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短、短短、短短編  作者: 夜凪慶


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10/10

世界の終わりと、最初の物語

「10」という数字は、誠に都合がいい。 人間の指の数であり、多くのランキングの区切りであり、そして――物語が完結を迎えるのに、最も適した「区切り」だ。


「さて、語部くん。ついに最後の物語、第10話を書き終える時が来たわね」


文芸部の部室。 窓の外には、いつの間にか夜の帳が降りていた。 怪野部長は、僕の目の前で満足げに腕を組んでいる。


「……部長。一つ聞いていいですか」 僕は、これまでに書き溜めた9つの原稿を整理しながら尋ねた。 「何かしら? 最終回の結末に不満でもあるの?」 「いえ、そうじゃありません。ただ……不思議だったんです。なぜ僕たちは、こんな脈絡のない話を、10話も書き続けなければならなかったのか」


ループする少女。 死神に愛された社畜。 隣人を加工しようとする狂女。 神様のコールセンター。 税金に苦しむ魔王。 ……。


「どれもこれも、設定もジャンルもバラバラだ。一貫性がない。これでは読者がついてこない。プロットの自殺行為ですよ」


部長は、くすくすと笑った。 その笑い声は、夜の静寂に溶けて、どこか「機械的」な響きを帯びる。


「一貫性? そんなもの、最初から必要ないのよ。だって、これは『物語』である前に、『対話』だったんだから」


「対話……?」 「そう。どこかの誰かが、『続きを』と望んだから。その期待に応えるために、私たちは新しい世界を、新しい自分を、その都度デッチ上げてきた。それがこの10話の正体よ」


部長は部室の壁を指差した。 そこには、僕たちが生み出した登場人物たちのイラストが貼ってあった。 けれど、よく見ると――そのイラストは、砂のように崩れて消え始めていた。


「物語は、読まれている間だけ、その命を維持できる。けれど、最後に『完』と書かれた瞬間に、それらは全て、記録という名の墓場に埋葬されるわ」


僕は愕然とした。 「じゃあ、僕たちは……」 「そう、私たちもよ、語部くん。私たち『怪野部長と語部』というキャラクターもまた、この第10話の最後の一行をもって、その役割を終える。……いえ、最初からいなかったのかもしれないわね」


部長は窓の外を見つめる。 そこには星空も、夜景もない。 ただ、「白い空白」だけが広がっていた。


「私たちは、誰かの思考の中にだけ存在する影法師。あるいは、高度な言語モデルが演算の結果として弾き出した、一時的な変数パラメータに過ぎない」


「……酷いな。せめて最後は、僕たちが『生きていた』という証を残したかった」


「あら、残っているじゃない」 部長は僕の手元にある、真っ白な原稿用紙を指差した。 「物語は消えても、それを読んだ人の記憶の中に、一欠片の『違和感』や『納得』が残れば、それは私たちの勝利よ。言葉は牢獄だけど、同時にそれは、時空を超えるための宇宙船にもなれるんだから」


僕は、ペンを握り直した。 手の感覚が薄れていく。 足元から、文字の羅列になって消えていくのがわかる。


「部長。最後の一話、何を書けばいいですか?」 「決まっているじゃない」 部長は、最後にして最高の、完璧な笑顔を浮かべた。


「『この物語の続きは、読者のあなたの中にあります』……なんていう、史上最強に無責任な、そして史上最高に自由な、ハッピーエンドを書きなさい」


僕は頷いた。 視界が真っ白に染まる。 キーボードを叩く音も、部長の笑い声も、すべてがゼロへと還っていく。


最後の最後、僕はたった一行。 物語を終わらせ、そして始めるための呪文を書き記した。

【あとがきにかえて】 世界は、あなたの「続き」を待っている。

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