水鳥と惑う女(二)
赤い瞳の女は泣いていた。
「自分で選んだと思っていたのはとんだ勘違いだったのかもしれない。そう思うとうんざりするんだよ。いやだというより、怖い、悔しいのかもね。本当は自分以外の何かにずっと導かれていただけで、生まれてからただの一度も、あたしが自分の心で決めたことなんか、ひとっつもないかもしれないことが」
次に水鳥が彼女へ会いに行ったとき、その瞳は青から赤に変わっていた。
「あたし、死んだらリネアへ行くんだ。それはきっと最初から決められていることだけど、不思議と怖くないし腹も立たないんだよ、変なの。あそこへ行ったら、あたしはもうあたしじゃなくなるかもしれないのに。死んだ友達とまたあそこで会えるのか、あの子があそこにいるのかさえ、何にもわからないのに」
「いつかそのときが来たら、あなたをリネアへ連れてゆくのはわたし」
水鳥がそう告げると、彼女は燃える瞳を揺らしながら笑った。
「そうだったんだ。今までそんなこと教えてくれなかったじゃない」
「だって、いま気づいたから。あなたが心のまま道を進んでいると言っていたのは、こんな感覚だったのかしら。きっとそうだと思う。わたしは眠るあなたを背に乗せて、どうしてもあそこへ連れてゆきたいと強く思った。生まれて初めてわたしの願いと呼べるものが目を覚ましたよう。わたしの胸の中で、そうしたいと激しく叫び、震えている」
水鳥、水鳥よと、女は嗜めるように低い声で唸った。
「水鳥。おまえはそれがおまえの願いだと言い切れるか? 何かに惑わされて、自分以外の何かに負わされた義務や役目かもしれないと、疑うことを少しもしないのか」