会話劇場Ⅲ「メンタルケア」
かなりしょうもない感じになりました。
11月12日 18時30分
××県○○市△△町□□区×××―×× 永崎順介宅
永崎 順介 雨宮 桂馬 鳩木 淳雄
鳩木「――フラれた」
雨宮「………。そうだね」
鳩木「フラれちまった」
雨宮「……うん」
鳩木「――どーしてフラれなきゃなんねーんだよぉぉぉぉ!?」
雨宮「…うわぁ、吠えやがったよ」
永崎「煩いな。しょうがないだろ?鳩木。お前が悪いんだから」
鳩木「何で!!?俺悪くねーじゃん!俺は冤罪だぁぁ!」
雨宮「いつまでその白々しい嘘続けんのさ、ポッポ君」
鳩木「嘘じゃねーって!俺、断じて浮気なんてしてねーんだよ!」
永崎「抜かせよ、この裸の王様が。それ以上うちで騒ぐと井戸に向かってお前の秘密全部暴露するぞコノヤロォ」
雨宮「マギー君、間違っているよ。それロバの耳だから」
鳩木「あのな!お前ら!俺まだ傷心中なのっ、傷心中!いわれのない罪被せられた挙句誤解も解ける隙もないままフラれたんだから、もうちょっといたわってくれてもいいんじゃねーのかよ?」
雨宮「鳩木君。君が浮気してフラれるなんて、日常茶飯事でしょうが。早乙女さんや白野さんを思い出せ。君はいつだってフラれてきたが、その度にまるでゴキブリのように復活 して次の女の子にうつつを抜かしていたじゃないか」
永崎「そうだぞ。このメンバーの中で一番恋愛経験と失恋経験が多いお前が、大した経験もない俺たちに慰めを求めるなんて、恰好が悪いとは思わないのか?」
鳩木「……お、お前ら」
雨宮「だいたい、早乙女さんと付き合ってるマギー君はともかく、未だに実年齢=彼女いない歴の僕からすれば贅沢な悩みだと思うんだよね」
鳩木「はなから彼女作る気のない奴が言う台詞かよ、雨宮」
雨宮「何言ってんの?僕だって女くらい興味ありますよ」
鳩木「おいおいおいちょっと待て、初めて聞いたぞ。お前がリアルの女に興味があるなんて」
雨宮「まぁ、僕はオタクですから、リアルの女に興味ないように見えますがね。人並にありますよ、そりゃ」
鳩木「そうなのか?風体からして二次元に嫁とか居そうな感じだけどな」
雨宮「ポッポ君、二次元の女の子に依存したって、所詮存在しないんですから、夢中になるだけ無駄でしょ?」
鳩木「………。冷めてんのなぁ」
永崎「まったく、オタクのくせに夢が全然ないな。……ん?…でもお前、女に興味あるって言う割には何組の誰が好きだとか、どこどこの女子にアプローチを仕掛けたとか、そういう話を一切聞いたことがないんだが?」
雨宮「――そりゃそうですよ。基本的に僕、女の人と恋愛はしたいですけど、女の人を一切信用してないんですよ」
鳩木「――はぁ?」
永崎「――はぁ?」
雨宮「なんですか?その心底理解できないって感じの顔は」
鳩木「いや、そりゃそんな顔にもなるぜ」
永崎「お前の恋愛感っていったいどうなってるんだ?」
鳩木「つーか、興味あるって言った舌の根の乾かないうちから何言っちゃってんの?」
雨宮「そんなにおかしいかな?だって、僕みたいな奴にアプローチとかされて満更でもないような表情をする人なんてまずいません。そもそも人と思われてないんですから。つまり僕に対して脈ありな反応をする女の人は絶対裏で何か企んでいるか打算があります。そう考えるとアプローチなんてするだけ無駄でしょう」
鳩木「……………」
永崎「………。そんなことはないと俺は思うぞ。実際にアプローチをしかけたわけじゃないんだろう?」
雨宮「確かに、実際にしたことはないよ。でもさぁ、何かわかるじゃん、そう言うのって。世間的に自分がどう見られてるかって、道歩いてればいやでもわかるよ」
鳩木「ならモテるように努力すりゃいいじゃねーか。そのボサボサの髪切ったり、服ももうちょっとマシなの着たりとかさ」
雨宮「そういうの、疲れるんだよね。だいたいそれ、他人のセンスの押し付けでしょ?素じゃない自分を演出することほど疲れるものはないよ」
永崎「………。お前そんなんじゃ、一生彼女なんて出来ないぞ」
雨宮「だから、機会があれば女の人と付き合ってみたいってだけで、機会がないならないで、全然かまわないんですよ」
永崎「消極的すぎんだろ」
雨宮「そうだけど、人の恋愛見てるとお互いに傷つけたり傷つけられたりの繰り返しですごく面倒くさそうだし」
鳩木「――オイコラ。それは俺のこと言ってのかコノ野郎」
永崎「つーかさ、雨宮。それじゃ、お前、結局女に興味無いってことになるぞ?」
雨宮「そんなことないよ」
永崎「じゃぁ、何をもって女に興味があるなんて言ったんだよ?」
雨宮「決まってんじゃん。体だよ、か・ら・だ」
鳩木「……………」
永崎「……………」
雨宮「おー、おー、引け引け。今、僕こと雨宮は一般人が聞いたらドン引きされる発言を口走っちゃったからね。大いに引いてくれ」
