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魔王様の知られざる戦い 第一話

この度はお世話になります。




拙作が、貴方のひと時を彩るものになりましたら




光栄至極でございます。




どうぞごゆるりと、おくつろぎ下さいませ。





王様

「勇者よ。

 これまで多くの戦士たちが、魔王に戦いを挑んだが、

 生きて戻った者はいない。

 魔王を打ち倒し、世界に平和を取り戻してくれ!」




勇者

「王様、私にお任せ下さい。

 必ずや魔王を打ち倒してみせましょう!」












一方その頃、この魔王城では、

水晶玉からその様子を見守る魔王様がいた。




「ようやく、勇者の旅立ちの時が来たか。

 我も、支度をせねばならぬな」




魔王様は、なぜか嬉しそうだ。

魔王軍参謀である私の見間違いでなければ、

今にも小躍りしそうな程、ウキウキしている。




「魔王様、非常に申し上げにくいのですが…」




魔王軍四天王の一人、炎のボルケイノが

口を開いた。口を開くと、炎が吹き出る。




「いまの勇者のレベルは1。

 我ら四天王にご命令下されば、

 簡単に討ち取れるのでは?」




ごもっともな意見だ。

しかし、長年魔王様に仕えてきた参謀の私には、

魔王様のお考えがよく分かる。




「ボルケイノよ、それではアンフェアではないか」



「…は?」




魔王様は、ボルケイノの意見を一蹴(いっしゅう)した。




「我ら魔王軍は、いまの勇者では到底敵わぬ

 魔族の一大軍勢である。

 ボルケイノよ、貴様のレベルを申してみよ」



「レベル25ですが…」



「レベル1の勇者と、レベル25のボルケイノ。

 一戦を交えれば、生まれたばかりの赤子を、

 一流の戦士が叩き潰すようなものであろう」



「仰る通りでございます」



「戦いとは、信念と信念のぶつかり合いである。

 力による一方的な破壊は、戦いとは呼ばぬ」




魔王様は、フェアな戦いを好む。

その為、敵であるはずの勇者を利するような

行いをする事もしばしば。




「魔王軍参謀・ジーニアスよ。

 勇者の最初の目的地を調べよ」



「私の感知によると、

 始まりの王国の東にある平原に向かう様です。

 その先にある港町にて仲間を募り、

 我ら魔王軍の各地の拠点に向かうものかと…」



「空間転移の術式を使い、これより平原に(おもむ)く。

 ジーニアスとボルケイノは、我に同行せよ」



御意(ぎょい)




魔王様とボルケイノ、そして参謀の私は

平原に飛んだ。







ここは平原。

始まりの王国での旅支度の後、勇者はここを通る。




魔王様が、手早く作業に取り掛かる。

またか…

私には、魔王様が何をしているのか

すべて分かっていた。

炎のボルケイノは、首を(かし)げている。




「魔王様、これは…

 なるほど、勇者を叩くための

 罠を仕掛けられているのですね」



「違う」



「…は?」



「宝箱の設置だ」



「……は?」




先程、魔王様が勇者を利する行いを

する事があると述べたが、

それがこれである。




「ここには、野良モンスターが多く生息する。

 レベル1で、まだ仲間のいない勇者が

 この平原を抜けるには、困難が伴う」



「はぁ…」




ボルケイノは、納得のいかない様子。




「それに加えて、始まりの王国より支給される

 軍資金は、たったの100Gである。

 これでは、薬草を数個買うか、

 粗末な武器防具を買うだけで精一杯。

 強い武器を買う余裕など無いのだ」




魔王様のお言葉が、次第に熱を帯びる。

ボルケイノのため息が、

平原に生える野草を焼いているが、

それよりも熱さを感じる程だ。




「この平原には、

 店売りの武器よりも一段階強い『銅の剣』、

 そして、薬草を3点ほど忍ばせておいた。

 これらがあれば、勇者も平原を越えられよう」



「魔王様。

 我ら魔王軍が、勇者を手助けする必要は

 無いのでは…」




ボルケイノよ。私も魔王様に進言した事はあるが、

魔王様には通用しないのだ…




「勇者が、こんなところでやられてしまっては、

 我の元へ来る事が出来ないではないか。

 か弱き勇者が、野良モンスターなんぞに

 やられてしまっては困る!」




魔王様は、宝箱を設置し終えた後、

仕上げの作業に取り掛かった。




「魔王様、これは…

 何をなさっているので…?」



「セーブポイントの設置だ」



「…は?」



「勇者が、万が一やられてしまった場合、

 このセーブポイントに予め記憶を残していれば、

 復活する事が出来るのだ」



「……は?」



「この先には、我が配下である

 平原の主・スライムキングが出現する。

 勇者も苦戦必至の強敵。

 このセーブポイントは、勇者がやられた時の為。

 いわば保険なのだ」



「………は?」




ボルケイノが口を開く度に、平原は焼かれ、

いつしか焼け野原になってしまった。




「ここでやるべき事は完了した。

 これより魔王城に帰還する」



御意(ぎょい)







