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プロローグ

 父はきっと、誰が見ても立派な人だったと思う。

 そして、それは実感としても変わらなかった。

 母が亡くなってからは、家業である冒険者ギルドを運営しながら、男手一つで自分たち兄妹を育ててくれた。


「無理に冒険者になる必要はない。お前には私よりも才能があるのだから、後腐れなく騎士になりなさい」


 父はそう私に言い聞かせた。

 騎士は魔法種にとって花形の職業だ。

 それは魔物から人類を守護するための要の存在だからだ。

 歴史上に魔物が出現してから時代も移ろい、魔物の脅威はかつてほどではなくなっている。

 とはいえ、脅威は依然として存在し続けている。

 だから人類にとって騎士が重要な存在であることには変わりがなく、冒険者ではなく生活も安定する騎士になることを父は薦めたのだと思う。

 そうした影響もあって、中学を卒業すると地元を離れ、首都の騎士学校へと進学した。


 騎士学校の訓練は評判通り厳しく、熾烈だった。

 地元では負け知らずだった自分も、井の中での話に過ぎなかったことを思い知らされた。

 その中でも貴族出身の者は別格の強さを誇っていた。

 魔法種であれば、血を遡れば必ず貴族の血族に行き着くけれど、長年育まれた血統が違ってくれば、魔法種としての強さも変わってくるのであった。

 そういった環境で、慢心していた強さは更に磨かれていった。


 騎士を目指した理由――強さに憧れがあった。そして父の話もあった。


 だが、それ以上に、本当の意味で父の影響が強かったからだと考えている。

 父の思惑とは矛盾するようだけれど、実家である冒険者ギルドの存在が大きかったのだ。

 幼き頃、冒険者ギルドで見上げた大人たちは、どんな困難をも跳ね返しそうな屈強な人たちの集まりに映った。

 自信に満ち溢れた身のこなしと逞しい後ろ姿。

 幼い頃にはとてもキラキラとした宝石のように眩しく映った。

 それは歳を重ねて背が高くになるにつれて、現実はそこまで輝いたものではない泥臭いものだと知るのだけれど、それでも胸に抱いた憧れや魅力は変わらなかったのだ。


 だから、騎士になることを決めたのだった。

 騎士は一端の冒険者とは比べものにならないほどの無条件の信用とブランド力を持つ。

 そして、そこで磨かれる強さは冒険者にも必要なものだ。

 元騎士が冒険者ギルドの長となればステータスにもなり、評判が上がることは間違いないことだろう。

 そういう打算も含めた人生プランだったのだ。


 それが想定よりも早く目的地へと訪れてしまった。

 喜びなんてものは当然なく、蔓延る汗の染みた思い出が、栓の外れた蛇口のような勢いの悲しみで塗り潰されていく。


 小雪が舞う、真っ暗な夜。

 バスターミナルに降り立つと、街灯だけが薄っすらと濡れた地面を照らしていた。

 久々に帰った地元は、寂れ、人の気配も希薄だった。潮風が頬を撫で、肌を切るような寒さに、感傷に浸る余裕もなかった。


 そこからは、怒涛の数日を機械的に処理するだけだった。

 事情を知る者に説明を受け、訪れた者へと挨拶を続ける。合間にとる食事も、砂を噛むようだった。

 すすり泣く声、あれだけ立派な体躯であったのに左腕が千切られて無惨な姿となった父の亡骸。

 棺桶に注がれた視線。

 死に化粧で彩られてるけれど、精気がすっかり抜けて寂しく映る。


 最後に固くなって気を抜けば折れてしまいそうな右腕を手に取り、随分と小さくなった父の頭に手をやる。最後にその生き様を肌で感じとる。そして、棺を閉じる。


「最後は、自分で火を点けるかい? 辛いなら、無理しなくてもいいけど」

「いえ……最後なので、自分で点けます」


 レイは、ゆっくりと手を伸ばす。

 指先に宿る魔法が、揺らめく灯を生む。

 それを、棺に落とす。

 ちらちらと落ちた炎は舌を伸ばし、ゆっくりとビチビチと音を立てながら燃え広がっていく。

 やがて、火葬場の煙突から、黒い煙が昇った。


 ――そうして、レイ・ディガードは、若干一七歳にしてギルド長となった。

最初は男臭い話が続きますが、途中から可愛い女の子が増えるので、それまではお付き合いいただければ幸いです。

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