1:イソノミアシステム導入
俺が施設に入って7年目、しろの園での生活に大きな変化が起こった。
しろの園は電脳技術に適応できない子供たちが共同生活を行う、政府直轄の福祉施設だ。
脳と直接情報をやり取りする電脳技術には、まれに脳と共感不和を起こすことがある。
何十万人に一人の確立で発症する電脳不適応症、症例は人によってさまざま。
そんなテクノロジーに置き去りにされた子供たちの中でも、特に重症の子供たちが入園する施設、それがしろの園だ。
例に漏れず俺、戸塚響も電脳不適応症患者の一人だ。
俺の症例は端的に言ってしまえば神経伝達疎外による歩行障害、立とうとしても神経伝達がうまく行われずすぐに転んでしまう。
杖さえあれば何とか歩行はできるが出来れば歩きたくはないのが本当のところだ、尋常じゃなく疲れるからな。
歩行障害って言えば大袈裟に聞こえるかもしれないが、通常俺ぐらいの症状であれば自宅で過ごしてもさして問題はない。
しかし、電脳不適応症由来となるとそうはいかない。
電脳不適応症の重症患者には厄介な体質があるのだ。
電脳汚染、電脳にて接続した電子機器に重大な論理汚染を引き起こしてしまう体質。
そのため政府は万が一にも電脳不適応症のガキが誤って一般の機器に接続することがないよう、しろの園という箱に閉じ込めて管理することを選択した。
言ってしまえば俺たちはテクノロジーの被害者なわけだが、割と俺はこの施設での生活が気に入っている。
黙ってても飯は三食出てくるし、建物も新設されたばかりだから綺麗だし、ネットも早い。
それに年の近い、境遇も似たような奴らと共同生活を送るのもなかなか悪くはない。
職員の人たちもいい人ばかりだしな。
ただ、一つだけ、一つだけ不満を言うとすれば…娯楽がない。
俺らが扱える電子機器は電脳接続を必要としない、テレビやラジオ、PCや液晶向けゲーム機等々…今となっては骨董品扱いのものばかり。
テレビが子守を担えたのは今は昔の話、栄枯盛衰、古来のネットゲーム群は電脳VRゲーム勢の勢いに圧され下火になっていた。
もちろん俺の足の具合から、スポーツに打ち込むってわけにもいかない。
よって俺は自室のベットでPCをいじる他なかった。
旧来の面白そうなサイトや動画サイトはほとんど更新が止まっているが、止まっているだけならまだ良くてそもそも供給元が廃業してサイトが拝めないなんてこともざらだ。
今の時代、非電脳ネットで生き残っているのは貧困世帯向けの役所のHPか非合法のアングラサイトぐらいなもんだ。
そんなゴーストタウンでも、ちょっとした手間をかけると面白いものが見れることがある。
サルベージだ。
表面上はアドレスが途切れていても、サーバーへの接続は生きていることがある。
そんなサーバーに無理やり接続することで失われる前の情報、旧来に楽しまれていた明るく楽しいインターネットが楽しめることがあるって訳だ。
少しグレーな方法だが、こんなことでもしなきゃ退屈過ぎて死んでしまう。
そんな俺たちの日常に革命が起きた、しろの園にイソノミアシステムが導入されたのだ。
イソノミアシステムとは俺たち電脳不適応症患者向けに調整が施されたゆりかご型VR装置のことだ。
この特注品を使えば俺たちでも不具合を起こすこともなくVR空間を体験することが出来る。
まあ、リハビリ用だけどな。
VR空間を活用したリハビリテーションは一般の医療現場にも普及している。
足の問題があれば転倒の危険なく歩行のイメージトレーニングが出来る、電子義足へなれるためのVR歩行訓練やトラウマへのアプローチとして催眠療法のような利用方法がされることもあるらしい。
そんな名目で導入されたイソノミアシステムは通常リハビリ用ソフトのみを起動するようフィルタリングがかけられていたのだが、官製のおざなりなシステムは俺たち超デジタルネイティブ世代の子供にやすやすと突破されてしまった。
そしてそれから毎晩、消灯時間を過ぎると夜な夜なみんなで集まって交代制でVRネットを楽しんだ。
だってそうだろ、同じ世代の子供たちがVR娯楽を謳歌してるなか俺らはそれをずっと取り上げられてきたんだ。
小鹿を前にした空腹のライオンみたいなもんだ。
そして当直の職員もそれを黙認していた、まあさすがにそれまでの俺らを気の毒に思っていたのかもしれない。
最初の方はVRネットで掲示板を見たり、動画サイトを見たりしているだけだった。
それだけでも俺らにとってはすごい刺激だった、電脳用の動画ってすごいんだぜ、匂いまで再現されてやがる。
さすがにアダルトなコンテンツには施設のIPからアクセスができないようブロッキングされていた、まあ教育に悪いので15歳未満のおこちゃまどもにはこの俺製バックドアは絶対秘密って話。
そんな日々が二か月ほど続いた後、園生の一人があるソフトを持ってきた。
SF系VRものです!頑張りますので感想等よろしくお願いします!