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03 霰弾(さんだん)乱殺者

 ロベスピエールはフーシェに任せたが、国民公会はそれだけには飽き足らず、もうひとりの派遣議員を選んだ。


「コロー・デルボワ」


 リヨンの民衆はその名を聞いた時、()()()か、という顔をした。

 コロー・デルボワは、俳優だった。

 地方巡業でリヨンで公演した時、何がまずかったのか、散々な野次を食らっていた。

 リヨンの人々は、それを覚えていた。


「これは、まずいのではないか」


 コロー・デルボワが、俳優時代のうらみを晴らさんとして、リヨンを消滅させるかもしれない。

 そう思ったリヨンの人々の動きは早かった。

 フーシェよりも早く着任したコロー・デルボワにすり寄り、あいつが悪い、こいつが悪いと、密告を始めた。


「ばかばかしい」


 コロー・デルボワはあきれた。

 密告の書状は受け取るだけ受け取り、それをそのまま、今、リヨンに向かっているフーシェに渡すように仕向けた。

 彼はこんなことをしているよりも、することがあった。

 それはいかにも劇団出身の彼らしい「すること」であった。



「シャリエの葬儀を執り行う」


 コロー・デルボワはシャリエの遺体を用いて、派手な葬儀パフォーマンスをおこなった。

 シャリエこそ革命の殉教者であり、この殉教者を死に至らしめた蒙昧なる者たちに、思い知らせてやる、と。


「リヨンの奴らめ、せいぜい怯えるがいい」


 コロー・デルボワは、これで野次への意趣返しはできた――そう思った。

 あとは、兵を連れて来るフーシェという「ロベスピエールの取り巻き」が革命裁判所を設置し、そこで仕事をすればいい。

 そういう認識を抱き、コロー・デルボワは、さてリヨンの記念柱――「リヨンは自由と戦いを交えたり――リヨンはもはやあらず」を作るかと、石屋に向かった。


 この時点で、コロー・デルボワはパフォーマンスに終始していた。

 彼とて、クートンのように、リヨンを消滅するのは無理があると思っていた。何しろ、兵はフーシェが率いている。だから手元には兵がない。

 ゆえに、派手なパフォーマンスをして、いかにも国民公会の議決に基づいてやっている、という風にしつつ、意趣返しをして、それで終わらせようと思っていた。


「これから来るフーシェが何をしようが、それはそれでかまわん。おれはもうおれの『すること』をした」


 そううそぶいて、コロー・デルボワはみずからの手によって国民公会の議決内容を着々と進めている、と報告書を書いて送った。

 一方その頃リヨンに到着したフーシェは、そのコロー・デルボワが手つかずで放置していた山――密告の書状の山を見た。

 フーシェはその山のてっぺんにある一通を手に取ると、「ふむ」とうなずき、連れてきた兵たちに、革命裁判所の設置を命じた。



 その日、コロー・デルボワは、フーシェから、叛乱にかかわった者たちを処刑するから、命令書に署名をと求められた。

 テロー広場でのギロチンかと思ったが、ちがった。


「ローヌ川の河原だと?」


「そうだ」


 それは演出的にはどうかと思ったコロー・デルボワだが、しかしギロチンの刃を洗う必要もあろうと思い直し、命令書に署名した。


市民シトワイヤンフーシェ、実際の処刑の命令を下すのは私にやらせてくれないか」


「かまわんが」


 コロー・デルボワは、フーシェが革命裁判所にこもって、ひとりひとり裁いているのを知っている。

 だからこそ、「親切で言っている」という風を装って、()()()をやってはどうかとうながした。


「こういうのはこのコロー・デルボワの十八番だ。君は目立つのは嫌いだろう?」


「そうだな」


 フーシェがうなずき、去っていくと、コロー・デルボワはほくそ笑んだ。

 反革命の者たちを処刑するのは、革命政府として、やらなければいけないことだ。

 ならばそれを演出して、実行して、「コロー・デルボワはやっている」と思わせておけば、国民公会にも受けが良くなる。

 ……この時、コロー・デルボワはそう考えていた。

 だが、処刑場であるローヌ川の河原に着くと、そのような軽い考えなど吹き飛ばすほどの、重い意志があった。


「大砲?」


 新兵たちが教本を読みながら大砲を操作していた。

 コロー・デルボワが着くと、みな一斉に敬礼で出迎え、そしてまた操作に戻った。


「コロー・デルボワ派遣議員どの」


 コロー・デルボワは、最初、自分がなぜ呼ばれているのかが気づかなかった。

 これは、何だ。

 新兵の大砲の演習にでも呼ばれたのか、自分は。

 そう思っていると、大砲の砲口が――大勢の人の()()に向かっているのに気がついた。


「え,おい、これ、何」


 役者出身のわりには、芸のない発言だった。

 それだけ、芝居ではない、圧倒的な現実が、コロー・デルボワの眼前にあった。


「コロー・デルボワ派遣議員どの」


「それは、さっき聞いた……何だこれは!」


 今度こそ役者らしく、振りかぶってコロー・デルボワは問うた。

 だがその軍人は――彼だけは新兵ではなく、経験のある、指揮官だった。 


「これは……罪人の処刑と聞いております」


 軍人は淡々と答えた。

 これなら、新兵の()()にもなるから、やれと言われたと。

 誰に言われたかは、言うまでもない。

 唖然とするコロー・デルボワに、軍人はさらに、号令をするよう求めた。


「すでに命令書はいただいていますが、やはり派遣議員どのが現着されましたら、目の前で、声を出して」


「そんなことはわかっているッ」


 フーシェは何を考えているんだ。

 何でこんな方法で。

 ところがその疑問には、軍人が答えた。


「あまりにまだるっこしい、と」


「……あ?」


 間抜けな声と表情で、コロー・デルボワは反応した。


「ですから、フーシェ派遣議員どのが、ギロチンでは――ひとりひとりでは、あまりにまだるっこしい、と」


 生気が失せたような顔をしたコロー・デルボワは、力無く号令を下した。

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