンヴォイスは外に持ち出し、ユーアーザヒロインは内から馬群を割って他馬を交わしながら追い上げてきた。

 一方、2番手につけていたオークランドシティは懸命にアンダースローに食い下がり続けた。しかし、差はなかなか詰まらず、ゴールまでの距離だけがどんどん減り続けた。

 ミラクルロッジ、トランクミヤジマは残り200mを切った時点でバテて後退していき、1着争いから脱落してしまった。

『先頭はアンダースロー!まだ1馬身のリードを保っている!2番手オークランドシティもあきらめない!』

『外からはイントゥザバトルがやってきた!内からはマシーンヴォイス!』

『アンダースロー先頭!リードは1馬身!アンダースローだ!アンダースロー逃げ切るか!』

『アンダースロー、逃げ切った!ゴールイン!』

 結局アンダースローは最後まで1馬身のリードを保ったまま見事に逃げ切りに成功した。

 2、3着はイントゥザバトルとオークランドシティの写真判定に持ち越された。

(後に2着がイントゥザバトル、3着がオークランドシティで確定した。)

 4着はマシーンヴォイス。人気の一角であるユーアーザヒロインは6着になった。

 直線でバテたミラクルロッジとトランクミヤジマはそれぞれ9着、12着に沈んだ。

「キャーーーーッ!本当に勝ったわーーーっ!」

「信じられない!重賞初挑戦で勝つなんて!」

「まるで夢でも見ているみたい!」

「本当に牧場の救世主になったーーっ!」

 ケイ子、伸郎、長谷さん、井王君の4人は肩を組んで円陣を組みながら喜びを爆発させていた。

 一方、重賞の常連である坂江騎手は、ゴール後もガッツポーズ一つせず、冷静にアンダースローをクールダウンさせていた。

「皆さん、おめでとう!」

 堂森調教師は拍手をしながら伸郎達のもとに歩み寄ってきた。

「先生、ありがとうございます!おかげで重賞を勝つことができました!」

「これで予算を心配することなく牧場を経営していくことができます!」

 伸郎とケイ子は深々とお辞儀をしながらお礼を言った。

 このレースを勝ったことで、彼らはまだ見たこともない、3100万円あまりの大金が手に入るのだから、無理もないだろう。

「こちらこそ。皆さんの喜ぶ顔を見ることができて、こちらもうれしいです。」

 堂森調教師は、飛び上がって喜びたい気持ちを抑えながらそう言うと、道脇牧場の4人と握手をして回った。


 表彰式で伸郎は、牧場開設以来初めてとなる重賞制覇の喜びにすっかり浸っていた。

(これで新しい馬を買うお金もできた。良かった良かった。さあこの勢いで来週、スペースバイウェイも勝たせてあげられたらなあ…。)

 彼は大勢の観客を前にしながら、これからのことを考えていた。


 名前の由来コーナー その13


・ユーアーザヒロイン(You’re The Heroine)(メス)… 母が「メイビーユーキャン」だったことと、馬名に「ヒロイン」をつけたかったということで、この名前にしました。


・ミラクルロッジ(Miracle Lodge)(オス)… この馬は小説オリジナルの馬で、馬名は藤宮 歩先生から寄せられたものです。個人的には「ミラクル」という名前が出た時点で、直感でレベルの高いレースが合っていると思ったので、アンダースローが主人公であるこの場面で登場となりました。



(※イントゥザバトル、マシーンヴォイス、オークランドシティは、前作「インビジブルマン号物語」に登場した馬です。ここで登場させると時間的な矛盾が生じてしまいますが、前者の2頭は、今作の主人公馬がスーパースターソルジャーのBGM名ということにちなんで、ゲスト参加させることにしました。またオークランドシティは、ちょうどこの章の下書きを書いている時に、サッカーのクラブワールドカップの時期になったため、加えてみることにしました。)


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