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第13話 4月の出来事

 4月。星厩舎には2歳馬が4頭入厩してきた。

 名前はそれぞれ「トランクハイエスト(オス)」、「トランクレッツゴー(メス)」、「ナイトオブファイア(オス)」、「ソーラーエクリプス(オス)」だった。

 現在厩舎に在籍している馬のうち、7歳馬のホーソンフォレストは2勝目を挙げることができないままとうとう引退になり、4歳馬のウェーブマシンは脚部不安が治らないため、厩舎に戻れずにいた。

 事実上、厩舎にいる馬が3歳の4頭だけの状態になっていただけに、新しい馬の入厩は星調教師にとって嬉しいことだった。

 ただ、彼には一つ悔やまれることもあった。

(確かに2歳馬を4頭獲得できたのは嬉しいが、トランクバークを所有していた木野さん(木野牧場のオーナー、木野求次)が去年セリで買った馬「インビジブルマン」を獲得したかったなあ。まあ、本人が「新しい人脈もほしいから今回はインビジブルマンを別の厩舎に預けたい。星さんのところにはトランクバークの仔を預けるつもりだから、2年間待ってほしい。」と言ってきては、どうしようもないが…。)

 1頭でもたくさんの馬を獲得したかった彼にとって、インビジブルマンが来なかったことは残念だった。

 しかし彼はすぐに気持ちを入れ替え、村重君、スクーグさん、久矢君の3人に早速調教を依頼した。

 さらに時を同じくして厩舎に新しい厩務員が一人入ってきたため、星調教師は早速その人に、馬の世話をお願いした。

(※新しく入ってきた厩務員はとりあえずエキストラ扱いのため、名前やセリフは無しにしておきます。)


 ある日、仕事を終えて寮に戻ってきたスクーグさんは、早速パソコンを開いてメールの受信フォルダをチェックした。

 そこにはアーロンから1通の新着メールが来ていた。

 彼女がメールを開くと、そこには次のようなメッセージが書かれていた。


 Hello, Saki. What’s up?

 You’ve been training a lot of horses recently, haven’t you?

 That’s very good for you!

 You seem to be spending happy days because your voice sounds lively when we’re talking on the phone.

 You could be busy, but remember it’s called “business” therefore.

 You should be thankful someone needs you.

 Sakura and I are reading books written about racehorses now to acquire more knowledge.

 I hope we’ll assist you and your colleagues more.

 If you need any helps, please do not hesitate to talk.

 Good luck.


 P.S. How about the relationship of you and Hiromichi?


(訳)(※メールには書かれていません。)

 ハロー、咲。調子はどうだ?

 最近たくさんの馬達を調教しているって?

 とてもいいことだな!

 電話している時の声も元気になったし、ハッピーな日々を過ごしているようだな。

 忙しいかもしれないが、だからこそ「ビジネス」なんだということを覚えておきなさい。

 それに、他人から必要とされることに感謝することを忘れずにな。

 今、桜と僕は競走馬に関する本を読んで、馬に関する知識を身につけている。

 今よりさらに君と君の同僚達の助けになりたいからな。

 何か困りごとがあったら遠慮なく話してくれ。

 幸運を祈っているぞ。


 P.S. お前とヒロミチ君の関係はどうだ?



 咲さんはメールを一通り読むと、最後の一行を見て

「C, Come on! What do you think you’re askin’ me!(ちょ、ちょっと!私に一体何を問いかけてるのよ!)」

 と、少し顔を赤らめながら叫んだ。

(余談だが、彼女は久矢君とヨリを戻して以来、すっかり仲良くなった。そして今では手をつなぐこともできるような関係になっていた。)

