02 派遣議員
しかし、国民公会がリヨンに派遣したジョルジュ・クートンは、ロベスピエールの側近という鳴り物入りにもかかわらず、ぬるい処置に終始した。
「あの建物の瓦をはがせ」
「この家の壁を槌でたたけ」
などと言って、それによって、リヨンを破壊したということにした。
「意外と厳しくないな」
リヨンの人々は消滅させるなどというのは、はったりかと胸をなでおろし、だんだん国民公会を嘲弄し出した。
「腰抜けではないか」
「ヴァンデやトゥーロン、それにオーストリアにやられているらしいからな」
この時点で、革命政府は苦境にあった。
対内的にはヴァンデやトゥーロンが蜂起していて、対外的には第一次対仏大同盟が結成され、オーストリアだけでなく、イギリス、スペイン、サルデーニャも敵に回っていた。
こうなると、王党派の都市であったリヨンもまた、情勢次第では盛り返す目が出てくる。
「国外とのコネはないか」
「国内でもいい、ヴァンデやトゥーロンと連絡を」
「トゥーロンの方だ、川でつながっている」
蠢動するリヨンに対し、クートンは何もしなかった。
というより、何もできなかった。
この時すでに、軍はトゥーロンに向かっており、手元にいない。
反革命的な動きがあっても、鎮圧することはできない。
リヨンの王党派もかなり巧妙にふるまっており、にわかに証拠は見つけられなかった。
「仕方ない」
クートンはそう零した。
兵がなく、ほぼ単身でかつての敵地リヨンにいる。
過激な弾圧などして反発を招いてどうするか。
「そこまでしろと言うのなら、ぜひ交代させてくれ」
そのような趣旨の書状に接したロベスピエール―― 当時、公安委員会で主導的な立場にあった――は、「では、言うとおりにしよう」と呟き、ある議員を差し招いた。
その議員は、痩せぎすで、青白い顔をしていた。
「フーシェ」
ロベスピエールはかすれた声で、生地アラス以来の友の名を呼んだ。
フーシェは、自分が呼ばれたのかがわからなかったのか、しばらくじっとロベスピエールを見つめていた。
「来てくれ、フーシェ」
そこで初めてフーシェはその猫背の背を、ほんの少しだけ伸ばして、ロベスピエールの執務卓の前までやって来た。
「何か」
「リヨンに行ってほしい」
「リヨン?」
フーシェは小首をかしげた。
悪魔めいて見えるそれは、ロベスピエールのいら立ちを誘った。
「解放市のことだ。体裁を取りつくろうな」
ロベスピエールが卓を叩くと、静まり返ったが、フーシェはどこ吹く風だ。
ロベスピエールの苛立ちは募る。
「威勢のいいのは結構なことだ、市民ロベスピエール」
「体裁を取りつくろうなと言ったろう」
ロベスピエールの蟀谷がぴくぴくと震える。
周囲はあわてふためく。
フーシェは、この雰囲気を作り出した男が、それは何でもないことのように、言葉を発した。
「新兵だけでいい」
ロベスピエールには、いったいこの男は何を話しているのかと首をかしげたが、やがてそれがリヨンに行くにあたっての条件だということに気がついた。
「ぬるい処置ではご不満なのだろう? では、酷熱の処置をしてやろうではないか。そのために新兵でいい、兵を出してもらおう」
「それは」
これには同席していたラザール・カルノーが反応した。
彼は革命政府の軍事の最高責任者である。
「祖国は危機にあり」と称し、国民皆兵を施行して、フランス軍の再編成に取り組んでいる最中である。
「待ってくれ」
たとえ新兵とはいえ、取られるのはきつい。
だがその言葉は、発せられる前にロベスピエールによってさえぎられる。
「よかろう、フーシェ」
ロベスピエールは軍事に疎いが、されどここでフーシェに兵を与えないと、革命が破綻する。
この生来の革命家は、それを理解した。
「だが失敗は許さん。かならず、リヨンを解放しろ」
「わかった」
何と恐ろしい肯定だろう。
カルノーはわけもなく、そう思った。
そしてのちに、この時感じた恐ろしさは、間違っていなかったことを知ることになる……。




