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円居の歌  作者: 初雪
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らんの帰還(六)


 鳥の広場はそれほど川から離れていないところにあった。なんということはない窪地で、雨水が溜まったような浅い池が二、三こぢんまりとあるばかりであったが、確かに名前の通り、水を求めて多くの鳥が訪れるらしい。姿の見えるものも葉陰に隠れているものも、あちこちで囀ったり羽を震わせたり、賑やかな気配がする。


 娘が橋から森の方を眺めていたときは、どこもかしこも木々に遮られ、人が奥へ入ってゆく隙間などなかったように見えたのだが、どうしてかすんなりと此処まで辿り着いたことは不思議だった。


 先導していたはずの貴婦人の姿は既にない。娘は池の脇に脚を投げ出して座りながら彼女の姿を思い返す。彼女も傾籠と話をするために、本来とは異なる人の形で現れたのだろうか。


 一方ようやく落ち着いて座れそうな場所を見つけた傾籠は、池の水を掬って一口啜ったが、少し咳き込み「あぁ、冷たい」と愚痴っている。


「ねえ傾籠、どうして私が卵だとすぐに教えてくれなかったの?」

「きみの本能を重んじて、なるべく先入観を持たせないために。仮にきみが樹木の卵だとして、自分ではトネリコなのか白樺なのか知らずとも、陸上が自分の住処で、海中ではないことくらいは判るものなんだ。きみもいずれ思い出すだろう。いつかはね」


 傾籠は帽子を脱いで脇に置き、億劫そうに瞼を擦る。


「一休みしたら焚火でもしてみようかな」

「あのね、私、ずっと気になっていたことがあるのよ。時間が狂ったり冬が来なかったり、そんなおかしなことってよくあるの?」

「たまにあるよ、僕の個人的な感覚では。世間一般でも、長い目で見れば稀に」


 娘は首を傾げた。

「たとえば、百年に一度くらい?」

「さあ。起きないと思えば起きないし、しょっちゅう起きると感じる人も多いだろうし。きみの目にこの世がどう映っているかわからないから、僕には何とも言い難い」


 あくびをしながら傾籠が紺色の空を見上げたので、娘もつられて上を見る。


「これって束の間の夜かしら。いま、流れ星が見えた気がする」

「鳥の広場は流星群を観るのにうってつけ。隕石が落ちたようにぽっかり此処だけひらけているから」


隕石、と娘はぽつりと呟いた。言われてみれば当然のこと、観測された火球はただの流れ星でしかなく、けれど燃え尽きる前に地面へ落ちれば隕石と呼ばれる。





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