 彼女はその一行を隠して残りの行を繰り返し読み、返事として何を書こうか考え始めた。

 するとその時、急に電話が鳴り出した。

 彼女ははっとして受話器を取った。

「もしもし。」

『もしもし、桜よ。』

「あっ、お母さん。元気?」

『元気よ。そちらは4月にもかかわらず寒いようだけれど、元気で馬の調教をこなしているようね。』

「うん。今ではすっかり私の調教の腕前がみんなに認められたわ。スペースバイウェイを懸命に鍛えて、3着に入ってくれたことが効いたみたい。」

『そのスペースバイウェイは元気なの?』

「少し前までは元気だったんだけれど、体調を崩して熱を出してしまったわ。悔しいけれど、また調整し直しよ!」

 咲さんは不満気に話した。

『こら、咲!調整し直すのではないの。また調整し直せるって考えなさい!アーロンならきっとそう言うはずよ!』

「そうね。お父さんの言っていたことを厩舎の人達に言ってから、みんな『やり直すのではない。やり直せるんだ!』って考えるようになってくれたのに、私がそんな風に考えちゃいけないわね。」

『そうよ。それにしても、アーロンも言っていたけれど、あんた明るい口調で話すようになったわね。』

「うん。厩舎のみんなから信頼されるようになったし、3歳馬の4頭も今ではみんな仲良しよ。スペースバイウェイはすっかりカヤノキと仲が良くなって、調教ではお互い一緒に走りたがるようになったの。」

『それは良かったわね。それで、スペースバイウェイはカヤノキを追い越せるようになったの?』

「全然よ。カヤノキは今年1月に1番人気で未勝利戦を勝ち上がった馬だから、現段階ではとても勝てるような存在ではないわ。でも、きっと追い越せるようになりたいっていう気持ちがわいてきたみたい。だから、きっと勝てると信じているわ。」

 彼女は続け様に、他の3歳馬の近況についても話した。

 ヘクターノアは元々俊足な一面を持っているだけに、気性難さえ解決できればトランクバークのようにオープンクラスに入れそうな期待を抱かせてくれる存在だった。

 オーバーアゲインは対照的に、気性が二重マルだが根性がなく、しかも鈍足のため、残った要素はスタミナしかなかった。

 そこで陣営はスタミナを徹底的に鍛えて、長距離のレースで勝負する手段に打って出た。

 さらには、次のレースからシャドーロールをつけさせ、下を気にするクセを矯正することも決めた。

 4頭の中で真っ先に勝利を挙げていたカヤノキは、休み明けとなった3月末の500万下で7着となり、2勝目はならなかった。

 しかしこの馬が実力を発揮するのは一度レースに使ってからということを見抜いていたため、陣営に悲壮感はなかった。

 そして次のレース実力を出し切れば、十分に2勝目を挙げられるという手応えを感じ取っていた。

『その4頭がみんな勝利を挙げられるといいわね。』

「うん。未勝利戦がある9月末までに、きっと全員を勝たせるつもりよ。そのためにも頑張るわね。」

『頑張ってね。じゃあ、長電話になったから、そろそろ電話を切るわね。』

「はあい。お母さんも元気に頑張ってね。」

 咲はそう言うと、受話器を耳から離し、電話を切った。


 その後、3歳馬の4頭は4月にぞろぞろとレースに出走した。

 結果は次の通りだった。

 ヘクターノア… 500万下 1着(14頭立て)

 カヤノキ… 500万下 1着(13頭立て)

 オーバーアゲイン… 未勝利戦 6着(14頭立て)


