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104

作者: きむら


携帯電話の番号が11桁になったのとほぼ同じ頃、

僕は電話番号を暗記しなくなった。


暗記していた頃は、番号の数字に適当な語呂を合わせて覚えたものだ、

でも11桁ともなるとその語呂さえ覚えられなくなってしまった。


そして今、僕は携帯の発信履歴を見ている。

取引先に電話をかける為だ。


履歴には仕事関係の番号ばかりが並ぶ。

最近誰とも連絡を取っていない。

少しネガティブになりながら、番号を選択する。

0743396146ツーツー…という呼び出し音を聞きながら

ディスプレイの番号に語呂を合わせる

(オナジミサ、クロイシロ)どっちやねん…。


カチャという音の後、女性が電話に出た。

『ハイ、104の大島です』104…?

「ああれ?すいません間違えました」慌てて電話を切る、なぜ?


もう一度発信履歴を見る。


0743396146㈲アルマジロ物流


当然合っている、釈然としないままもう一度発信ボタンを押す。


『ハイ、104の大島です』今度はコール無しで繋がった。

「あれ? …104ですか?」

『ハイ104の大島です』快活な女性のようだ。

「僕は0743396146にかけてるんです」

「先程の方ですか? 申し訳ありません、こちらは104になっております、もう一度番号をお確かめのうえでご利用…いえ、お電話をおかけになってはいかがでしょうか』優しい声だ。

「そ、そうですよね、申し訳ない、かけ直します」


携帯が壊れたのかもしれない、

リダイアルではなく番号を指で打ってみた。


オナジミサ、クロイシロっと。


ツーツー…カチャ『ハイ、104の大島です』

「あっつ、すいません」

『あれ? 駄目ですか?』

「はぁ、なんででしょう?」そんな事、彼女にわかるはずもない。

『そうですねぇなんででしょう?』質問に質問が返ってきた、当然である。

「どうしよ、あ、じゃ住所、住所言いますから番号を教えてください。」

僕は大島さんに悪いと思い、アルマジロの住所を伝えてサービスを受ける事にした。

『はい、それではお伝えします、アルマジロ物流ですね?ご利用ありがとうございました、104大島がお受けしました』優しい大島さんの声のあと

ガイダンスが流れ、アルマジロの電話番号が聞こえてきた。


ゼロ・ナナ・ヨン・サン・サン・キュウ・ロク・イチ・ヨン・ロク。オキャクサマノ…繰り返し。


オナジミサ、クロイシロ。合っている、当たり前だ、僕は何を再確認しているんだ。


たぶんまた繋がるであろうリダイアルを押す。


『ハイ、104の大島です』

「あ、僕です、合ってました。番号」

『あ、よかった、それをわざわざ?』

「あ、いや、じゃなくて番号は合ってたんですが、その番号にかけたらまた大島さんなんです」

『そんなことって…』

「ね、ほんとどうしたらいいんでしょ」


しばらくの無言が受話器から流れる。


『そうだ!(半オクターブ声が上ずる)お伝えする番号をこちらでそのままお繋ぎ出来るんです、別料金がいりますけど、それならどうですか?』

「あ、そういうのありましたね! そうだそうしてください」

『わかりました、それではお伝えします(カチャカチャとキーボードを叩く音が聞こえる)アルマジロ物流ですね? 何度もご利用ありがとうございました、104大島がお伝えしました、それでは。』ガイダンスが流れ、そのまま呼び出し音が聞こえた。


カチャ『ハイ、104の大島です』


「……、大島さん?」

『え、ウソ、なんでですか?』それはこっちが聞きたい。

「冗談とかで繋いでます?」

『まさか、かけてこられているのはお客様の方ですよ、

お客様の方こそ何かの冗談なんじゃ?』

「いや、これを繋いだのは大島さんですし……。」


しばしの沈黙のあと、クスクスと受話器から声を殺した笑い声が聞こえてきた、僕もつられて笑った、こちらは結構大きな声をだして。


「あの、もう一回繋いでもらっていいですか? 住所も名前もさっきのままで」

『いいんですか? また私が出ちゃっても料金が発生しちゃいますよ?』

「いいんだ、だってこっちでかけても大島さんにしか繋がらないんだから」

『はい、じゃあお繋ぎしますね』優しい声の大島さんの微笑んでいる顔が頭を過ぎる。ガイダンスのあと呼び出し音が鳴る。


ツーツーツーツー、カチャ。電話の相手は静かだ。


アレ?


「あの、そちらは?」


『クスクス私です、104の大島です、やっぱりかかっちゃいましたね、私のところに。』気のせいかその声は嬉しそうにも聞こえる。

「あぁそのようですね、嬉しいやら哀しいやらです」

微笑む大島さんの優しい顔を想像しながら、

僕はその時アホなことを思い浮かべたのだ。


「あの、調べて欲しい番号があるんですが」

『アルマジロ以外にですか?』アルマジロ呼ばわりになっている。

「そうなんです、違う番号なら繋がるんじゃないかって」

『あ! そうですね! それならこの104ループから出られるかもしれませんね!』

「そ、そうなんです、じゃあ言いますね(僕は自分の胸の鼓動が早くなるのを感じる)あの、その、104の大島さんをお願いしたいんですが。。。」


『え……』受話器からは永遠のような沈黙が流れる、僕は後悔と希望の唾をゴクリと飲み込んでその永遠を待った。


『104の大島ですね……、お伝えします。(やった!)ご利用ありがとうございました、お客様がお尋ねの番号は(ガイダンスではなく、大島さん本人がしゃべっている)ゼロ・キュウ・ゼロ・サン・ニィ・ヨン・ハチ・ニィ・ゴォ・ナナ・・・デス。』カチャ電話はそのまま向こうから切れた、さすがに繰り返すのが恥ずかしかったのだろう。


ドキドキドキ…。電話は切れたのに鼓動はまだ早まるいっぽうで、受話器を握る手にはじっとりと汗が滲む。そして少し落ち着いてきたところで僕ははっと我に返る。


ゼロキュウゼロ・サン・ニィ・・・サンニィ?????!!

必死に大島さんが読み上げてくれた抑揚のないガイダンス風番号を思い出そうとしたが、自分の鼓動の早まりによる血流の増加が、脳内の活動を圧迫しまくって、いわゆる頭がまっしろ、そう「フリーズ」した。


わからない、考えてもわからない、恥ずかしいがもう一度聞いてみよう。

一度教えてくれたのだ、今度はもう少し冷静に聞けるはずだ。


そして僕はリダイアルを押す。


ツーツー…カチャ『アイ、アルマジロ物流』いやな汗が受話器を滲ます。

酒焼けした社長のだみ声が続けて受話器から聞こえた。


『なんや?誰や?』……。

『オイ、誰やゆうてんねん!』僕は何も言えず電話を切った。


携帯電話の番号が11桁になったのとほぼ同じ頃、

僕は電話番号を暗記できなくなっていた。


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