鳩木「心配しなくても俺のラブレターを皆の前で朗読した時から、ずっと引きっぱなしだから」
雨宮「あー、あれね。軽いジョークじゃん」
鳩木「ふざけんな!俺にとっちゃ根深いトラウマの一つなんだよっ!」
永崎「………。鳩木。それだけ吠えれるなら慰めはもういいよな」
雨宮「沖瀬さんのことはきっぱり忘れちゃったみたいだね。よかったじゃん」
鳩木「よくねーんだよ!」
11月12日 同時刻。
某ファミリーレストラン。
早乙女純 中尾由貴
中尾 「…………」
早乙女「…………」
中尾 「…………」
早乙女「あー、その……どうしたの?」
中尾 「…………」
早乙女「いやさ、ちょっと驚いてんのよ。だって由貴ってあたし個人に用があるってことなかったじゃない」
中尾 「うん、まぁ、そうなんだけど。こればっかりは純ちゃんに聞かないとわかんないことだから」
早乙女「だから、それが何なのか早く話してほしいんだけど?」
中尾 「えっと、そのさ……。鳩木君のことなんだけど……」
早乙女「?……淳雄がどうしたの?」
中尾 「うん。確か仲がよかったよね?」
早乙女「まぁ、昔付き合ってたし、今もそれなりに付き合いはあるわね。ホントは気まずくて嫌なんだけど、何かと絡んできてね。桂馬経由で」
中尾 「そうなんだ…付き合ってたんだ…」
早乙女「あれ?由貴は知らなかったけ?」
中尾 「うん、初耳だよ」
早乙女「由貴はそういう色恋沙汰疎いもんね~」
中尾 「うん。なんていうか、感覚として捉えどころがないものって苦手で」
早乙女「………。恋とかしたことないの?」
中尾 「私は少なくとも異性を見て心臓がドキドキしたことはないかな」
早乙女「………。一度も?」
中尾 「うん。変?」
早乙女「いや、変ではないけどさぁ。なーんか損してるような気がして」
中尾 「そうかな?」
早乙女「そうだよ。あたしたちは思春期真っただ中なわけだから、一度くらい恋に一喜一憂すんのが正常な気がするけど」
中尾 「それはわからないでもないけど…」
早乙女「まぁ、それはいいわ、この際。で、結局のところあたしに何の用なのよ?」
中尾 「――ずばっと言っちゃうんだけど……」
早乙女「うん」
中尾 「私、先日鳩木君に告白されちゃって」
早乙女「………」
中尾 「………」
早乙女「………」
中尾 「………」
早乙女「…………。はぁ」
中尾 「……あんまり驚かないね?」
早乙女「いや……さぁ、なんていうか…節操無いのもここまで来ると怒りを通り越して呆れるわ」
中尾 「節操?」
早乙女「あのさ、もしかしてその告白。OKしたんじゃないでしょうね?」
中尾 「いいえ。なんか急だったから私混乱しちゃって返事は後日ってことになった」
早乙女「ならよかったわ。付き合うのはやめた方がいいわ。あんたには失礼かもしれないけど、あいつはあんたに対する愛情なんてないわ」
中尾 「…どういうこと?」
早乙女「この前、浮気が原因であいつ振られたのよ。それで自暴自棄になってるのか知らんが手当たり次第に告ってんのよ」
中尾 「うわぁ。そんなことが?」
早乙女「そうよ。まりっちや歩美も言われたみたいだし。誰でもいいのよ」
中尾 「――最低」
早乙女「いいやつなんだけど、最低なんだよ、あの馬鹿鳩は」
11月12日 18時45分
××県○○市△△町□□区×××―×× 永崎順介宅
永崎 順介 雨宮 桂馬 鳩木 淳雄
鳩木「はっくしょん!!!」
雨宮「おいおい、風邪かい?移さないでくれよ」
永崎「案外誰かがお前の噂してんのかもな、鳩木」
『メールメールメール………』
雨宮「?…ポッポ君、携帯鳴ってるよ?」
鳩木「おう。…………!!!」
永崎「おいどうした?その、あと三秒で世界が崩壊するかのような表情は」
鳩木「……れた………」
永崎「……あ?」
雨宮「………??」
鳩木「鵜西川と白野と……中尾に……メールで…………振られた」
永崎「……………。おまえぇ」
雨宮「――(笑いのつぼに入って声がでない)」
鳩木「なんでだぁぁぁあ!?」
永崎「馬鹿か?いつの間にしたんだか知らないが、そんなに同時に告白なんぞしてうまくいくはずないだろうが!どんだけプレイボーイなんだよ?沖瀬さんはどこにいったんだよ?つーか、俺らに慰められる前からお前十分立ち直ってんじゃん、告白してるってことはさぁ。しかも三人!どんだけ飢えてんだよ!?数撃ちゃあたるってか、この野郎!」
雨宮「人を変態扱いする前にその節操のなさを恥じようよ、ポッポ君」
永崎「倫理観を無くしたらただの獣だぞ、てめぇ」
鳩木「………」
永崎「…………」
雨宮「……………」
鳩木「――こんちくしょー!!」
永崎「あ、逃げた」
雨宮「ほっとこうよ。何かあほらしくなってきた」
永崎「そうだな」
終わり