 ヘクターノアは追い込み策が見事に決まり、カヤノキは一度レースに使ったことが功を奏して、続けざまに2勝目を飾った。

 オーバーアゲインは1800mのレースに出走したが、これではまだ距離が足りないということになり、次はさらに距離の長いレースに出走することになった。


 そしてスペースバイウェイは3歳馬4頭のトリとして、未勝利戦(中山、ダート1200m)に出走した。

 単勝倍率は39.1倍で、相変わらずの最低人気(9頭立て)だった。

 しかし坂江騎手は本気で勝たせる気になっていた。

 レースはゴール前でトランクパレード、ローマンオリンピア、ライジングホースの3頭で大接戦になった。

「行けーーー!!今度こそ勝て!!」

 ライジングホースの馬主であるにしき 里谷さとやは思わず大声で叫んだ。

 3頭は並んだままゴール板を駆け抜けていった。

「また写真判定か…。頼むぞ…。今度は1着のところに6出てくれ、6!」

 里谷は前回勝ったと思いながらハナ差で破れた、苦い経験を振り切ろうと、必死に愛馬の勝利を願った。

 彼の近くではトランクパレード、ローマンオリンピアの関係者が、やはり愛馬の勝利を必死に願っていた。

 数分後、掲示板に出てきた数字は、1着が6。2着が7。3着が4だった。

 結果、ライジングホースが待望の初勝利を挙げ、トランクパレードが2戦連続の2着、ローマンオリンピアが3着になった。

「よっしゃーーっ!!未勝利を脱出したぞーーー!!イェーーーイ!!」

 里谷は周りに大勢の人達がいるにも関わらず、思わず大声で叫んだ。

 そしてレースが確定し、ウィナーズサークルで記念撮影になると、彼は両手でピースサインをしながら、愛馬と調教師と一緒に記念写真におさまった。

 その一方で、スペースバイウェイの2番は5着のところに数字が点灯した。

 結局今回も勝つことができず、賞金は50万円しか稼げなかった。

 1着からの着差は8馬身も開いてしまったため、この馬にとって勝利はまだまだ遠い存在だった。

 しかし未勝利戦は9月末で終わってしまうだけに、陣営はこれからスペースバイウェイをどのように鍛えればいいのか、試行錯誤する毎日が続いた。

 未勝利戦がなくなるまで、あと5ヶ月…。


 3歳4月の時点におけるスペースバイウェイの成績

 5戦0勝

 本賞金:0円

 総賞金:180万円

 クラス:未勝利



追記

 現実の競馬では勝利が挙げられないまま未勝利戦がなくなっても、3歳以上500万下のレースに出走してくるケースがあります。

 しかし、この作品はゲームに沿って書いているため、未勝利戦がある3歳9月までに1勝も挙げられなかった馬は、どんなに素質がある馬でも強制的に引退になるという設定にしてあります。

 あらかじめご了承ください。

 なお、現実の競馬で未勝利の馬が500万下のレースに出る場合は、裏開催しか出走できない上に、フルゲートを超過すると優先的に除外されるため、出るだけでも大変です。

 まして、格上の馬達を相手に勝ち上がるのはかなり大変です。

 ですから多くの馬達にとって、未勝利戦がなくなった時が競走馬としての戦力外通告の時だと考えられます。


 名前の由来コーナー その10


・トランクハイエスト(Trunk Highest)(オス)… 「トランク」は冠名。「ハイエスト」は父が「Highest Honor」だったことに由来しています。セリでは5100万円で落札した馬で、この作品掲載時点で最高額になります(自家生産馬を除く)。


・トランクレッツゴー(Trunk Let’s Go)(メス)… 「トランク」は冠名。「レッツゴー」は母が「サンサンゴーゴー」だったため、「ゴー」を使おうとしてこの名前に決めました。


・ナイトオブファイア(Night of Fire)(オス)… 「NIKO」の歌う「Night of Fire」という歌から取りました。長州小力がパラパラを踊っていた時に流れた曲と言えば、分かりやすいのではないかと思います。


・ソーラーエクリプス(Solar Eclipse)(オス)… 意味は「日食」です。「ダイヤモンドリング」にあやかって命名しました。参考までに月食は「Lunar Eclipse」、皆既日食は「Total Solar Eclipse」、部分日食は「Partial Solar Eclipse」、金環日食は「Annular Solar Eclipse」と言います。


・ローマンオリンピア(Roman Olympia)(メス)… 母が「ローマンホリデー」だったので、ローマに関する名前をつけることにしました。


・錦 里谷… ある読者の人をライジングホースの馬主として、作中に出演させるにあたり、本人から名前を募集しました。その結果、この名前が寄せられました。


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