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帰城。

スフェレライト領を出発して、王都に着いたのは日が沈み始めた時間だった。


いつもだったらもう少し早く着くのだが、今回はカイトスとアルナイルを連れていた分、いつもより時間がかかったようだ。


「ディーナ達は明日登城してくれ。俺だけ先に行っている」


カイとアルの頭を軽く撫でると、俺はその足で王宮へと帰城した。


***


「お早いお帰りですね。エリオット殿下」


この時間だし、俺の部下もほとんど残っていないだろう……と思っていたのだが、自室に戻ると仁王立ちで二人の男が立っていた。


「ラ、ラルフリードに、フィリベール……か、帰ったのではなかったのか?」


「えぇ。エリオット殿下には言わなくてはならないことが沢山ありましたので。いやぁ、一年ぶりですね。お元気そうで何よりですよ」


フィリベールが眼鏡越しにこちらを睨んでいるのがわかる。


これはかなり怒っているな……。


「そ、そうだな。一年ぶりだな。それでも仕事はきちんとこなしていたはずなんだがな……ハハハ……」


「……。」


無言でこちらを睨んでくる姿が、本当に怖い……。


「それで? 大体はラルフから話を聞いていますが、今まで帰れなかった理由を説明してくださいますか?」


小さい声で謝ると、「謝罪の言葉ではなく理由を聞いているんです」とドスの効いた声で話してくる。


フィリベール・ホワイトベリル。


ホワイトベリル侯爵家の次男で、俺の側近として働いてくれているフィリベールだ。


ラルフリードを兄というなら、フィリベールは親友とかそんな感じだろうか。


誠実で聡明な男だが、融通が効かないのが難点だったりする。


「フィリベール。そろそろ許してやってくれ。一応、仕事はしていたんだし……」


フィリベールの気迫に押されていると、ラルフが助け舟を出してくれた。


フィリベールもラルフの事は兄のように慕っているからか、「仕方ありませんね……」と言って、自分の席に戻っていく。


「ラルフ。恩に着る」


「いいですよ。ジェラルディーナの為でもあったんでしょ? それに、母から聞いていますから。カイとアルにパパと呼ばせようと必死だったって。本当に気が早いんですから。一応、ジェラルディーナは人妻なんです。少しは弁えて下さいよ」


昔からラルフとフレデリクには敵わない。


フローライト夫人がずっと領地に残っていてくれたのは、俺が居たからということもあるのだろう。


俺とジェラルディーナの間で変な噂が立たないように、見張っていてくれたという訳だ。


半分くらいはカイトスとアルナイルといたかっただけな気もするが……。


「はは……全てお見通しというわけか」


今の俺の言葉も聞こえていた筈なのに、聞こえないふりをしているのだから、それが答えと思っていいという事だ。


「ラルフ。フィリベール。お前らまだ時間はあるか? 国王陛下の元に行ってくるから、帰ってくるまで待っていて欲しいんだが」


二人は元からそのつもりだった様で、「早く行ってこい」と虫でも追い払うように手をシッシッと振っている。


そんな二人を横目に、俺は急いで父上の元へ向かった。


父上は基本、執務室にいるか、謁見の間にいることが多い。


今の時間であれば、日も暮れているし執務室にいる可能性が高いだろう。


執務室の前に行くと、警備兵が二人立っている。


どうやらビンゴだったようだ。


警備兵が俺の顔を見ると吃驚していたが、理解をしたのか扉の前から避けてくれた。


「父上、エリオットです。入ってもよろしいでしょうか?」


「ん? エリオットか。入ってこい」


執務室の扉を開いて中に入ると、父上とフィリベールの父であり宰相のホワイトベリル侯爵、それに法務局長のフローライト伯爵が集まっていた。


「すみません。話の途中でしたか?」


「いや、構わん。どうせお前にも話さなくてはならない内容だ」


俺に話さなくてはならない内容……。


と、言う事は印章もしくはオディロンについてか……。


「私に話さなければならない内容ということは、スフェレライトの事でなにか話が進んだということでしょうか」


「まぁ、そういう事だな……」


父上に座るように促された俺は、空いているソファに腰を下ろした。


ホワイトベリル侯爵とフローライト伯爵が資料をテーブルに出していく。


どうやら説明してくれるらしい。


「まずはスフェレライト領の件から話していこう」


父上がホワイトベリル侯爵に話すよう伝えると、ホワイトベリル侯爵がひとつ頷いてから話し出した。


「ジェラルディーナが発案したフォーマットを使うようになってから、スフェレライトの事であることが分かった」


殆どの地域では税金が支払えるほど、小麦や野菜の収穫率がいいらしい。


だが、ある地域では、なんとか税金を払ってはいるものの、収穫率を見る限りギリギリの生活を送っている地域があるらしいということだった。


「今回はジェラルディーナを呼んだのはこの件もある。領民にも豊かな生活を送って欲しいと言うのが私の考えだ。その為にもこの地域を視察し、改革を行って欲しい。それが上手く行けば、ジェラルディーナを領主代理として認め、印章も新たに登録しなおそうと思っている」


父上の言うことも一理あるが、改革を行うまではオディロンが持っている印章に効力があるということだろうか。


そうなってくると……あいつがなにかしてくる可能性が高い。


「改革については理解しました。しかし、それまではオディロンが持って行ってしまった印章が効力を発揮するということですよね!? そうなってくると……」


「うむ。それについては明日、ジェラルディーナがどういう返事をするかによって話そうでは無いか。お前が言いたいこともわかるが、ジェラルディーナの事を認めているなら、明日の返事を待ってからでもよかろう」


父上もジェラルディーナがどんな返事をするのか何となくわかっているようだ。


俺はこれ以上話しても先に進むことは無いと思ったため、また明日話をする事を約束し、執務室を出た。

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