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狂気の後

 革命軍。


 マシューがその一員だったのは五年前の話だ。


「仕事に行くのだるいなあ」マシューは工場に向かいながら独り言をこぼした。


 革命が成功し勝利に酔えた時間は短かった。以前からサダゴ国を狙っていた大国が国が混乱している間にと攻め込んできた。


 しかし大国の思惑に反し正規国軍となった革命軍は善戦した。もう二度と王権による横暴を許したくないと大国へ徹底抗戦した。そのおかげで二年におよぶ戦争は終了したが、革命、戦争と度重なる戦いのため復興の歩みは鈍かった。


「ナルプタス国での生活を捨て母国の革命に身を投じたなんて格好つけてるけど、左足を駄目にしてどん底の生活してるなんて自分のこと賢いって思ってたけど、どんだけ大馬鹿なんだよ」


 思い返すと勢いだけで突っ走った馬鹿でしかなかった。


「でも革命楽しかったんだよな」


 マシューの家族はサダゴ国からナルプタス国へ移住し、サダゴ国出身の移民が多く住む地区で暮らしていた。そこで一足先に移住していた幼馴染み一家と再会した。


 同い年の幼馴染みには年の離れた兄がいた。幼馴染みの兄は移住せずサダゴ国に残り革命のために活動していた。幼馴染みはナルプタス国で仲間を作るよう兄から指示を受けマシューを誘った。


 王や貴族の横暴を許すなと正義を叫び、困っている人を助け自分達の活動に参加しないかと味方に引き入れ、不正を暴くと悪名高い貴族の屋敷を襲撃し、投獄された仲間を救う工作をした。


 治安維持隊に追いかけられたが捕まらなければただの追いかけっこだ。そして命がけという刺激が気持ちをかきたてた。


 仲間が増え自分達の勢いが増すのを肌に感じながら敵を潰していく。これまでにないほどの楽しさだった。


 革命は成功した。国の英雄だ、輝かしい歴史を作ったと浮かれ、その勢いのまま大国との戦争に突入した。


 革命軍として戦った自信は何の役にも立たなかった。軍という名称はついていたが革命軍は軍人として訓練を受けた集団ではない。数と勢いで王権を倒しただけで戦争で本格的に戦う技術などなかった。


 戦わなければ死ぬ。死にたくないので戦った。その戦いでマシューは左足を負傷し足を引きずることになった。もうタップダンスのステップをまともに踏むことはできない。


 革命と大国との戦争で生き残った戦友たちはそれぞれの故郷へ帰って行き、マシューをサダゴ国の革命に引き入れた幼馴染みもナルプタス国へ帰った。


 一緒にナルプタス国へ帰ろうと言われたが足を引きずる姿を家族に見せたくなかった。ナルプタス国にいる家族には無事だとしか知らせていない。足については会う機会があった時でよいと隠していた。


 家族はマシューが革命活動に関わることを反対した。両親がまだ若い頃に革命騒ぎがあり、その時は上手くいかず首謀者や協力者が処刑された。失敗すれば命がないと何度も繰り返し言われた。


 しかしマシューはナルプタス国で集まった同志との活動がおもしろく、革命がどういったものなのか何ひとつ分かっていなかったがスリルを味わえると楽しんでいた。それに失敗をしたらナルプタス国にさっさと帰ってくればよいと軽く考えていた。


「あいつにこんな姿見せられるかよ」


 タップダンスの相棒だったサミュエルに自分の情けない姿を見せたくなかった。


 サミュエルは家族に負けないほどマシューを引き留めようとした。


「どうして? どうしてなの? 僕に言ったじゃないか。この国に来たのは母国でのみじめな生活から逃れるためだったと。母国に未練はない、俺の母国はこの国だって言ったじゃないか!


 それに革命に参加してもお金にはならないんだよ。マシューはお金大好きだよね? そんなお金にもならないことやるなんてマシューらしくない。


 危なすぎる。死ぬかもしれない。マシューに死んで欲しくない。ずっと一緒にマシューと踊りたい。二人で天下をとってテミルスの舞台で踊ろうって約束したじゃないか。


 君の踊りの才能は革命のためにあるんじゃない。人を楽しませるためにあるんだ。お願いだから活動をやめて欲しい」


 泣きながらマシューを止めようとしたサミュエルの姿を思い出す。あの時はそのようなサミュエルをうっとうしいとしか思わなかった。


「何を考えてたんだろうな、あの時の俺。そもそも俺って何も考えてなかったよな。革命って言葉がなんか格好いいってだけだったし」


 マシューは革命だと盛り上がっている気持ちを下げるサミュエルに会うのを避けたのでサダゴ国へ向かう日も教えなかった。それでもサミュエルはマシューが出発した日に遠くから見送っていた。


 もともと生まれも育ちも違うサミュエルとは交わるはずのない道が交わっただけで、マシューがあのままナルプタス国にいたとしてもお互いの道は別れただろう。


 子供の間のお遊びとしてサミュエルは踊ることを許されていただけだ。大人になれば家柄にふさわしい行いを求められ踊りから足を洗ったはずだ。


 工場に着くと掲示板の前に人が群がっていた。何があるのだろうと近付くと映画のポスターが見えた。


「……サミュエル。なんでサミュエルが」


 ポスターはサミュエルが女性と踊っているものだった。


 サミュエルがタップダンスを続けていたことや映画にでるほどになっていることにおどろいたが、それよりも自分以外の相棒と踊っていることに怒りがわいた。裏切りだ。


 マシューはサミュエルのポスターに背を向けると足早に持ち場へ向かった。

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