魔王城に帰還した魔王様とボルケイノ、

そして参謀の私は、水晶玉をのぞき込み、

勇者の旅路を見守っていた。




「魔王様、勇者が平原に入りました」



「うむ」




勇者は、平原に生息するスライムの群れを

倒しながら、先に進んでいく。

やがて、魔王様が設置した宝箱の前で

立ち止まった。




「なぜ、こんなところに宝箱が?」



ごもっともである。



「勇者よ、宝箱を開けるのだ」




魔王様は、勇者の一挙手一投足を

固唾(かたず)を飲んで見守っている。

一方、平原にいる勇者は、無造作に置かれた宝箱に

疑いの眼差しを向けていた。




「モンスターの罠かもしれない。

 触れない方が良さそうだ」




勇者は、宝箱を開ける事なく

その場を離れようとしている。




「………やむを得ん!」




魔王様は、椅子から立ち上がり、

水晶玉に手をかざして、呪文を唱えた。




ー勇者よ、宝箱を開けるのですー



「なんだ!

 頭の中に声が響く…!」



ー私は、運命を司る女神ー

ー勇者よ、宝箱を開けるのですー




勇者は、恐る恐る宝箱を開いた。




「この剣は?」



ーこれは『銅の剣』ー

ー平原を越えようとするー

-勇者の助けとなるでしょうー



「運命の女神様、ありがとうございます」



ー勇者の旅路に、幸多からん事をー




魔王様は、再び椅子に腰掛けた。




「危ないところであった」



何がだ。



「我の働きが、無に帰するところであった」




炎のボルケイノは、呆気にとられていた。



四天王の中でも、新参者のボルケイノには

まったく理解出来ないだろう。



これが、魔王様なのだ。




運命の女神、もとい、魔王様の導きにより

銅の剣をその手に携えた勇者は、

順調に平原を進んでいく。




道すがら、魔王様が設置した他の宝箱も開き、

薬草を手に入れたようだ。




平原の最奥部まであと少し、というところに

まぶしい光を放つものがあった。




「これは何だろう…?」




魔王様が、再び水晶玉に手をかざす。




ー勇者よ、これはセーブポイントですー



「セーブポイント?」



ーこの先には、強敵が待ち構えていますー

ーこのセーブポイントに、記憶を残すのですー

ーもし、貴方がやられてしまった場合ー

ー記憶を残しておけば、復活する事が出来ますー



「そんな事が出来るのか…!」



ーセーブしますか?ー



→はい

 いいえ



ーセーブしましたー




勇者は、平原の最奥部にたどり着いた。

ただならぬ気配を感じ、剣を構える。

平原の主・スライムキングが出現した。



勇者は、剣を強く握りしめ、

スライムキングに斬りかかる。



スライムキングも、

その巨体を利用し、勇者に体当たり。



平原を進む間にレベル3になった勇者と、

平原の主・スライムキング。

その激しい攻防は、ほぼ互角の戦い。



そんな中、スライムキングは一計を案じた。

配下のスライムに、勇者の背後から

襲いかからせたのだ。




「なんという卑怯(ひきょう)な事を!」




魔王様は激昂(げきこう)した。

魔王城にいるすべての魔族が、

その剣幕に恐れおののいている。

魔王軍の最高戦力である、四天王さえも。




不意を突かれた勇者は、

スライムキングとスライムの群れによる

挟み撃ちに合い、やられてしまった。




魔王様がいた方をふと見ると、

そこには椅子しかない。




「…魔王様は何処(いずこ)へ?」




私は、配下の魔族に声を掛ける。




「平原に(おもむ)かれた模様です…」




思わず水晶玉をのぞき込むと、

そこには、スライムキングに説教をする

魔王様がいた。




「魔王軍の風上にも置けぬ行い!」

「なんたる非道!!」

「この愚か者が!!!」

「恥を知れ!!!!」




魔王様の怒りの咆哮(ほうこう)

大地を揺らし、

風を(ふる)わせ、

天を暗雲で(おお)い、

雷鳴を(とどろ)かせる。



スライムキングは、あまりの恐怖に

その身を振るわせていた。

スライムキング配下のスライムたちは、

岩陰や草むらに身を隠し、

事の成り行きを恐る恐る見守っていた。




「二度は言わぬぞ!

