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アルツハイク  作者: トレト
第一章 
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第二話 動き出す運命

 ウォット兵がガンドの顔を貫こうと槍を突き立てる。しかし、ガンドは仰け反るようにそれを避け、両足でウォット兵の頭を掴みながらそのまま地面へと激突させる。砕けるような音が聞こえたが、ガンドは気にしない。

 休む暇も無く攻撃は続けられる。剣を振り下ろそうとしているウォット兵の両腕をサーベルで斬り抜き、相手が気付かぬ間に首を掻っ切る。噴水のように噴き出す血が顔にかかり、それを腕で拭う。

 

 戦況はアドウ国が優勢だった。

 第一班は十二分に役目を果たし、見事にウォット兵たちをかく乱した。後は、第二班の成功を待つだけだ。

 ガンドは敵を引き付けるため、徐々に後退しながら戦う。ウォット兵たちは自分たちが本陣から離されていることに気付かない。


(よし、これで――)


 自軍の勝利を確信した時、後方で凄まじい爆発音が聞こえた。


「!!」


 反射で後ろを振り向いたガンドの目に映ったのは、黒い鎧に守られた長身の男。その男が詠唱を唱え、魔術をアドウ兵に放とうとしていたところだった。

 男がかざした手に刻印が浮かび上がり、妖しく光る。


「っ待て!」


 ガンドが男を止めようとしたときにはもう遅かった。男が詠唱を唱え終わると、アドウ兵たちがいる場所の地面が崩れ始める。

 割れた地面から黒い炎が溢れだし、アドウ兵たちの身を焼いていく。

 もがき、苦しみながら絶叫を上げているその様子は、まさに地獄絵図だった。


「フッ!!」


 男の頭を狙い、二本のサーベルで斬り落とそうとする。しかし、その二撃はいとも簡単に防がれた。

 互いの剣が交差し、金属音を鳴らす。

 ガンドは仲間を殺されたことによる怒りで男を睨みつけたが、男はその逆の顔をしていた。目を見開き、涙を浮かべ、口を開けている。

 その顔に、ガンドは顔をしかめた。


(……何だ?)


「やっと会えました……! 我が主よ!!」


 男はそう言うとガンドの前にひざまずく。そして手にしていた剣の刃を自分に向け、柄をガンドに向ける。

 これは主君に対しての忠誠を表す行為。その行為を見知らぬ男に突然され、ガンドは戸惑っていた。


「……どういう意味だ? 貴様の事など俺は知らん。貴様、ウォット兵ではないのか?」


「とんでもない! 私が忠誠を誓うのは貴方様だけ……! 他の誰にも誓いませぬ。これは貴方様のお父上による御所望でもあるのですから」


 ガンドはお父上という言葉に反応する。


「俺の……父親……?」


「はい。本来、私の主はお父上のルーベルト様なのですが、ルーベルト様は亡くなられました。没される前にルーベルト様が私に下した命令が貴方への忠誠なのです。……ここではゆっくりと話も出来ない。一緒に来てくれませぬか、我が主よ」


 男は立ち上がり、手を差し伸べる。その顔は厳しく、有無を言わせないと言っているかのようだ。

 だが、ガンドはそれに従わない。

 

「……今は戦時中だ。お前の話を聞く時間は無い。消えてくれ」


 ガンドはサーベルを構え、戦地に戻ろうとする。

 その行動は、男の神経を逆撫でした。

 

「真実を知りたくはないのか!!」


 自分に従わないガンドを見て、男は主従関係を忘れ激昂した。

 男が本当に主だと思っているのはルーベルトのみ。まだ、ガンドの全てを認めているわけではない。

 父が最期まで息子の身を想い、真実を伝えようとしたのに、息子は話を聞こうともしない。

 それに、男は憤りを感じたのだ。


「……知りたいと思わない」


「!?」


 予想していなかった答えに、男は驚く。自分の生き別れた父親の事を知りたいというのは当たり前だと思っていたのだ。

 落胆している男を横目で見て、ガンドは走り出す。

 男に追いかける気力は無かった。

 だが、諦めたわけではない。ルーベルトから受け継いだ意思を、息子のガンドに託し、悲願を果たす。

 それだけのために今まで生きてきた。此処で終わらせるわけにはいかない。


「必ず、復讐を遂げて見せます。……我が主よ」


 その声は、力強く聞こえた。




    





