領地改革に向けて。
視察を終えて邸に戻ると、すぐさま南の領地の改革について考え始めた。
一ヶ月回ってみてわかったことは、作物は育ちにくいかもしれないけど、全く育たないわけではなさそうということだ。
家が建っている辺りは拓けているところが多く、やせ細っていたのだが、それ以外の場所はそこまででもなかった。
恐らく、同じ場所で畑を作っているから、土に栄養が届かなくなってしまっているのだろう。
「連作障害と栄養不足ね……。」
フローライト領でも、一時期同じような状態になっていた。
そうならないようにするために、時期ごとに植える野菜を変えたり、土に栄養が行くように肥料を作ったり、米ぬか、あとは貝殻などを集めて石灰を撒いた。
初めは土に何かを撒くという習慣がなかったから、皆眉をひそめていたし、不平不満を漏らす者もいたくらいだ。
今では文句ひとつ言わず動いてくれるようになったが、結果が出るまではお父様やお兄様たちも疑心暗鬼だったし、そこまでたどり着くのに一年はかかったはずだ。
出来ればこの地域で田んぼでも耕せればいいと思っていたけど、それは難しそうだから別の何かを考えなくてはならない。
それに、いくら土地の状態を戻せたとしても、それ以外の何かを考えなければ、国王陛下との約束の時間はあっという間に来てしまう。
「もたもたしている時間はないわね……」
まずは何からやるかを考えていると、お兄様たちが執務室に入ってきた。
「どうだ? 何かいい案は浮かんだか?」
「そうですね。三つほど……でしょうか。一つは時間がかかるので、今すぐにとは難しいですが、二つは商品化できれば何とかって感じです。それに、子供や老人でも収穫できると思いますし、収入源にはなるかと。」
土地を回っていて気づいたのが、もう一つ。
陽が当たりやすく、気温も常に暖かい地域だからか、ある物が自生していた。
これは村の人たちに話を聞いてわかったことだが、実ができるから食べられるかと思ったものの、苦すぎたり、酸味が効きすぎたりして食べられなかったらしい。
実際に実を見せてもらうと……それはテレビで何度か見たことがあった、コーヒー豆とカカオ豆だった。
コーヒー豆は焙煎が必要になってくるし、カカオも発酵作業などが必要になってくる。
しかし、発酵作業については既に醤油や味噌で実践済みだし、コーヒーも焙煎さえうまくいけば何とかなると思っている。
「そのためには早めにトンネルを完成させたいところですね。そうすることで、収穫したものを腐らせずに運び出すことができます。今の状態では、いくら頑張って収穫したとしても、運搬の間にダメになってしまう可能性が高い。それは勿体ないことですし、皆が汗水たらして作ったものをお粗末にはしたくないです。」
山に穴を掘ってトンネルを作るという発想がなかった国にとって、どうなるのかは未知の領域だ。
しかし、これが上手くいけば他の地でも作れるし、一大事業となるだろう。
さらに、トロッコなどで荷物が運べるようになれば画期的だと思う。
勿論、馬車でもいいのだけど……。
前世は電車が走っていたし、トラックがあったから今よりも運搬がスムーズだったけど……トラックや電車なんて夢のまた夢のような話だ。
「いや、電車は無理でも機関車は作れるかもしれない……?」
機関車は結構歴史でも早いうちからできていたし、もしかしたら可能なのだろうか……?
機関車ができれば……フローライト領とスフェレライト領を繋げて、お味噌やお醤油などの生産もアップするし、それ以外にも作れるものが増えるんじゃないだろうか。
それに、全然会えていないフレデリクお兄様にもすぐ会えるようになる。
「……おい……おい!! ジェラルディーナ! 聞こえているのか?!」
「はっ! ラルフお兄様。申し訳ございません。色々考えていたら集中してしまっていました。」
ラルフお兄様に肩を叩かれるまで、お兄様たちの会話が全く入っていなかった。
「ったく……お前は昔から変わらないな。集中するといつもそうだ。それで、トンネルだったか? まずそれを作るにしたって人手がいるだろう? 同時進行で他のこともできるのか?」
トンネルを作るには男手が必要だし、特に力仕事が得意な人を探さなければならない。
収入源さえあれば、若い男の人たちが帰ってきてくれると思うのだけど……。
「はい。できなくはないです! ただそのためには、力仕事が得意な人たち……出稼ぎに行っている人たちに帰ってきてもらう必要があります……」
カカオの木とコーヒーの木について三人に詳しく話すのと同時に、やせた土地を再生させる方法を話していく。
商品化して売り出せば収入も入ってくるし、生活も落ち着いてくるのではないかと伝えた。
「わかった。トンネルについては、ここが上手くいけば他の地でも試せるようになるし、格段と移動もしやすくなるだろう。こちらについては国から予算を出せるよう国王陛下に話を通すから、俺に預けてくれ。フィリベール。話を聞いたとき楽しそうだったからな。お前に頼んでいいか?」
エリーがフィリベール様に資料作成などをお願いすると、フィリベール様は嬉々とした顔で執務室から出て行った。
仕事人間というよりも、興味があることはとことんやるといった感じなのだろうか。
これなら機関車にも興味を持ってもらえるのではないかと、落ち着いたら話してみようと心に決める。
「ラルフ。お前はディーナのことを手伝ってやってくれ。俺はフィリベールと一緒に王都に一度帰って来る。」
「わかった。俺はカカオとコーヒーだったか? それについて話を固めよう。それに、やせた土地を復活させるのはフローライト領でも身をもって体験しているからな。領民たちを納得させられるよう、ディーナと話し合う。」
さっと自分の考えを伝えただけだったが、あっという間に話はまとまり、各々動き出したのだった。