 分かったな!」



「魔王様、申し訳ございません…」




魔王様が説教を終えると、

平原は普段の様子を取り戻した。




魔王様が、魔王城に帰還した。




「魔王様、お帰りなさいませ」



「うむ」




暗黒の衣に身を包む魔王様の表情は、

赤く光る瞳しか見えなかったが、

いまだ冷めやらぬ怒りは、

ひしひしと感じられた。



魔王様は、魔王の間の椅子に腰掛け、

城内にその声を(ひび)かせる。




「魔王軍・全配下に告ぐ!

 今後、我ら魔王軍と勇者の戦いに()いて、

 残虐・非道な行いを()し、

 魔王軍としての誇りを汚す者がいたら、

 我が、直々(じきじき)に裁きの鉄槌(てっつい)を下す!」




ピシッと張り詰めた空気が、

魔王城内を覆い尽くしていた。




魔王様は、再び水晶玉に目をやり、

セーブポイントから勇者が復活するのを待った。



程無くして、セーブポイントが大きく光り輝き、

勇者は復活した。




「ここは…?」




復活した勇者が、周りを見渡す。




「そうか。

 僕は、モンスターにやられてしまったのか」



「勇者よ、貴様は悪くない」




魔王様は、静かに呟いていた。




勇者は、平原の最奥部へと進み、

再び、スライムキングと対峙した。




勇者の剣さばきが、スライムキング配下の

スライムたちを一閃にて打ち倒し、

スライムキングの捨て身の攻撃が、

勇者を追い詰める。




一瞬の静寂、次の一撃で勝負が決まる。




勇者とスライムキングが、同時に動き出す。

スライムキングは、勇者めがけて突進。

勇者に、最後の一撃を加えようとしたが、

それよりも僅かに早く、

勇者の渾身の一撃が、スライムキングを貫いた。




勇者は、スライムキングを倒した!




「双方、見事な戦いであった」




魔王様は、戦いに勝った勇者と、

勇者に敗れたスライムキングを称えていた。




魔王様はゆっくりと立ち上がり、

手を合わせて、何か口ずさみ始めた。




炎のボルケイノが、私に声を掛けてきた。




「参謀殿、魔王様は何をなさっているのです?」



「あれは、復活の宣告だ」



「復活の宣告…?」



「勇者との戦いで、スライムキングをはじめ、

 魔王軍の配下の者たちが散っていった。


 復活の宣告は、魔王様と勇者の戦いが決した時に、

 戦いで散った者たちを『現世に呼び戻す』という、

 歴代の魔王様より代々伝わる秘術なのだよ」



「…!!」




魔王様が、勇者との戦いに正々堂々と挑み、

時に、勇者を利するような事をなさるのか、

参謀である私には分からない。


しかし、いかに弱小な魔族であろうが、

強大な魔力を持った魔族であろうが、

等しくその慈悲を注いで下さるのが、

魔王様である。




「勇敢に戦った我が配下の者たちに、

 しばしの安らぎを…」




魔王軍参謀である私・ジーニアスの知略は、

我らが主君・魔王様のために。




港町にたどり着いた勇者は、宿屋に宿泊。

夜が明けた後、戦士・僧侶・魔導士を仲間にした。




「ジーニアスよ。

 勇者の次の進路を指し示すのだ」



「私の感知によれば、勇者一行は船に乗り、

 西部大陸の商業都市を目指しています。

 

 商業都市の北の『地獄の火山』を越えた先にある、

 炎のボルケイノ殿の居城『獄炎城』に

 向かっているようです」



「ボルケイノよ。

 獄炎城に戻り、勇者一行を迎え撃つのだ。

 抜かるでないぞ!」



「魔王様の仰せのままに」







最後までお読み下さりありがとうございます。




気まぐれな性分ですので、続きは何時になるやら、




果たして書くのかどうかも分かりませんが、




お声をいただけると励みになります。




またお会いしましょう。

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