 戦地に戻ると第二班が敵本陣と交戦していた。

 遠くから見る限り、アドウ国が若干不利に見える。

 ガンドは先ほどの事に気を取られていた。男にはああ言ったが、本当は知りたい。自分の父親がどういう人物なのか、何故一緒に暮らせなかったのか、聞きたいことは山ほどある。

 自分から真実を知るチャンスを蹴ったというのに、ガンドの中は知りたい、という気持ちで染まっていく。

 しかし、そんなことを戦場で考えていけない。

 ガンドは思いを振り払い、助力の為に駆け出す。


「神を統べる大帝の武具、その槍を雷に変え敵を貫け!」


 疾走しながらガンドは魔術の詠唱をする。

 空中に魔方陣が浮かび、青い雷がそこから生み出されていく。

 アドウ兵を避けながら宙を走り、敵を貫く。貫かれた体は焦げ、炭のように崩れ去る。

 ガンドが放った魔術で大半のウォット兵が死に、戦局はいっきにアドウ国側に傾いた。


「ガンド!! 生きてたか!!」

 

 声が聞こえた方向を見ればそこにいたのはザルディオ。目立つ傷は無く、笑顔で呼びかけてくるザルディオを見て、ガンドは嬉しくなる。

 戦友が生き延びている。それがたまらなく嬉しかったのだ。


「……お前もな!」


 二人は再会できたことを喜び、拳と拳を合わせる。この動作は友に対する挨拶だ。

 だが、まだ戦いは続いている。

 四人のウォット兵が叫びながら斬りかかり、二人は二手に分かれた。


「おおおぉぉ!!」


 一人のウォット兵が剣を振り下し、ザルディオの髪をかすめる。だが、ザルディオは剣を振り下した直後の、体が止まる瞬間にタイミングを合わせ、ウォット兵の腹部に剣を突き刺す。

 剣が沈むような感覚を右手で感じ、すぐに剣を抜く。

 仲間の陰に隠れ、青い目を光らせるザルディオに怯んだもう一人の敵に素早く詰め寄り、股関節から頭頂部までを斬り裂いた。

 

 全身に血を浴びたザルディオはガンドの方を見る。そこにはザルディオと同じく鎧を血で染めているガンドがおり、その様子からガンドも二人の敵兵を殺し終えたようだ。


「無事か?」


 ザルディオがガンドに問いかける。ガンドは笑みを浮かべながら頷いた。

 笑みを浮かべているガンドを見て、ザルディオも笑う。


「よし! 後は敵の後退を待つだけだ。この勝負、俺達の勝ちだな!」


 ザルディオが言うとおり、この戦いはウォット国の後退によりアドウ国の勝利で終わった。

 負けることが少なくなり、勝利が続く状態に兵士たちは有頂天になる。

 ザルディオも喜び、勝利の帰路を辿っていたが、ガンドはそうじゃなかった。

 自分を知り、父も知る男の出現。それが気になっていたのだ。

 男の事を考えると、自然に顔が曇る。


「な~に辛気臭い顔してんだ! 勝ったんだぜ、俺ら。これでウォット国は完璧にアドウより下だ。これで外政もやりやすくなる!」


 勝利に酔いしれ、楽しそうに喋るザルディオ。


「お前ももっと楽しそうにしろよ!」


「…………ああ、そうだな!」


 ザルディオのその言葉に、ガンドは男について考えるのを止め、今一時だけはこの勝利に酔おうと決めた。

 

























 




















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